03 名無しのゴンベイ
とりあえず、人には会えた。トラブルもなく自分の名前もわからなく.....。
しばらく続く沈黙。気まずい沈黙。普通なら答えがあるはずだけど答えがわからない質問。
悩むあたしを尻目にレオは軽く言った。
「じゃぁ、ジェーンということにしておくか。」
「「は?」」
見事にハモった。まぁ、仮でもなんでも名前が無いのは確かに不便だ。ただ、レオは何事も無かったかのように代替案を出してきた。この手の度合いに慣れているのだろうか。いわゆるいかにもありそうなの代名詞のような名前だ。
「それはやめようよ。頭文字がかぶるし。」ジェナないぶかしげに、そして不服そうに言う。
「読み方をイェナにすればいい。」
「それいつの任務の話よ.....あっ?」
口を押さえるジェナ。しっかりそうに見えて、じつは意外とお間抜け。そこへ導いたレオも結果的には浅はかだったと思う。
フォローは入れなきゃだめなんだろうな。
「あ、あたしは何も聞いてないですよ?」
「そういうことにしておいて!お願い。」
「はい」
しばしの間沈黙が流れる。料理の焦げになる匂いに気がついて、ジェナが火からなべをはずす。
もはや料理が云々とい前の流れだった。ここでジャナ、マイナス二点目。
忙しそうにしているがジェナは微妙に上の空。レオも腕を抱えて黙り込んでいる。さすがに沈黙と気まずさに耐え切れなくなって口を開いた。
「と、とりあえず候補をいくつか挙げてもらえればそれから選びますから」
「ほんとに御嬢ちゃん、自分の名前を知られたくないのか?」
「いいえ? 本当にわかんないんです。」
「なんだよ、それ。」
「そもそも、林の中に放り出されるまでの記憶も無いんです。」
「「は?」」
やはり、記憶喪失なんてものは、簡単に受け入れてもらえないものなのか、さらに気まずい雰囲気になる。記憶喪失以前に本当に家出娘と思われてるのかな?結果として自分自身が何者なのかもわかっていない。家出娘で突き通すとして、どこまで引き伸ばせるんだろう? 引き伸ばしたその先は?
「あー、そうだ。チェスターはどうしたの?」
話をそらすかのようにジェナが言葉を発した。
「ん、まだ街道の見張りをしてると思う。」レオと会ったとき一緒にいた人か。
レオはもはや隠し事をするのをやめたのか、あきらめたのか、しらっと流した。
「そっか。」
ジェナは私のほうを見ながら
「まぁ、たぶん、コレで確実でしょ。」
コ、コレですか? 少なくともあたしが知らないことを何かしら知っているようだ。コレあつかいはひどいような気もするが、名前も名乗らず(名乗れず)、なにか直接役に立つわけでもなく。
「都合がよすぎる気もしなくも無いけどな。」
なんの都合?
話についていけないまま聞き手に回る。
「それに、アヌップも明日ぐらいまでは動けなさそうだし。判断はそのときでもいいでしょ。」
「そういや、あいつの症状はよくなったのか?」と心配そうなレオ。
「まぁ、落ち着いたというかなんというか。熱は下がる方向に向いてるからね。」とジェナのフォロー。
「病人さんがいらっしゃるのですか?」
「あ、あぁ。悪いものでも食ったのか虫にでも刺されたのか。高熱が出て寝込んでるよ」
「ご愁傷様です。」
雰囲気的に衛生面は大変そうな世界だよね。
「あー、それはそれ。コレはコレ。で、この娘の名前は?」ジェナが半分切れ掛かった声で問うた。
我輩は人間である。名前はまだ(わから)無い。