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勇者登場

久しぶりですな

 家に転生してきた勇者の好物がカップラーメンなのは普通ですか?

「やっぱりうめぇなぁ」

 柑子色の麺を箸でつまんですくい口元ですする。口の中に入った瞬間、醤油の汁の味が広がる。麺の弾力は弱いがそれもまたいい。

 それもまたカップラーメンの利点だ。

 少し弱いぐらいの弾力ならば麺が伸び着る前に食べることが出来るからだ。しかも細い麺は小さい器の中にぎっしりと詰まっており、十分に腹を満たしてくれる。

 麺ばかりでなく具もいい味を出している。

 どこかのラーメン店のように野菜や肉がてんこ盛りになっていたりはしていない。

 しっかりは数えていないが正直体感的には両の手で数えれるほどしか入っていない気がする。

 だがそれがいい。

 カップラーメンという家でも食べられる手頃なラーメンでは飽きないというのが大切だ。大量にあってはそもそも手頃とは言い難い。

 あの普通に美味しい具達が小さく、そして少量しか入っていないのが購買欲をそそり、安い時に貯め買いしてしまう理由の一つだ。

 このカップラーメンを食べている瞬間の俺は何があっても食べるのをやめないだろう啜り続ける自信がある。

 はずだったのだが。

 流石の俺も…

「助けてくださいっ!」

 幻想的な光とともに出現したボロボロの鎧を纏った女の子に助けを求められたら……そりゃ……

「は?」

 ってなるだろう?




 目の前にいる女の子がヨダレを垂らしながら目をギラギラとさせてこちらを見ている。

 いやまじで比喩表現無しで。少し違うことといえばこちらを見ていると言うよりは俺の目の前にある机に置かれた伸び切ったカップラーメンなのだが。

「えーと……」

「………」

「あの……」

「………」

 返事がない。

 彼女は俺とは机を挟んで向き合って座っているが何故か正座をして両手をグーにし、それを膝の上に置いてなんとか体を止めようとしているように見える。だが少しずつ体が震えて前のめりになってきていた。

 ゴクリ…

 思わず喉を鳴らしてしまう。

 ただでさえ訳のわからない状況なのにその状況を一番分かっていそうな目の前の彼女が一番よくわからない状況になっているしな…

「…食ってみるか?」

 俺がなんとか絞り出したその声に対し彼女は少し、バッと顔を上げ面食らったような表情を俺に見せてきた。

 いや、そんな餌を待ってる犬みたいな顔されてあげないやついないだろ。

 視線を下に再び落とし数秒の間マジマジとカップラーメンを見る。

 俺もつられてみてみるとやはりそこには伸びきったラーメンがあった。

 今まで色々なトラブルでラーメンを伸ばしてしまったことは何度かあるが正直伸びきってしまったラーメンは美味しいものではないと思う。

 汁を吸いすぎてしまいただでさえ弱い弾力が一切なくなり、なんというか言葉では表せない酷いものになってしまう。

 だがそんなラーメンを彼女は好奇心の目で見つめている。

 彼女はマジマジとみるのをやめ小さくコクリと頷いた。

 俺はそれを確認すると俺の近くにあった裸の割り箸とラーメンを彼女の目の前へ移動させた。

 だがすぐには食べない。

 やはり、と思った。

 彼女は箸の使い方がわからないようだった。

 先ほどと同じ場所にあった割り箸を手に取り彼女にジェスチャーを試みる。

 両手で箸を持ちパキッと2つに割る、という箸が勿体無いのでジェスチャーをしてみた。

 彼女は少し困惑していたが俺の真似をして割り箸を割ることに成功した。

 次にそれの持ち方を教えようとしたがそうする前に不器用に箸を使いラーメンを食べ始めてしまった。まるで子供が初めて箸を使った時のような使い方だ。

 今からでも箸の持ち方を教えようとしたが流石に難しいかと考えやめておいた。

 伸びきってしまったラーメンのせいか彼女の箸の使い方のせいか、麺はボロボロと崩れてしまいなかなか口まで運べていない。それでも必死に口に運ぼうとしている。

 そんな姿を見て苦笑していると、彼女は少しバカにされたと思ってしまったのかこちらを無言で見つめふくれ顔をした。

 今更だが彼女は結構しっかりした顔立ちだ。神は金髪で艶があり一本一本が強い存在感を示しているようだ。目もぱっちりとしておりまつげも長い。美人というよりかは可愛いという顔立ちだろう。身長は少し小さめに見える。だが女子にしては結構普通な身長かもしれない。

 ちなみにだがボロボロの鎧はまだ脱いでおらず下の服装がどんな風かはわからない。

 ふくれ顔をしている彼女に対し手をヒラヒラとさせて申し訳なさそうな顔をしてみた。おそらく伝わったんだと思うが彼女はまた一心不乱に麺を口に運ぼうとする。

 そんなことを10秒ぐらいしていると彼女はプルプルと震え始めた。顔を真っ赤にしており側から見ても起こっているのがわかる、ラーメンに対して。

 すると彼女はカップラーメンの器を手に持ち自分の口の中へと注ぎ込んだ。

「おお」

 思わず声を出してしまう。

 箸が使えない彼女にとってこれが1番の方法かもしれないと薄々思い始めた頃だった。

 時間もたちラーメンが冷めてきてしまっている今なら火傷する心配もないだろう。

 ゴクゴクゴク……

「プッハー!」

 まるでお風呂上がりの牛乳を飲んだ時のような声を上げた。

「美味しかったか?」

 少し意地悪な感じで言ってみた。もう一度膨れるかな?と思っていたが彼女は

「う〜〜っっ! とっっっても美味しかったですっ!」

 と大絶賛していた。

 だからつい

「本当か? お前これが美味しいってやばいな」

 と言ってしまったのだろう。

 その言葉を聞いた瞬間の彼女の顔はどんな風だたったのだろうか…

 悲しみ、怒り、妬み、全てが当てはまらない。

 だがそこにはまるで過去を思い出しているかのような彼女がいた。

「…はい。美味しいですよ」

 彼女はそうとだけ俺に伝えた。

 彼女の内にたったそれだけしか無いわけないのに彼女はそれだけしか言わなかった。

 その事を理解した俺がどんな顔でいたのかは分からない。

「そりゃよかった」

 とできるだけ簡素に彼女に伝えカップラーメンをゴミ箱に捨てるため立ち上がり台所の方に向かう。

 その途中何を思ったのか俺は彼女の横で足を止め彼女の方に片手を置く。

 突然の事で困惑している彼女を他所に俺は

「次はもっと美味いの作ってやるよ」

 と伝えた。


あらすじでも書いたけどまじで名前っていついえばいいんだろうね。

正直考えてすらいないけど

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