2000の験担ぎ
「いいかい?君の名前はアレキサンダー。ナンバーは3。先立った"エリック"と"マイク"のためにも頑張るんだよ」
モニターに映る少年へ向かい、私の声はマイクを通してスピーカーから出ていく。
事情もわからない少年はただ、モニターをじっと見つめていた。
翌日、アレキサンダーの遺体はすぐに見つかった。
「君はトーマス。ナンバーは128。頼んだよ」
「君はヘンリー。ナンバーは543。期待している」
「君はジャック。ナンバーは777。幸運に期待して"大事な名前"を付けたからね」
「君はスティーブ。ナンバーは1,236」
「君はリチャード。ナンバー1,579」
「エンリコ。ナンバー1,835」
誰一人として、そこに辿り着くことは出来なかった。
"コピー兵"共に殺されるか、誤作動を起こして機能が停止するかだ。
「アリス」
「はい、博士」
最年少(といっても来週には私と同じほどまで成長しているだろうが)の助手であるアリスは、私の2,000人目のクローンだ。
つい三日前に培養器から生まれたばかりなのに、これまでにはないほど知能の発達が早いのだ。
恐らく、何らかのミスで私の遺伝情報に誤差が生じ、飛躍的な知能成長(突然変異の一種だろう)を遂げたものと思われる。その代償なのか、非常に短命であることも予想されていて、今から13日後には死を迎えるとデータは告げていた。
「君は記念すべき2,000人目の私だ。君から何か作戦に関して提案はないかい?」
「私にそれを聞くことから、博士自身既に諦めの色が強いと思われます」
「ははっ、その通りだよ。計算だとあと6776回も掛かるんだ。そんなにやってられないんだよ」
仰向けに、ゲラゲラと私は笑っていた。
「でしたら博士。否科学的な面からアプローチしてみてはどうでしょうか」
彼女の大きな瞳が真っ直ぐに私を見据えている。どこからどうみても美少女だが、そう思うのはこの子が8歳の頃の自分だからだろうか。
「それはつまりどういうことかな?」
「博士は"験担ぎ"と言う言葉をご存知ですか?」
験担ぎ。幸運なことや成功したことと似た条件下で同じ効果を得ようと期待すること。とか、その様なニュアンスだった気がした。
「うん、なんとなくだけどね。それで?」
「自分で言うのも複雑ですが、私アリスは非常に優秀です」
「そうだね。確かに君はとても優秀だよ」
「そこで、私のナンバーと同じ、ナンバー2,000のジュニアを使ってみてはどうでしょうか?」
ジュニア。私がこの作戦で用いているクローンの少年達。もう2,000人近く殺していることになるのか。
「なるほどね。じゃあちょっと試してみようかな」
マイクのスイッチに手を掛け、研究所全体への出力で指示を出す。
『本日18時予定の1,929回目のジュニア作戦だが、予定個体のナンバー1,929ではなく、ナンバー2,000を使う。それじゃあ頼んだよ』