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その1

 私のおうちは少しふしぎです。

 2階建てのおうちの回りは広いお庭で毎日きれいなお花が咲いています。

 パパとママはお仕事で朝と夜しか会えません。


 それでもおうちはいつもきれいで、私が学校から帰るとふしぎなことがあります。

 朝に見つからなかった物が机の上にあったり、ぐちゃぐちゃだった部屋が片付いてあったり。


 他に誰もいないのに…………。


 パパとママに聞くと「うちには妖精さんがいるのかしら」と、微笑ましそうに話すふたりを幼い私は信じました。

 だっておうちに妖精さんがいるなんてすてきです。


 その日の夜はふとした瞬間にお部屋のすみを見たり、天井を見上げてみたり……妖精さんはいませんでした。

 もしかしたら、人のいないところにいるのかも!と全部のお部屋にトイレ、使い終わったお風呂も見て落胆です。


 ふてくされているとパパがこそっと教えてくれたのです。


「妖精さんはなずなが寝ているときや学校に行ってるときにお仕事をしているんだよ。恥ずかしがり屋さんだからそっとしておいてあげよう」


 みんなにもヒミツだよ、とパパと約束しました。

 でも私はみんなに教えてあげたいです。

 妖精さんがいるおうちなんてほかにぜったいにありません。

 パパとの約束なので話したくても話せません。


 毎日うずうずする気持ちをおさえながら、きれいになるおうちに妖精さんはいるんだと気持ちがさらに高まります。



 ある日、近所に住むお友だちのマサくんが私に聞いてきました。


「なずな、庭でなにさがしてんの?」


 昨日はお庭で妖精さんを探していました。

 もしかして、マサくんに見られてたんでしょうか。

 そして私は思いました。

 妖精さんの話をしたい!と。


「私のおうちには妖精さんがいるの。マサくんのおうちにはいる?」


 みんなで楽しく妖精さんの話をしたかったのです。

 マサくんにはお友だちがたくさんいて私もそのひとりで、今日も放課後に10人くらい集まってお話ししていました。

 それまでは楽しくお話ししてたのに、私が言ったとたんにみんな止まってしまいました。


「なっちゃんかわいいねぇ」

「ホントに妖精さんいるの?」


「妖精なんているわけねぇじゃん。何いってんだよ」

「いるよ!パパもママもいるって言ってたもん」

「じゃあ、なずなは妖精見たのか?」

「見てないけど……いるよ!」

「見てないじゃんか、嘘つくなよな」


 嘘じゃないのに。

 パパの言う通り、みんなにお話ししなければよかった。


「あ、なっちゃん!」


 くやしくて、みんなのリーダーのマサくんから逃げました。

 だって私よりマサくんの方をみんな信じるから、仲間はずれがイヤで逃げました。







 あれから私、向井なずなは高校二年生になった。


 今も家の中は不思議な事が起こるけど、それは誰にも話さない。絶対バカにされるし、実は家政婦さんが来てるんじゃないかなって、そう思っている。

 マサくんとはあの後から話さなくなったし、向こうも私に接触してこない。あまり会いたくないのに、一貫校だから嫌でも同じ学校だ。

 マサくんは高校生になっても人気者で今では校内一のグループを作っている。本名は相嶋将人。俗に言うイケメンに育ったマサくんは著名人の息子で性格も悪くない。

 著名人の息子と友達なんて私には合わないから離れて良かったと思ったのに……


「向井さん聞いてー」

「相嶋君の友達っていつもうるさいよね」


 何故か私の周りにはマサくんのグループと対立的な人が集まってくる。小学校の時の話が紆余曲折して私はマサくんの対抗馬にされている。

 マサくん関係の話、ほとんどは愚痴みたいなものだけれど、私に話していく。みんなでわいわい話して発散されているみたいで私は特に何もしていない。本を読んでたまに相槌を打てばいいのだ。


「ねえ、どう思う?」

「あー…………そうね」

「でしょ」


 全く聞いてなかったけど、盛り上がってるみたいだからいいか。

 この本も読み終わったし、図書室に返しに行こう。閉まるまでまだ時間はあるから今、教室を出て十分間に合う。


「じゃあ、私帰る」

「そう、また明日ね」

「また明日」


 そう言うと、みんな蜘蛛の子を散らしたように私の回りからいなくなる。変なの。

 こんな感じだから私には友達という人はいない。いなくても困ることはない。


 図書室手前の廊下に女子5人のグループが広がって話している。ここを通らないと図書室には行けない。


「邪魔なんだけど」

「…………向井さんがいうなら仕方ないわねー」

「偉そぉ」

「孤独の女王だっけ?ヤバイよねぇ」

「私だったら学校休んじゃうな」


 誰がつけたのか知らないけど、この歳でそういうあだ名はやめてもらいたい。しかも声を大きくして嫌味ったらしく話しているのは喧嘩の合図かしら。


「なっちゃん」


 後ろから声をかけられて、振り向くと蓮司君がいた。

 蓮司君が近づいてくると彼女達は忍者かというほど素早く静かに去っていく。多分、マサくんとよく一緒に行動してるからだろうな。


「図書室に行くの?」

「うん、読み終わったの」


 どうやらさっき彼女達に喧嘩を売られていたことは気付いていないようだ。まあ、かっこいい名前と反してぼんやりして気の弱い子だから仕方ないかな。


 蓮司君はマサくんと同じ小学校の時からの幼馴染みでマサくんの友達だ。私がマサくんから逃げた日に後を追いかけてきたのは蓮司君だった。私の家まで付いてきて慰めたりいろいろ話してくれたけれど、次の日にはマサくんのグループに入って私には一切近付きもしなかった。


 私はマサくんの事で頑なになっていてそんな事気にしてもなかったのに、数日してこっそりと話しかけてきた。すごく申し訳なさそうな表情で、向こうに呼ばれたらすぐに行ったけど、それからは人目の少ないタイミングで話しかけてくるようになった。


「どんな本読んでたの?」

「花の本」

「へぇ、家族と同じ仕事するから?」

「手伝いはするけど、どうかな」


 進路指導で先生からも「進路は決まっているようなものだろ」って言われるけど、大学に行くのもいいかなと思う。

 両親共に自然関係の仕事をしている。父は研究者で母はガーデンデザイナーだ。


「おい、蓮司っ」

「あ。……ごめんね、また明日」

「遅い」

「ごめん」


 そして、いつものタイミングでマサくんが蓮司君を見つける。なんというタイミングだろう。蓮司君に発信器でも付いているんだろうか。

 それより本返して家に帰ろう。





 大学への進学は考えているものの、また花の本を借りてしまった。今回はフラワーアレンジメントの本だ。

 朝に部屋を出る時は出しっぱなしだった本が壁面収納の本棚に順番に並んでいる。本棚には小さい頃から親に貰った自然の本が大半で、自分で買ったものはまだ少ない。


 あれ、庭に誰かいる?

 視界の端に窓辺から人影が見えた気がする。今日は家政婦さんがまだいるのかな。


 庭に降りると花壇の手入れをしているふわふわのブロンドが鼻歌を歌っている。女の人だと思っていたけど、体格も歌声も男の人だ。私には気付いていないみたい。


「ねぇ、何をしているの?」


 ずっと土を混ぜている彼に声をかけると、絵に描いたように跳び跳ねて驚いた。


「お、お嬢さん。今日はお早いお帰りで……」

「そう?いつも通りだけど」

「えっ――あ……もうこんな時間か」


 腕時計を確認する彼は時間を忘れて作業に没頭していたらしい。私が声をかけなかったら夜までやっていたかも。

 彼は花壇の植え替え用に肥料を混ぜていたと教えてくれた。馴染ませて一ヶ月後に植えられるというから夏の花を考えているらしく、私の好きな花を聞いてきた。


「そうね、ペンタスかな」

「いいですね。ちょうど苗も出回る時期ですから良さそうなものを見繕ってきます」


 帰り支度をする彼は忙しない。でも、私と彼の会話は続いている。

 いつもは私が帰る前にいなくなってしまう彼とはもう会えないだろうか。そうであれば聞きたいことがある。

 ――――貴方が妖精?

 と聞いたら、きっとマサくんみたいに変な子だと思われるだろう。うちで仕事をしてもらっているのに気まずくなるのは避けたい。

 でも、私の部屋にほぼ毎日入ってるのよね……。服を片付けてあることもあるし、掃除もしてあるし、私が気になり始めてしまった。


「お嬢さん、俺帰りますね」

「――ま、待って」


 咄嗟に引き止めちゃった。

 取り敢えず何か言わないと変よね。


「明日も来るのよね?」

ご覧いただきありがとうございました。

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