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父の手記

作者: 織墓 卓人

父が亡くなり10日がたった。

母とは20年連れ添い生涯を終えた。

母は気丈に振る舞い葬儀を終えた。

遺品の整理をちまちま行っていたら机の中から父の手記が出てきた。

私はパラパラと巡り読んでいくとそれは日記に近い形で記されていた。


1月22日(土曜)

娘をそろばん塾に送っていると懐かしい顔にあった。

高校時代付き合っていた佳代だ。


それは父の不倫の日記であった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


昨日降っていた雨が嘘のように晴れていた。

妻とであったのもこんな晴れた日だったなと空を見た。

私は娘をそろばん教室へ送り届けるため車を走らせとなり町へと出掛ける。

そろそろ夕方になるという時刻だ。そろばんは木曜と土曜に教室が開催され木曜日は妻が土曜日は私が送り迎えをしていた。

「そろばん楽しいか?」

「うん」

娘は笑顔で答える。

「そうか、良かった」


しばらくするとそろばん教室へと到着した。

となり町の公民館で開催されており公民館の駐車場に停めた。

「じゃ、おわったらまたくるから」

娘は手を降っておりていった。

娘が公民館に入るまで見つめる。

公民館に入ったところで一度家に帰ろうとアクセルを踏もうとしたとき、前から他所の母と娘が歩いていた。私はなんとなく眺めていた。

向こうの母は私の視線に気付き会釈をした。

私も会釈をし返したが途中で気づいた。高校時代に付き合っていた佳代だった。

あれから15年はたっているだろうか当時の面影が残っていた。

凛々しい顔つきに肩まである髪の毛、出ている胸。当時となんら変わらない気がする。少しふっくらしたくらいだろうか。

私は気まずさから会話などすること無くアクセルを踏み家へと帰った。


家では妻が晩御飯の支度を始めていた、私は彼女にあったショックで台所に立っている妻を後ろから抱き締めた。

「ふふふ、どうしたの」

妻は首をひねりこちらのほうを見ようとする。

私は妻の背中に顔を埋めて自分の顔を見られないようにした。

妻を抱き締めれば胸の中で渦巻いている黒くもやもやした感情が無くなるかと思ったが抱き締めても胸の中に居座り続けた。



また、土曜日が来た。

娘を送りに車を走らせ公民館へと届ける。

私は心のどこかで彼女と出会えることを願っていた。


すると、彼女も同じく娘を届けていた。

私は彼女に声をかけた。

「久しぶり」

彼女はにこっと笑い。

「本当ね。何年ぶりかしら。」

「15年ぶりかなぁ、全然変わらないな。」

「ふふっ、あなたもね変わってないわ。」

彼女は少し間を置いてからいった。

「ねぇ、どこかでお話ししない」


それから車に乗せて喫茶店までつれていき話をした。

別れてから今までのこと、

私は今の妻とのであい娘の誕生。

佳代は旦那との結婚、娘の誕生、そして旦那との死別。

佳代はけろっとそのことを話したが彼女の目はなんだか寂しそうだった。


それから隔週で佳代にあった。

そしてお茶や公園などで話をした。

私は高校時代に戻ったような錯覚を覚えた。


そしてある日佳代は俺のメールアドレスを聞いてきた。

私はそれを了承し交換した。

妻に罪悪感は無かった。体の関係ではなかったし、佳代の時折みせる哀愁をした目を見るとそういった感情は起きなかった。


それからしばらくして私は佳代の家に呼ばれた。

娘をそろばん教室へ送ったあと彼女と出会いそのまま彼女の家に。

私たちは高校時代の話をした、あのときいた誰々はどこにいるとか付き合っていた当時友達によく相談したとか。

そして私たちは唇を重ねていた。

ことまでは及ばなかったがそれは濃厚な接吻だった。



妻はある日子供を連れて水族館に行こうと言い出した。

私はそれを了承し車で水族館まで出掛けた。

車を走らせ30分で目的地まで到着した。


子供ははしゃぎそれを見て私と妻は微笑んだ。

水族館を見て回るとそこには佳代とその娘がいた。

私は彼女を見た瞬間固まってしまった。

佳代も気づいて会釈をした。

「知り合い?」

妻が問う。

「高校時代の友人かな」

高校時代の彼女とは言わなかった。

ふーんといって妻は佳代に向かい会釈をした。


その日はなにも起きなかったが私の心の中は荒れていた。

妻に申し訳ないという感情が出てきた。妻の私を見るときのにこっとした目と佳代の哀愁に満ちた目それが私を悩ませた。


妻はそれから私を心配してくれた。

「体調悪い?」

「今日は休む?」

心配する妻の声がすべて私の心に突き刺さった。



いつものようにそろばん教室へ娘を届ける。

そして二度目の佳代の家にお邪魔した。

互いの結婚相手について話した。

「ねぇ、なんで私はあなたを振ったんだっけ?」

「大学にいってから遠距離で自然消滅に近くなったから、君からなあなあになる前に別れよって」

「ふふっそうだったわね。あのとき私が別れよって言わなかったらどうなっていたかな」

佳代は私を見つめながらいった。

そして私たちはキスをした。

絡み付くような激しいものを彼女は上を脱いで、私も上を脱いだ。

そのまま、佳代を押し倒し胸を揉みしだく。

彼女は小さく喘ぎ声をあげていた。

私は彼女のズボンを下ろそうと手にかけた。

すると、彼女が泣いていることに気づいた。

「------」

「------」

私の名前ではない名前を泣き叫んだ。

それはきっと旦那さんの名前だろう。


いつの間にか私も泣いていた。妻の私を見るにこっとした顔が思い浮かんだ。

彼女は私を抱き寄せ、二人で泣いた。


二人とも泣き止むと、

「ごめんね。」

といい

「うん。もう会わない方がいいね。」

「そうね。あなたは奥さんがいるものね。まだ生きている。」

「うん」


二人で携帯を取り出して互いの連絡先を消した。

「あなたのこと好きだったよ」

彼女はいった。


そのあとは彼女をそろばん教室まで車で運び互いの娘を連れて帰った。

それから妻は心配しないようになった。

私は台所に立っている妻に後ろから「ごめん。私より先に死なないでね。」といって妻の背中に顔を埋めた。

「ふふふ」

妻は私の頭を撫でた。



◇◆◇◆◇◆◇



4月27日

先週電話帳の連絡先を消してから妻は心配しなくなった。

女の感ってやつだろうか。

私は彼女に私より長く生きてくれと言った。

私は顔を妻に見られないように背中に顔を埋めた。

妻は優しく私の頭を撫でた。


4月27日を最後にその後は白紙であった。

私はこの日記をどう処分するか悩んだ。


母に渡すべきか私がとっておくべきか、

普通なら私がとっておくべきだと判断したが、

なぜか、私は母に渡すことにした。


理由はわからない。


母に渡すと母はその日記を読み始めた。

「ふふふ」

母は微笑んだ。

「懐かしいわね。あなた。」

おそらく母は知っていたのであろう。

母はその日ずっと空を眺めていた。

昨日までの雨が嘘のように晴れた青空を。

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