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LAST SUMMER  作者: 坂道 陽
3日目
3/3

並行世界を調べてみた件

僕は、微睡みから目を覚ました。部屋の灯りは消していたので、辺りは薄暗いが朝だった。


昨晩はパラレルワールドについて少々調べるつもりが、結果的に明るくなるまで調べていて、寝たのは午前5時頃だった。


眼鏡を掛けて居ないので、時計も周りの様子もボヤけて見える。


布団を捲りあげようとすると何かが引っ掛かって持ち上がらない。


何か大きなものが布団の上に乗っているのが、寝ぼけ眼と、近眼のせいで見えなかった。


しかし、徐々に目が慣れて来たので、目を凝らして見ると、茜がベッドの上に寝ていた。


「うわあああ~~!」


僕が叫んで身を起こすと、その反動で茜が目を覚ました。


「あっ、紫苑おはよう!」


茜は、目を擦りながら、身体を起こした。


「って、おはようじゃないよ!おまえ、何やってんだよ!ビックリするじゃねぇか!」


僕は、ついつい大声で捲し立てた。


「何って、昼寝に決まってるじゃん」


寝ぼけた茜には、僕の大声もあまり響いてないらしい。


「そういうことではなくて、なんでここで寝てるんだって聞いてるんだ!」


僕がそう質問すると、


「う~んとね。ちょっと早起きしたんだけど、10:30くらいになんだか眠くなっちゃって、待ち合わせ時間に寝坊しそうだから、ここで寝て待ってたのよ。あっ、ちゃんとお母さんに断って入ったから大丈夫よ」


「あたりまえだ!それに、おまえの場合は、寝ていただけで、待っていた事にはならない!というか、勝手に人の布団の上で寝るなっての!ビックリするだろ」


「驚かせた事は謝るけどさ。そんなに怒らなくてもいいじゃん!」


そう言ってベッドから床に降りて立ち上がった。茜は謝罪しているというより、むしろ逆ギレしているとしか思えない。


「今、何時だ?」


僕もベッドから降りて、机の上な置いてあった眼鏡を掛けた。


「もうすぐ、11時40分よ」


「僕は、シャワーを浴びて朝食を食べてくるけど、ここにいるか?」


「私はここで待ってるよ」


そう言うと、茜はポケットからスマホを取り出し、ベッドに腰を下ろした。


僕は「おう」と言って、部屋を出た。階段を降りてリビングに入ると、父と母がコーヒーを飲んでいるところだった。


「おはよう」


と挨拶をすると、僕を見た母は、

「あっ、やっと下りてきたのね。茜ちゃんは?」と聞いてきた。


「茜は部屋にいるよ」


「あらそう、あなた朝食食べるでしょ?」


「ああ、用意しておいて。シャワー浴びたら食べるよ」


そう言うと、僕は浴室に向かった。着ていた寝巻きを脱ぐと、意外と汗をかいている事に気付いた。


僕は、自分の体の匂いを嗅いだ。特に臭いは感じなかったが、茜に嗅がれてないかと少し不安を感じた。


浴室に入り、シャワーのボタンを押すと、シャワーヘッドからは、チョロチョロとしかお湯が出ていなかったので、強さを最大限にして、頭から被った。


それにしても、うちの家族といい、茜といい、僕にはプライペートというものはないのかと思ってしまう。


部屋には見られたくないものだってワンサカあるというのに。シャワーを浴び終わって、母親が用意してくれていた朝食を食べ終わると、制服に袖を通しながら、階段を上がった。


部屋に入ると、茜は、またもやベッドの上に寝っ転がって、なにやら雑誌の様なものを捲っていた。


「おまえ、パンツ丸見えだぞ」


まるで羞恥心が無いかのような程に茜のスカートはめくれあがり、下着が覗いていた。あまり直視は出来ないが、黄色い生地に、その奥が透けて見えてしまいそうなレースの薄い素材の下着だ。


「見たいなら、どうぞ。減るもんじゃないし」


茜はそう言うと、微動だにもせずページを捲り続けた。見てやるのは流鏑馬ではないが、そんな風に言われてしまうと、なんだか見ては負けな気さえしてきた。


「……って、おまえそれ、何読んでんだよ」


僕は、茜が目にしているモノに気付くと咄嗟に取り上げた。女子高生モノのエッチな雑誌だった。確か、ベッドの下に隠して置いたはずである。


「やっぱり紫苑、体操服姿の娘が好きなんじゃん」

「……ち、ちがう。たまたまだ!というか、勝手に人の部屋を漁るな!」


声が上擦ってしまった。


「携帯をベッドの下に落としたら、たまたま見つけちゃったのよ。それにしても、なかなかマニアックな趣味してるのね。絶対に私の方が可愛いと思うんだけど」


そう言うと、茜はベッドの上でゴロゴロし始めた。今度はちゃんとした場所に隠さなければ。


「そんなことより、お待たせ!用意出来たから、出るぞ」


僕がそう言うと「は~い」と言って、一度伸びをしてから、ゆっくりと立ち上がった。


「ああいう本見て、何してるの?」


と茜が聞いてきたので「うるさい!」とだけ返しておいた。返ってきた答えは、

「ふ~ん」という返事だけだ。分かっていてわざと聞いているのか、なんなのかとても謎だ。


玄関を出ると、リッキーが駆け寄ってきた。軽く全身を撫でて挨拶をすると、彼は中庭の方に掛けて行った。


「今日は、朝から暑いのよ」


外に出て、太陽を見ながら眩しそうな仕草をしながら茜は言った。そういえば、彼女は今朝は早起きだったと言っていた。


「確かに暑いな」


僕はそう返した。そのまま僕たちは、学校に向かって歩みを進めた。


「茜は、太陽を見てくしゃみが出ることってないか?」


僕は、照りつける太陽を見ながら、ふと頭に浮かんだ事を口に出した。


「たまにあるわよ……アレってなんなんだろ」


「僕も結構な確率でくしゃみが出るんだよね。実はさっきもくしゃみが出そうになったものだから、気になって、茜はどうかと聞いてみたんだけれどね」


「以前、ソフトボールをやっていた時なんか、謎にくしゃみをする事があったわ」


「あれって、光くしゃみ反射という現象らしいよ」


「そんな事、よく知ってるわね」


茜は、意外な答えに驚きの表情を見せた。


「気になったことは、直ぐに調べてしまうタチだからな。どうやら日本人の約25%がこの症状が起きるらしいよ。しかも、遺伝するという話だ」


「へぇ、遺伝するんだ!今度、お母さんに聞いてみよう。なんで光を見たらくしゃみに繋がるんだかとても謎よね」


「強い光をみると、鼻の粘膜が刺激されて起こるんだそうだけど、実際のところ、医学的にはちゃんとした証明がされてないんだってさ」


僕は、以前本で見た内容を茜に説明した。


「そこまで分かってるのに、医学的根拠がないのも不思議ね」


「あぁ、どうやらコレについて本格的に専門的に調べようという人がいないということらしいよ」


「なにそれ、あははははっ。確かに、あまり突き詰めても大した成果はなさそうだけれど」


茜は、笑いだした。


「しかし、トンネルを出た後に事故が多い根拠となり得るかもって話もあるらしいから、馬鹿にできないよ」


僕がそんなうる覚えの話をすると、


「あははははっ、えっ、トンネル出てくしゃみをして事故が起きてるってこと?笑っちゃいけないけどさ、それってくしゃみ以前に、眩しくって運転を謝ってる方が、絶対に可能性として高いと思うけどな」


確かに、言われてみればよっぽどそっちの方が原因としては明確な気がしてきた。


「まぁ、世の中には不思議な事がまだまだあるってことだよ」


「あ~。誤魔化した~」


茜は、そう言って僕の体を人差し指でツンツンとして、楽しそうに笑っている。知識を自慢するつもりがなんだか薮蛇になってしまった。


そんな話をしている間に、踏切の辺りまでやって来た。遮断機は降りていて、左右から電車が通過しているところだった。ふと、踏切の向こう側に目をやると、パトカーが止まっていた。


なにやら、刑事と思われる人物がパトカーの傍に立って、聞き込みをしている様だ。それを目にした茜は、


「そう言えば、例の一年生って、まだ見つかってないのかしら」


と呟いた。


「あの様子だと、やっと警察が動き始めたってところだろうね」


と僕は返した。


「そっかぁ。そうだよね」


茜は表情を曇らせた。


「あとで、ゆき姉に聞いてみようぜ」


僕がそう言うと、


「うん!」


と言って茜は笑顔を見せた。


すると、遠くから野太く、低いエキゾーストノートが聞こえて来た。ボボボッというその音は、徐々にこちらに向かってきている。


近づく度に、そのサウンドとも取れる低い音程は、音量を増して来る。聞き覚えのある音だった。


徐々に近づいてくる真っ赤な、車高の低いスポーツカーを見て


「ゆき姉のクルマだよ」


と僕は言った。噂をすればなんとやらである。


「あっホントだ~」


と茜が言った。


ゆき姉の乗ったRX-7は、僕たちの横に来た途端に、速度を落とした。と同時に、パワーウィンドウがゆっくりと下がり、ゆき姉が顔を出した。


「やっほ~!あなた達だと思ったわ」


ゆき姉も、遠くから制服姿の僕たちを見て、既に認識していたらしい。


「おはよう!」


僕と茜は声を揃えて、挨拶をした。


「おはよう!やっぱり仲いいのね!まぁ、すぐそこだけど気を付けてね」


ゆき姉はそう言い残すと、右手をサイドミラー越しに振って、今度は、ものすごい加速と、甲高い音を立てて視界から消えていった!


「噂をすると、人が現れるってホントなのかな?」


と遠くに消えていく赤いスポーツカーを眺めながら茜が言った。


「あながち、間違えてもいないのかもしれないな」


僕も、次のミステリー研究部の題材にしても良いかもとさえ考えながら答えた。


ゆき姉が過ぎ去ってから、間もなくすると学校の正門前にたどり着いた。今日は、早めに出たこともあり、部活の開始時間の10分前には、校門を通過していた。


今日は、休日なので遅刻もなにも無いのだが、僕と茜はお互いに部長と副部長という立場もある為、少し余裕を持っての登校だったのだ。


部室に到着すると、やはり誰も居なかった。僕たちは、どちらからともなく、部屋の換気をして空気を入れ替えたり、ポットのお湯を入れ替えたりと、そんな事をしながら皆を待った。


「おはよ~!」


開始時間3分前になると、そう言って入室して来たのはゴンだった。僕たちを見るなり「よっ、ご両人!」とか言って茶化して来た。彼は、僕たちの入れ替えたお湯を使って、全員分のコーヒーを部の持ち物であるコーヒーメーカーを使って入れ始めた。


「おはようございます」


次に来たのはシャアこと赤井だった。ここまで走ってきたせいか、体型か体質か、彼は汗にまみれて、シャツはびっしょりだった。気にしているのか、デオドラントシートで全身を拭いている。


「おはようございますっ」


次は、マシリトこと鳥島かと思いきや……。


「誰だよっ!うちの部にはそんな美少女はいないっ!」


僕が大声を上げて言うと。何を勘違いしたか、茜が恐ろしい顔で、肘打ちをして来た!


「マシリトちゃんだよね?」


茜も半信半疑な面持ちで訪ねた。


「どうした~?大失恋でもしたか~?」


そんなデリカシーの欠けらも無い事を言っているのはゴンだ。マシリトは、普段掛けているはずの黒縁の大きな眼鏡をしていなかった。


それだけではない。髪型もなんだかいつもと違った。いつものキツそうなイメージは何処へ行ったという感じだ。というか、めちゃくちゃ可愛かった。こんなに可愛い後輩が身近に居たとは、正に灯台下暗しだ。


「昨晩、眼鏡が壊れてしまったので、暫くの間はコンタクトにしようかと思いまして、変でしょうか?ちなみに、ついでに髪型も少々変えてみました。てへっ」


といったマシリトは、もう既にキャラまで変わってしまった様にさえ感じた。見た目とは、内面以上の何かを視覚的に操作してしまうのだろうか。


「よし、眼鏡なしの場合は、弘美ちゃんと呼ぶ事にしよう」


ゴンがそう言うと、その場にいた男性陣は口を揃えて言った。


「賛成!」


するとそれを聞いた茜は、


「いや、最低だわ………」


と漏らしていた。


そんなこんなで、時間丁度になると、ゆき姉がやって来て、部活の時間がはじまった。


「では、昨日の続きから行くわよ。あら、鳥島さんイメチェンしたの?なかなか良いじゃない」


ゆき姉の淡白な言葉に、一同は何故か大人を感じるのだった。そして、ゆき姉は続けた。


「昨日、各自調べて来るように宿題を出した件、ちゃんと調査して来たかしら?」


そこで僕は、昨夜茜と調べた件について、みんなに話した。


「という感じで、パラレルワールドに行く方法論というものと、パラレルワールドの存在する可能性についての記事があったワケだ」


僕が話し、茜が補足する形で、昨晩の話を一通り終えると、口を開いたのはゴンだった。


「その話を踏まえると、タイムマシンに頼る以外に並行世界へ行く方法論はいくつか存在しているという事。並行世界の概念も考え形や捉え方で複数存在している事になるね」


「でも、どれもオカルト的で信憑性に欠ける気がします」


そう言ったのは、弘美ちゃんだった。


「さっきの紫苑先輩の話の中にあった、宇宙の誕生にまつわる話のように、科学や宇宙物理学の先にある内容も、僕たちにとってはもはやオカルトめいた事に感じてしまうという感覚ってあると思います」


シャアが先程僕たちが話した、ビッグバン宇宙論について感じた話を踏まえた意見を述べた。


「わからない事って、私たち人間は、全てに於いて都合のいい解釈をしてしまいがちよね。先程、佐藤君の話の中にもあったけど、創世記って曖昧ですらあるけども、言うなればビッグバン宇宙論そのものとも取れるのよね」


ゆき姉が最終的に話をまとめた。やはり、みんなが感じる違和感の様なものは共通なのだと実感した。昨晩、茜とした論議も無駄ではなかった様だ。


「じゃあさ、そんなオカルト的な中でももしかしたら確度の高い話もあるかもしれないよ」


茜が率先して話を前に進めたので、僕も続くことにした。


「そんな中でも、注目すべきな事柄はエレベーターによる方法論だと思うんだ。建物同士が何らかの影響によって、ひとつの世界ともうひとつの世界を繋ぐって事は、考え方次第ではアリかもと考えてしまう」


と、突然シャアが手を挙げた。


「僕も、ちょっと違った視点のパラレルワールドについて調べてみました。その中で、『きさらぎ駅』というものにたどり着いたんですが、皆さんは聞いたことありますか?」


「噂には聞いたことあるなぁ」


ゴンは、何かしら情報を持っている様だった。


「それって、幽界や隠世または幽世なんて呼ばれる類の話ではなかったでしょうか?」


弘美ちゃんは、少々自信なさげに問いかけた。


「その通り、死後の世界的な話で語り継がれる言わば都市伝説だと思うんだけれど、なんか後日談が気になる話だったりするんだよね」


シャアが問いに応える形になった。歯切れが悪いのは、やはり信憑性の低い情報と言う事だろうか。そのままシャアは続けた。


「そもそも、きさらぎ駅とは一体、どんなものか。ネット掲示板に掲載されていた内容を例に説明してみようと思います。ある、まとめサイトに載っていた情報です。2004年1月8日、静岡県の新浜松駅から電車に乗って帰宅していた葉純はすみさんという女性がいたそうです。帰宅する為に乗った電車がまるで止まる気配がない事を不思議に思い、ネット掲示板に相談する形で書き込みをしたそうです。彼女は、

「気のせいかも知れませんがよろしいですか?」と先ずは断りを入れました。

そして次の書き込みはこんな感じでした。「電車の速度がどんどん早くなっていて、次の駅にももうついて良い頃だと思うのですがまだ着かないんです。」

掲示板の住人からは、「車掌室を見てきたら?もしかしたら車掌さんに何かあったかもしれないし・・・」とのアドバイスがありました。

そして葉純さんは、言われた通りに車掌室を見に行きました。すると、車掌室はブラインドが下りていて、中が見れなかったそうです。その旨を掲示板に書き込むと、今度は「ノックしてみれば?」と住人に言われました。ですので、また言われた通りにノックをしてみましたが返事がありません。その後、20分ほど経過し、電車は次の駅に到着しました」


「とりあえずは、普通の話みたいね」


そこまで聞くと、茜が一言挟み、シャアは更に続けた。


「葉純さんは、「どうやら停車したみたいですが降りた方が宜しいでしょうか?」と掲示板に語りかけたそうです。すると、掲示板の住人からは「終電まで乗ってみなよ?」と言われたのですが、時既に遅し。葉純さんは、電車を降りてしまったそうです。駅名の看板を見ると、『きさらぎ駅』と書いてあった為、その旨をまた掲示板に書き込みます。「きさらぎ駅ってのは、見間違いじゃないのか?」掲示板の住人はインターネットで調べたところ、その様な名前の駅は存在しなかったそうです。住人からは線路に沿って帰れば帰れるんじゃないかという提案をされた為、葉純さんは言う通り線路に沿って歩きだしました。すると、どこからか鈴と太鼓の音が聞こえて来たそうです。その点についても掲示板に書き込みをしました。どうやら、葉純さんは線路の上を歩いていたらしいのですが、どこからともなく「危ないから線路の上を歩いちゃダメだよ」という声が聞こえたそうです。そこで振り返ると10m程手前に片足で立っているおじいさんが現れました。そして、あっという間に消えてしまったそうです。するとまた太鼓と鈴の音が徐々に近づいて来ていることに気が付きます。葉純さんは、恐怖のあまり、暫く動けなくなってしまいました。しかし、勇気を振り絞り線路沿いに歩みを進めました。

そのまま進み続けると今度は、伊佐貫いさぬきトンネルという場所にたどり着きます。

そのトンネルを抜けると、親切に説明をしてくれる人がいました。その人曰く、「ここは比奈」と言っていたそうです。更に、その人は車でビジネスホテルまで送ってくれると言って来ました。葉純さんは、「親切な方が送ってくれるみたいです」と書き込むと、住人は「こんな深夜にトンネルにいるとか怪しいよ」と警戒する様に伝えました。しかし、葉純さんは車に乗ってしまいました。しばらくすると親切な人の様子がおかしく感じ、車もずっと山の方へ向かっている事に気が付きました。そして、親切な人が、訳の分からない独り言をつぶやきはじめたそうです。葉純さんは、怖くなりどうにも降りたくなりました。やがて、葉純さんの携帯電話のバッテリーがほとんどなくなってしまいました。その後、はすみさんからの連絡は途絶えてしまったそうです。以上が、きさらぎ駅にまつわる話になります」


「話を聞いた感じでは、『世にも奇妙な物語』に出てきそうなホラーと言ったところかな」


僕は、率直な感想を述べた。


「実際に存在しない地名って、異次元とか、異世界とかという感じかしら」


ゆき姉が言った。


「私は、神隠しとか、死後の世界とか、そういう印象を受けたわ」


幽霊大好きな茜が言った。


「ちなみに、その葉純さんは依然として行方不明なのかしら?」


弘美ちゃんは、葉純さんの動向が気になるようだった。


「実はこの話には、続きがあります」

シャアは、サラリと言ってのけた。周りのみんなは、その以外な発言に、「えっ」と声を揃えて言った。


「後日談として語られているのは、なんと7年後に生還したという報告が、再び投稿されたという事なのです」


「7年後って、その間はどうしていたの?」


茜がやや興奮気味に質問をすると、シャアは続きを話し出した。


「携帯電話の電源が切れたのは、さっき話した通りです。しかし、車に乗った葉純さんは、山の方へ向かう車に不信感を覚え、どうにか降りたらしいのです。そして、またある人物に出会いました。その人の助言はこうでした。「光のほうへ歩け」言われた通りに歩いていくと現代に戻れたのだそうです。けれど、その世界は7年後の世界だったというのです。と、まあ、そういう話です。つまり、その後割と直ぐに元の世界に戻って来れたらしいのですが、時は7年経ってしまっていたと言う事なのです」


「なんか、どこかで聞いた様な……。そうだ、『猿の惑星』みたいな話だな」


そう言ったのはゴンだ。


「『猿の惑星』と来たか。それはそれで分かりやすい例えだな。」


僕が言うと、


「どこが分かりやすいのかサッパリよ」


と茜は、語尾を強めに言った。そこで僕は説明する事に。


「猿の惑星は、何度も映画化される程の人気作だ。ここは第一作目のネタバレになってしまうのだけれど……。主人公達が宇宙旅行をしてたどり着いたのが、2000年近くも時間が経過した地球だったという内容だ。光速に近い宇宙船で宇宙を駆けめぐり、何年か後、出発地点に戻ってきたような場合、出発地点にいた人は年を取り、宇宙船にいた人は年を取らないという現象が生じるんだ。これは、特殊相対性理論で説明できる為、割愛するが。宇宙船は未来への一方通行のタイムマシンの役目を果たすことになる。言わば、ウラシマ効果と呼ばれる現象だ。つまり、葉純さんは光速または亜光速で移動していたか、重力ポテンシャルの高い宇宙空間の様な場所に居たとも考えられる。つまり、亜空間か次元の狭間の様な場所という可能性もあるという事だ。しかし、その話自体が自作自演のデマ話でなければの事だが」


「さすが、アインシュタイン好きを公言しているだけあるわね」


ゆき姉から感心したと言わんばかりの言葉を頂戴した。


「猿の惑星に例えたのはよく分かったわ」


茜も理解出来た様だった。


「ちなみに、浦島太郎の話自体も、なかなか興味深いんだよ」


僕は、ウラシマ効果の語源の元になった、浦島太郎の話を持ち出した。


「浦島太郎ってあの日本人におなじみの童話でしょ?」


茜はそう言った。


「そうさ!内容はちゃんと理解出来てるかな?」


僕は茜に質問を投げかけた。


「もちろんよ!むかしむかし、あるところに浦島太郎という青年が居ました。浜辺で子供たちにいじめられている亀を助けたところ、亀がお礼に竜宮城という所へ連れて行ってあげると言うので、浦島太郎は亀に乗って深い海の底へ。するとそこには竜宮城があり、乙姫様が居ました。亀を助けたお礼に、乙姫様が用意してくれた豪華な食事やタイヤヒラメの舞踊りなどを堪能します。暫く、時が経つのを忘れて竜宮城を満喫しました。そろそろ地上に帰らないと行けないと思って、帰る旨を伝えると、乙姫様はお土産に玉手箱をくれました。そして、地上に戻ると、誰も知っている人間がいません。それもそのはず、たったの数日間竜宮城に居た間に、地上では300年も時が経っていたのです。そして、お土産の玉手箱を開けることにしました。すると中から煙が出てきて、浦島太郎はみるみるうちにおじいさんになってしまいました。めでたしめでたし」


「全然めでたくねぇじゃん」


そう突っ込みを入れたのはゴンだ。


「確かに!亀を助けたのに、時間も経ちすぎて、挙句おじいさんにさせられて、踏んだり蹴ったりね」


茜はそう言った。


「浦島太郎の話は、諸説あるが、実話だった可能性があるんだよ」


僕はそう言った。


「そんなこと有り得るんですか?」


弘美ちゃんは驚きの表情を見せた。


「浦島太郎は、宇宙に行っていたんだよ!」


そう僕が言うと。


「え~っ!」


と皆が揃って声をあげた。


「因みに、乗ったのは亀では無く、UFOに乗ってだと考えると辻褄が合うんだよ」


僕がそう言うと。


「てことは、竜宮城ってのは、別の星って事ですか?」


シャアが言った。


「ご名答!そのUFOは、光に近い速さで移動出来る宇宙船そのものだったのさ。つまり、浦島太郎は助けた亀の様な見た目の宇宙人に連れ去られて、竜宮城という星にたどり着いた。しかし、その移動に片道150年と言う歳月が掛かっていた訳だ。竜宮城で数日間楽しんだが、再び地球に返してもらった時には、更に150年経っていた為、知り合いは誰も居なかった。そんな絶望的な結果が分かっていたからか、玉手箱には毒薬が入っていたという事だ。」


「浦島太郎って、そこまで恐ろしい話だったのね」


僕の説明を聞いて茜がそう言った。


「『猿の惑星』そのものだね」


ゴンが言った。


「古代から伝わる神話や伝承なんかは、宇宙人が居たと仮定すれば、そのほとんどが説明出来てしまうんだよ」


僕がそう言うと


「ナスカの地上絵も宇宙人の仕業としか思えないんだけど」


と茜が言った。


「その通り!説明のつかない事柄や、オーパーツ等の存在も、大抵宇宙人がいたら説明がついてしまうんだ」


僕はそう説明した。すると、


「科学的な説明には未知の存在を認めなくてはいけないなんて、なんだか不思議な話よね」


とゆき姉が言った。


「パラレルワールド自体から少々逸れてしまった感は否めないけど、なかなか面白い話になってきたわね。ひとまず、並行世界についてまとめていきましょう」


色々と話が逸れていた事に異を唱えるでもなく、ゆき姉は上手く話を収束させようとしていた。


「僕は、取り敢えず身近で、検証可能なエレベーターで異世界に行けるのかって事に興味があります」


僕がそう言うと、


「俺も、それに賛成だな。そこまでリスクがあるとは思えないし、リスクがあるとしたら、実際にパラレルワールドにたどり着いてしまった場合だよな」


ゴンが賛同した。更に、リスクについても意見を出したが、パラレルワールドに行けたら成功ではあるが、そうなってしまうと為す術がないのは事実だった。


「もしも、実験して成功した場合、連絡の取りようが無くなるって事でしょうか?」


弘美ちゃんは、少々心配しているようだ。


「そろそろ、いい時間になってきたので、続きはまた月曜日に話しましょう」


ゆき姉がそう言ったので、時計を見ると、15時を回ったところだった。ゆき姉の仕切りで、取り敢えず、続きは週明けと言う事になり、本日の部活動は修了となった。


修了後は、それぞれが適当なタイミングで部屋を出ていった。茜が僕の方へやって来て、


「この後、暇だったら、お茶でもどう?」


と聞いてきた。


「僕は、図書室で調べたいことがあるから、今日は遠慮しておくよ」


と返した。茜は、一瞬、頬を膨らませる表情を見せたが、


「わかったわ。じゃあ、私は1人でコーヒー飲んでから帰るね」


そう言うと、茜は教室を出ていった。僕も荷物をまとめると、部室に鍵を掛けて部屋を後にした。一旦、部室の鍵を職員室に返しに行くために、部室のある旧校舎を出て、職員室のある新校舎の1階に向かった。


「失礼します」


職員室に入ると、各部室やその他の教室用の鍵を置く場所があり、そこへ部室の鍵を戻した。


「あら、まだ居たのね。帰りは、秋山さんとまた一緒?」


ゆき姉は事務仕事が残っていた様で、僕に声を掛けてきた。


「僕は、図書室で調べ物してから帰りますよ。茜は、1人で喫茶店に寄って帰るらしいよ」


「調べ物とは精が出るわね」


「まあ、ちょっと気になる事があったんでね」


「ほどほどにして、早めに帰りなさいよ」


「はぁ~い」


そんなやり取りを済ませ、僕は職員室を出た。


調べ物とは2つあった。ひとつは、この周辺でエレベーターがあるビルを探す事。もうひとつは、先日から行方不明になってる一年生について何か情報が無いか調べておこうと思ったのだった。


図書室は、職員室と同じ新校舎の5階にある。室内は広く、校舎の最上階という事もあり、そこからの眺めはなかなかのものだ。そんな場所で勉強をするのも、なかなか乙なものではある。但し、5階へ登るのは、理系男子の僕にとってはなかなか骨の折れる道筋であった。


階段を登り終えて、図書室の扉を開けると、受付に図書委員が1人いる以外は、他には誰もいない様だった。それもその筈だ、今日は一般的には学校が休みの土曜日だからだ。


「あら、佐藤君じゃない?今日は秋山さんと一緒じゃないのかしら」


図書委員は同じクラスの鳴海 志保だった。見た目は、割と今時っぽいのだが、教室にいる時は殆ど本ばっかり読んでいる、言わば本の虫ってやつだ。このタイプは、クラスに必ず1人はいると言っても過言ではないと、僕は常日頃思っている。


「別に、僕と茜はいつも一緒にいる訳ではないよ」


そう返すと、


「そうなの?てっきり二人は恋人同士で、いつも一緒に居るのかと思ってたわ」


異性と一緒に居ると、その手の妄想や噂をするのは中高生の悪しき習慣だ。


「幼なじみで、家が近所ってだけだ」


「今日は、他に誰もいないのでお好きにどうぞ。但し、大声は禁止だからね」


「1人で大声出すかよ。遠慮なく、自由に利用させてもらうよ」


僕はそういうと、目的のモノを探しに、図書室の奥へ歩みを進めた。


まずは、エレベーターがありそうなビルやマンションを探すための北区周辺の地図を探すために、古今東西の全国の地図が置いてある棚を探した。それらの地図は、意外と簡単に見つかった為、北区とその周辺の区の地図をいくつか見繕った。あとは、この1週間の新聞記事を探すだけだ。新聞社の記事関係は、確か書庫の方にストックがある筈だ。書庫は、図書室のさらに奥の扉の向こうにある。この学校の図書室の書庫は、生徒なら自由に出入りできる。


書庫の扉を開けると、中央には机と椅子が置いてあり、それを囲うように沢山の資料が所狭しと並んでいた。そこから、新聞記事のアーカイブを探していく。


「確か行方不明になったのは4日前だが、正式に情報が公になったのは昨日って事だったな」


結果として、昨日の朝刊から今朝の朝刊までを手に取って、部屋の中央にある机の上に広げた。まずは、北区周辺のビルやマンションを探すため、北区と文京区の地図を広げた。そこから、10階以上あるビルやマンションが密集しているエリアをある程度絞り込んだ。地図で見ただけでは何階まであるかなんて、もちろんわかりっこない。あとで、携帯で調べて行くつもりだ。携帯電話でビル名を検索すると、ビルやマンションの外観まで分かってしまう。実に便利な世の中だ。それをエリア事に調べて、大体のあたりを付けてノートに記入していった。一通り記入し終わったら達成感でいっぱいになり、もう帰ろうかとも思ったが、先程探してきた新聞を見て、思い直した。


「これは念の為、写真を撮っておこう」


僕は、独りでぶつくさ言いながら、新聞の小林達也失踪に関する記事の部分をiPhoneで写真を撮ってアルバムに保存して置いた。その後、実際に新聞記事に目を通していった。


「あれっ、この住所どこかで……」


僕は、さっきのノートを見返した。一年生の小林達也が最後に目撃されたのは、僕が先程調べたエリアの内の、文京区のエリア周辺だった。


「なるほどね。この辺りがヒントに……」


「うっ!」


突然、後ろから頭部を殴られた様だ。こんな時に限って断末魔は対したボリュームではなかった。そんな事を考えている内に、次第に意識が遠のいて行った。



「いてててて、どこだここは?」


目を開けてみると、辺り一面が真っ暗だった。頭がガンガンする。とつぜん頭を殴られた様な記憶はあるのだが、そこから気絶してしまったのか、まるで記憶がない。狭い空間に居るのは確かだ。


「そうだ」


僕は、iPhoneを探していた。右の制服のズボンのポケットにそれらしいモノが入っていた。取り出してみると、電源が入っていなかった。バッテリー切れかと思ったが、念の為ボタンを長押しして電源を入れてみると、無事に電源は入った。バッテリーも半分以上残っていた。


電源が入った途端に沢山の着信通知が30件、いやもっとあった。


茜と母親からだ。母からは2、3件。その他は全て茜からだった。


おいおい、なんでこんなに着信がと思った瞬間に、納得の行く答えが目に飛び込んできた。iPhoneの日付だ。最後に記憶している日にちからは、丸一日以上が経っていた。

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