ホンアジサイ
「――移り気、浮気」
「……えっ」
流行りのカフェの、片隅で。なんとなしにアイスカフェラテのグラスをストローでぐるぐるかき混ぜていた私は、優香の言葉にドキッとして顔を上げた。
「弘美、今度は一か月持たなかったね」
「……うん」
失恋直後で落ち込んでいた私は、優香を誘って話を聞いて貰っていた。
「何が駄目なんだろうねー。 弘美、付き合う前はあんなに好きだったのにさ」
「……自分でも分かんない」
「重症だね」
クリームパフェをスプーンで突きつつ、優香は額を押さえ押さえ言った。
「うーんアイスクリーム頭痛……。 で、何の話だっけ」
「……別れた話」
「あーそうそう。 ま、弘美、頑張りすぎたんじゃない?」
「……」
「振り向かせる為に、相手の趣味に合わせたりとかさ」
「まあ……そうだけど……」
口ごもる私に構うことなく、優香は底に残ったコンフレークをシャクシャク潰していく。
「……」
「……」
しばしば沈黙が続いた後、優香は今までの流れをぶった切る様にハイテンションで私にスマホを差し出した。
「そういや、これ見てよ弘美」
「ん……可愛い! なにこれ?」
「今度駅前に来るタルト専門店だって! 来週空いてる?」
「来週は……空いてる空いてる」
「じゃあ決まりね!」
サラサラっとスマホのスケジュールに書き込んでいる様子の優香は、向日葵の様な笑顔で私に言った。
「これから、彼氏とデートなんだー!」
「……ああ、水木君ね」
「そうそう! もうめーっちゃ優しくて、癒し系なの!!」
聞いても無いのに、頭の中が花畑の優香はそんな情報を私にくれた。
「そうそう弘美、前から思ってたんだけどね」
お会計も終わり、別れ際になって、優香は形の良い唇を開いた――。
カフェからの帰り道、傘をさしつつ私はとぼとぼと歩いていた。
――恋することに恋してるんじゃない? そんなに好きじゃない相手とばっか付き合ってるから、すぐ分かれちゃうんだよ。
別れ際に彼女が言い放った言葉が、私の胸に突き刺さっていた。




