第二章;第一話
人には「こうありたい自分」「こうなりたい自分」というものがあり、
その人の願望がアニメや漫画や小説、ゲームといった媒体によって
現実に体験(妄想)が出来るものである。
その体験(妄想)が心地良い気分にさせてくれる。
自分が主人公になることで、
現実では起きないことが現実として体験できる。
僕はその体験こそ素晴らしいことだと思っている。
現実にありえないことだからこそ楽しめるというものだ。
では、そのありえないことが現実に起きてしまったらどうだろう。
僕はその「現実ではありえないこと」を実際に体験した話である。
☆彡
「将来の夢、鈴木太一。
僕の将来の夢は、ありません。
僕のお父さんが言いました。
『夢は寝ているときに言うものだ。
起きているときは夢は見ないものだ』
だからぼくの夢はありません。
僕もお父さんのようにしっかりと今を見ていきたいです」
小学校3年くらいのときだったように思う。
先生から『将来、自分が何になりたいのか。作文を作ってみよう』
自分が何になりたいのか。夢を作文にしていくのだ。
夢なんていうものは僕にはない。
勉強をして中学校、高校と進学していき、
自分の行けれる大学や会社に入れると思っていた。
小さいときから父親から、
夢は寝てるときに見るものだと言われた。
自分で目標を立てて、
その目標に向かっていくのなら良いことだ。
目標に向かっていけば次の目標に向かって進むことが出来る。
しかし、夢というものはただの夢だ。
クラスの子達はそれぞれに自分の夢を語りだす。
『パイロットになりたい』『YOUTUBERになりたい』
『医者の先生になりたい』『学校の先生になりたい』『歌手になりたい』
『看護士さんになりたい』などと作文を読んでいる。
それならその夢に向かってどうするの?と聞くと、
『ただなりたいと思ったからいいの!』
「思うだけで自分の思い通りになれるのなら勉強は必要ないじゃん」
だから僕は夢というものを考えることは一切無かった。
(勝手に夢でも見てろよ。俺はこんな馬鹿な連中とは違うんだ)
僕の心の中はいつもそう考えていた。
「勉強をして学年一位になってやる!」
中学に入ってからの僕の目標だ。
この目標が達成されるのはそう遠くの話ではなかった。
中学一年の中間テストの時には惜しく二位だったが、
期末テストの時には学年一位になっていた。
この結果には僕自身も当たり前の結果だと思っていたし、
中間テストの時は油断したから二位になったんだと思っていた。
「太一君すごいね!学年一位じゃん」
幼馴染で隣の家に住んでいる四谷未来が言ってきた。
「お前だって学年二位じゃねえか」
未来は中学一年のときの中間テストでは学年第一位だった。
僕はこの未来に負けたのかと思うと自分に腹が立っていたのだ。
女に負けたのが許せなかったのじゃない。
あの未来に負けたというのが許せなかったのだ。
家が隣だったということもあって、
未来とは小さい頃からよく遊んでいた。
僕には妹のように感じていた。
実際には僕は10月生まれ、未来は6月生まれなので、
未来のほうがお姉さんになる。しかし未来は僕によく懐いてきた。
(未来のほうでなにか小さい音が聞こえる)と思って見ると、
缶ジュースを買ってきて、いつまででも開けることが出来ず
プルタブに指をかけるも起き上がらせることが出来ずに
滑らせてコンコンと音を立てていたりとか、
一緒にポテチを食べようと袋を持ってくるが
いつまで経っても袋をあけれないとか、
この未来は何も自分では出来ないことが僕をイラつかせていたが、
僕が居ないと何も出来ない未来を妹のように思っていた。
その未来に中間テスト学年一位の座を奪われたのである。
僕が目標としていた学年一位を真っ先に達成したのだ。
僕がどれだけ腹が立ったのか判るであろう。
しかし期末テストの時には未来を抜いて僕が学年一位になった。
それからずっと中学3年の学年末テストまで、
僕が学年一位の座についていたのだが、
驚くことに僕の横をぴったりとくっつくように
未来も学年二位を取り続けるのだ。
中学3年の進路指導の時期に未来が話したことがある。
「私ね、私立城北女子第三高校に行くことを決めた」
市内に約60もの高等学校があるが、
その中でも有名な女子進学高校だ。
「俺はどうしようかな。就職に有利な工業高校に行こうかな」
市内では工業高校というととても少なくてたった二校しかない。
その中で、父と同じ松浜工業高校にしようと思っていた。
「太一君、大学行かないの?工業大学のほうが広がらない?」
未来にそのように言われ、
市内のたった二高しかない工業高校に行くより
普通科の進学校に入ってから、
工業系の大学に行くという道を考えることにした。
未来が進学校の私立城北女子第三高校に行くのなら、
僕は同じ進学校の私立城北第一高校に行くことを決めた。
そして僕たちは希望の高校に入った。