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その2

 あれから1週間、私は彼に会っていない。

 というのも、勤務時間が私の学校が終わるまでみたいで、この前は本当にうっかり長く居ただけらしい。


 会うことはないけど、ちょっと意識して部屋は片付けるようにした。まさか男の人に掃除してもらっていたなんてショックだったから。特に脱ぎ散らかした服とか……。

 その日の夜にお父さん達に聞いてみた。


「ああ、史朗(ふみあき)君に会ったんだね。お祖父さんからの知り合いなんだけど、たまに家の事も頼んでるんだよ」


 史朗さんていう名前なのね。お祖父さんの知り合いって会社関係かしら。


 私のお祖父さんは地方の大企業の会長をしていて、とても有名らしい。お父さんは三男で跡継ぎは長男の叔父さんが継いでいる。昔から植物が好きなお父さんがガーデンデザイナーのお母さんと結婚して、都会に出るからお祖父さんがこの家をくれたって言ってたっけ。

 私が小さい頃に何回かお祖父さんに会ったことはあるけど、ここ何年かは会っていないし、本家の方にも行っていない。

 お父さんに訊くと笑って誤魔化されるけど、何かあったのかな。





 私の通う私立優琳学園は小学校から高校までの一貫校だ。ほどほどに広い土地に小学校から高校まで詰め込んである。とはいっても近隣の高所得者層の子供が生徒でマンモス校ほど数は多くない。


 通学は徒歩のみとなっていて、朝のこの時間はちょうど生徒がたくさん歩いている。私もそのうちの一人。


 今日は短縮授業だからもしかしたら史朗さんに会えるかもしれない。この前はあまり話せなかったし、植物の話もたくさんできるといいな。

 朝から高揚した気分で登校する私に女子が集まってきた。よく私の回りにいる子達だ。


「向井さん、この前の話ありがとう」

「やっぱり向井さんに相談して良かったね」


 話し掛けてきた二人は確か神原さんと本江さん。必ずと言っていいほど休み時間に私に話し掛けてくる。

 この前とは何だろうか。ほとんど話を聞いていないから分からない……。少しは聞いていた方がいいと思うけど、悪口が大半だから気分が悪くなる。


 何の話か分からないけど、とりあえず話を合わせておこう。


「えぇ」

「相嶋君に近い子達だから強く言えなくって。助かったわ」

「廊下を占領して大きな声で話すから怖かったんだよねぇ」


 廊下……1週間前に図書室に行った時の話でいいのよね。途中で蓮司くんが来たから私何もしてないけど。私以外に注意した人がいたんじゃない。

 とはいえ、たまに注意しただけでこうやって感謝されるから私が何かしてると思われているんだろう。


「あ、今日はグループ研究だから向井さんも一緒にやろうね」


 ふんわりと笑顔で誘う本江さんに断ることはない。いつもグループを作る時には私を誘ってくれる彼女らを友達でもないのに手放すことがない私はかなりズルいと思う。



 午前の授業は順調に消化して、昼休みになった。後は午後に1限だけ授業を受ければ下校だ。


「ねぇ向井さん。放課後にお話があるの。いいわよね」


 鞄からお母さんが作ってくれたお弁当を出した時に頭上から有無を言わせない声掛けをしてきたのは、マサくんの女子取り巻きグループのリーダー的存在な綾咲瑠璃さんだ。違うクラスで接点もない私でもとても有名だから知っている。

 髪はふわふわのウェーブで、校内一の美貌はそれに優しく包まれるよう。今まで交流も何もない私に普段はマサくん達に見せないちょっと高圧的な態度にちょっとビックリした。


「え……っと。少しだけなら」

「ありがとう。教室で待っててね」


 微笑んでるけど、睨まれたような、釘を刺された気分。

 確かとても優しくて怒ったことも無いような聖母みたいとか聞いたことあるけど……。

 私、何かした?


「――こわーっ。向井さん大丈夫?」

「放課後、一緒にいようか」


 綾咲さんが教室から出ていくと、神原さんと本江さんが直ぐ様駆け寄ってきた。あの圧力を見たのは私だけではないみたいですごく心配している。


「ただ話をするだけみたいだけど」

「うん、まぁ、明日話聞かせてよ」


 含みのある返事はやめて欲しい。

 何かあるなら私の回りで噂話してくれればいい、いつもみたいに。

 今日こそは史朗さんに会おうと思ったのに、それは叶いそうにない。




 時が経つのは早い。というか、午後が1限だけだったから早いということもない。その時はすぐに来た。

 教室内に人がまばらになった頃、見計らったように彼女は現れた。


「お待たせ、向井さん」


 にっこりとした笑顔は普段通りの綾咲さんだ。

 ただ、神原さん達が不穏な濁しかたをしていったお陰で怪しまずにはいられない。


「実はね、あなたに聞きたいことがあって」


 連れてこられたのは自習室のひとつ。

 各階に別途設けられている、教室2つ分を12に分けた小部屋だ。

 各階にあるのは学年毎に利用するように、受験生への配慮でもある。


「違ったら違うでいいのよ。その、ちょっとね、あなたの悪い話を耳にして……それに流されるつもりはないの。でも、ね」


 なんとも回りくどい。私は早く帰りたいのに……。


「早くしてくれない?」

「あ、そうね」


 それから少し逡巡した後、綾咲さんは本題に入った。


「あなたと将人、仲が悪いって有名でしょ。でもね、この前あなたと話をしたって子達が教えてくれたのよ」


 この前って誰だろう。


「あなたが将人と付き合ってるって、ウソよね?」

「嘘ね」


 あれから一言も言葉を交わしていないし、近寄ったこともない。

 向こうも私に興味はないと思う。

 だからどうしてそんな話しになるのか不思議。

 私への当て付け?


「そうよね、だと思った。だってあなたが行くところによく蓮司君と将人がいるし、蓮司君とあなたの話をしてるのも見たことあって……」


 うわー……マサくんの事、よく見てるんだ。

 だったら尚更違うって気づいて欲しい。

 綾咲さんって騙されやすい?


「将人が騙されてるなら私が何とかしようと思ったけど、違うならいいのよ」


 柔らかい笑顔だけど、どこか怖い。そんな綾咲さんは満足したのか言うだけ言って自習室を出ていった。


「それじゃあ、またね」


 去り際に綾咲さんが言ったことは挨拶みたいなものね。また話すなんて絶対ないだろうし、私も早く帰ろう。

ご覧いただきありがとうございました。

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