31 国王陛下との非公式謁見
「良くぞいらしてくれた聖女殿。」いがいと渋いおじ様です。
「恐れ多きお言葉、私のことはクレアでかまいませぬ。」
「そうだな、この場で肩書きなど意味が無い。託宣のことはバーナードから聞いて事の重要性は理解できた。ただ、いつものことではあるのだが、あいまいすぎて先手を打つことができないというのが歯がゆくてなぁ。」
バーナード?ああ、もしかして伯爵様の名前?初めて知った。いまさらながらの驚愕の事態。
「将来をすべて見通せる者はおりません。未来のことはある意味すべて試練ではありますが、何も準備無く起きたときに民が苦しむことになるので託宣として下されたのでしょう。」
「クレア殿は、託宣の無いよう以外のことをご存じないだろうか?」
「殿は不要であります。」そして一呼吸置く。「託宣の際に暗符がともにくだされておりました。たぶん私にしか読めないように細工がしてありました。」
「おぉ、そうすると何かあるのですな。」
ひと時の沈黙。
「あることはあるのですが、今の時点で私自身にも読むことはかなわない状態です。時が来たときに、もしくは他の者に託された符丁がないと、何のことかすらわからないのです。」
「そうか。」
「すべてが最初からわかっている未来は、堕落しか引き起こしません。通常の飢餓・疫病ですら教訓となり次の時代を築く礎となりましょう。」
「クレアど...クレアにとっては私の統治した時すら通過点に過ぎないと?」
「はい、ですが、ドミニエル六世が良制を布いたことは未来への礎の一つとして語られる事になるでしょう。」
あれ?あたしはなんでこの王様の名前を何で知ってるんだ?
「そうか。」
あえて不確定な言葉に王は部屋の中央をみながらつぶやいた。
「今の時点でなにか備えることは必要なのかね?」
「飢餓と疫病ということであれば食物の備蓄などは多少有効にはなると思います。疫病に関しては王都は今の人の数であれば大丈夫でしょう。病を発したものを早めに隔離できれば大事にはならないと思います。」
「ふむ。王都は。という条件付ですな。」
「はい、王都は上水。水の供給が潤沢で、下水...排泄物の通り道も整っております。ただ、そのほかの都市については見ていないのでなんともいえません。キルウーロも疫病の規模が大きくなりすぎると下町では危険があるでしょう。」
伯爵様がぎょっとする。
「そうか、バーナードのところですらその評価か。」王様も意外と淡白。
「はい。」
「クレア、そこはなんとかならんのかね?」伯爵様から弱りきった声。
「今からでも公共工事として下水の整備を行うのがよいかと思います。あとは、酒類の醸造を盛んに行うことが一策としてあります。食用に困るほど作ってしまうのは問題ですが、病原菌の多数はワインなどに触れることで死滅します。」
画期的で即効性のある対策は思い浮かばないものの、地道なものは思い浮かぶみたい。
まぁ、いわゆる中世の疫病なんてそんなもんだよね。ペニシリンを作れといわれても無理....あ、あの理科室ならいけるのかな? でも作り方なんかわからないしなぁ。
「なるほど、話を聞けて有益であった。何も無いままであれば手をこまねくだけで発狂してしまうところであったよ。やはり聖女様とよばさせてもらえないか?」
「結果が出てからであれば、よろこんで。まだ、何も始まっていないのですから。」
なんか平凡すぎた。