ヨーロッパアジサイ
カフェからの帰り道、傘をさしつつ私はとぼとぼと歩いていた。
――恋することに恋してるんじゃない? そんなに好きじゃない相手とばっか付き合ってるから、すぐ分かれちゃうんだよ。
別れ際に彼女が言い放った言葉が、私の胸に突き刺さっていた。
「……そんなに好きじゃないのに……か」
傘に当っているかどうかさえ分からない程の細い雨は、レースのカーテンの様に降り注いでいた。小学校の下校時刻を一時間程過ぎた今、住宅街を通り抜ける道を歩くのは私ただ一人で、世界から取り残された様で少し不安な気持ちになる。
――帰りたくないなあ。
憂鬱な気分がブレーキとなって、ただでさえ重い私の足取りは緩やかに減速していく。曲がり角でもなんでもない、道端で私はついに立ち止まってしまった。
「……」
今日に限ってカエルの一匹も鳴いていない、静かな夕暮れ時。私のことを気に留める人もおらず、私は頭を空っぽにしてそこに立ちすくしていた。
「……」
「――綺麗でしょ?」
「……えっ」
誰もいないはず、だったのに。私は背後から声を掛けられて、びくっと両肩を震わせた。そこにいたのは、眼鏡をかけた初老の男性だった。
「紫陽花には、雨が似合いますね」
「あ……そ、そうですね」
私が立っていたのはたまたま、紫陽花が咲き誇る生垣の傍だったのだ。この家の主人らしき男性は、眼鏡をあげつつ自慢の紫陽花に顔を近づけた。
「おや、カタツムリだ」
――移り気、浮気。
男性は穏やかに微笑んでいるというのに、私は何故だが胸がぎゅっと締め付けられる様な感覚に陥った。
「――さ、さようなら」
歪んだ顔を見られたくなくて、私は慌ててその場を離れたのだった。




