待ち続けている
私の前を子どもが駆け抜ける。難しい顔をした老人が口をへの字に曲げる。時折、はたきを持った青年が仕方なしに埃を払っていくが、こびりついた埃は年輪のように剥がれることはない。
かつては陽があたり、多くの目に留まる場所で触れ合うことができていたが、時間の流れは怖い。天才だ秀逸だと褒めそやされていたが、もはや手に取られることもない。
部屋の片隅で無為に時間を過ごす中、一人の少女に出会った。
その少女は親に構ってもらえなかったのか、ふてくされて私の目の前に座っていた。少女が座ったその視線の先に私がいる。
ふと目が合う。いじけて細められていた瞳が大きく見開かれた。
私に手をかけると薄く積もった埃をパンパンと手で払った。いささか乱暴な手つきではあったが、あらかたの埃を払ってもらうことができた。代わりに少女の手が薄汚れてしまい、埃を蓄えてしまったことを久しぶりに悔いた。
それでも少女は嫌な顔ひとつせずに、むしろ愛おしそうに私を手に取ってくれた。
それは久しく味わうことのなかった充足感だった。
少女は小さく呟くような声でささやいている。私に微かに聞こえる程度の小さな声だ。私を持ち上げるには細すぎるその手で、しっかりと握りしめる。付着する手の脂にさえも愛おしさを感じた。
しかし、別れはすぐにやってくる。
少女は父親らしき人に手を引かれ、名残惜しそうに私を元の位置に戻した。私に向かって小さく手を振り、その口元が「またね」と言葉を紡いだように見えたのは私の幻想だったのかもしれない。
なぜなら、それから少女と出会うことはなかった。
あれからしばらくして、私は変わらずに降り積もった埃の中にいる。周りにいた仲間たちも少なくなった。当時とは顔ぶれが変わったものの、全員に白く埃が積もっているのは同じだ。
私ももうすぐ終わりが来るだろう。静かに残りの時間を過ごしていたその時だった。
かつての青年が私を取り上げると手に持っていた布で丁寧に埃を取り払った。布で拭う手が止まると、かつての青年は目元に皺を寄せながら、小さく「懐かしいな」と呟いた。
そして私は再び陽のあたる場所へ置かれることとなった。子どもから大人まで多くの人と触れ合う喜びを分かち合うことができた。再びこの場に戻れたことを嬉しく思う一方で、腑に落ちない感情を無視することはできなかった。すでに終わりを覚悟していた私が、どうしてここに舞い戻ることができたのか。
私の隣には私と同じように陽にあたるものがいる。名前を『あの日の少女が出会ったもの』彼の帯にはこう記されていた。
『忘れられた名作が蘇る』




