05 自問自答
さっき、頭の中に響いた声はなんだったんだろう?
焚き火を眺めながら考える。
『補助脳による間接伝達です。』
あー、あたしは人間じゃないの?
『いいえ、否定です。純粋なヒト種であります。ただし、外的手術により補助脳を付与された上、特務状況下により必要な記憶以外はブロックされています。』
あとで思い出せるの?
『記憶は残っていますが取り出せないようになっているだけです。』
なんで?
『あなたは、この世界に紛れ込んだ特異点です。この世界線へ余計な情報を持ち込まないように配慮されています。』
そうだとすると、あたしの存在自体がまずいよね?
『いいえ。否定です。われわれの世界がもたらした問題を収拾するために派遣されました。』
問題?
『内容については開示されていません。』
何もわからないのに、どうすればいいのよ!
『彼らについていけば解かる様になっているはずです。』
ああ、ジェナとかレオとかね。
『はい。』
情報絞りすぎてミスったらどうすんのよ。
『本項は標準的な対応です。支援およびリカバリープランにおいて99.967%の成功率と予想されています。』
完全ではない?
『この世界線内部での完結が100%までの差分です。』
じゃ、あたしが働かなくても何とかなるかもしれないわけね。
『その場合は最大で2.37%の確率でしか対応完了となりません。』
結局は働けということね。
『はい。肯定です。』
で、あんたのいる意味は?
『あなたのアシストになります。』
どんなアシスト?
『活動下における完全な記憶の提供、状況シミュレーション、ナノマシン生成・制御、超常能力の発現....』
超常能力?魔法も使える?
『はい、限定的肯定です。』
ファイアーボールとか、撃てたり?
『いいえ、否定です。着火できる程度に限定されます。』
それは何も使えないのと大差ないじゃん。
『はい、肯定です。ただし、科学的対処の不能な本世界においては大いなるアドバンテージとなります。』
なに、十分に発達した科学と魔法の区別はつかないってあれ?
『はい。肯定です。過去には衛星軌道上に工作機械を持ち込み、メテオストライクを発動させた例があります。』
あたしにもつかえる?
『いいえ、否定です。本項には不要なため用意されておりません』
要するにマッチ売りの少女でしかないわけですね。
『はい、肯定です。恣意的な幻覚を本世界線の人間に見せることは可能です。』
むー、使い方次第ということね。
『はい、肯定です。現在はインタラクティブ動作を行っておりますが、無意識下においてもアシストを行うようになっており思うことで手足の延長として使えるとお考えください。』
あんたたちが勝手に活動して解決すればいいじゃない。
『いいえ、否定です。それはできません。意思決定が必要な項目が多数あり、ヒトを介在させない行動は行えません。』
むー、わかったようなわからなかったような。
とりあえず、この世界の人間にできないことができるってことでいいんだよね。
『はい、肯定です。』
この世界を救う勇者になれと?
『限定的肯定です。』
なによ、世界は救わなくていいわけ?
『救われるかどうかということはそのものの立場にないと判断できません。また、勇者という立場も見え方次第です。』
知恵熱が出そう。
『頭脳の冷却を行います。-0.1度ほど変化します』
う”~
頭痛い。
『ところでひとつ決定してほしい事項があるのですが?』
なに、あたしの名前?
『いいえ。グレイ・グーを起こさないためにナノマシンの作成上限値を決定してください。』
それって、あたしが決めなきゃだめなの?そもそも作戦を考えているところで決めてくれればよかったのに。
『....現在の約5kgから1.37トンへの変更を承認願います。』
はいはい、承認します。って、5kgってあたしの体内にいて体重を増加させてるんじゃないでしょうね?
『はい、限定的肯定です。500gがアンチウイルスのために現在フル稼働しております。』
え~。
『とまった場合、本世界線特有のウイルスによる感染症により1時間程度での死亡が見込まれますが?』
わーったった、とめないでください。
『了解です。』
それで、なんちゃって勇者をするために他に知っておくべきことはある?
『すでに十分な情報をお持ちですので行動を行ってください。』
それはとりあえず野営しとけって事ね。
それに返事はなかった。
とりあえず、「この時点」でのぶっちゃけな世界観(主人公)の話です。しばらくの物語の下地になるので、どんと出しました。