第四話 成功!……だよね?
教室に鞄を取りに行き、そのまま下駄箱へ。靴を履き替えると向かったのは校門ではなく体育館。
道場も技術工房もかたまってるから一辺に紹介できるのは楽だけど……どうせならもう少し教室を減らして欲しい。
あ、そう言えば。
すっかり忘れていたけど、私彼の自己紹介中に倒れたんだよね……。
謝ると百合愛に言った手前、ちゃんと謝っておかないと。事実悪いとも思ってるし。転入初日にいきなり倒れるとか……苦手意識持たれても仕方がない。
「月花堂君」
「ん……?」
「朝、ごめんね。いきなり倒れてビックリしたでしょ」
「え……」
「……?」
私が謝ると、驚いたと言いたげに目を見開いた。
え、何?そんな驚かれる様な事だった……?
「あ……あ、ごめん。ちょっと、ビックリして」
「そんな驚く様な事言った?」
「いや、そうじゃなくて……謝ったりとか、しないと思ってたから」
「あー……」
なるほど。
彼が言いたい事を私はすぐに理解できた。
白浜類は『Week*Love』の主要ライバルキャラだ。個別ルートに入ると各々新しく登場するらしいけど、前世の私は一度しかプレイしていない(その一度も誰とも恋人にならず友情を極めたノーマルエンド)私には詳しくは分からない。しかし説明書の登場人物紹介に明記され、立ち絵や私服バージョンまで用意されている点を考えると白浜類の物語への関わりが深いのは明白だ。
そしてその立ち絵なのだが。
腰まで伸びた黒髪、赤銅色の猫目、一つ一つのパーツが精巧で輪郭もくっきりしている。まぁ、所謂美女なのだろう。自分で言うのも何だけど。
百合愛の清楚な可憐さとは真逆、深紅の薔薇が似合いそうな派手さが特徴だ。
それは顔立ちだけでなく、高校生離れした妖艶なスタイルは制服よりも、真っ赤なドレスを着てどっかの社長の愛人ですと言われた方が納得してしまう物で。
まぁ、簡単に言うと。白浜類は美女だ。それも妖艶で、底意地悪そうで、人を見下して嘲笑しそうな。
悪女を体現した、美女。
それが白浜類であり、現在の私である。
つまり彼は、そんな見た目悪女な私が謝った事が意外だと言いたいらしい。
「ごめん、失礼な事を言ったね」
「ううん、よく言われるから」
そして何より自分でも思うからね。前世でも説明書を読んだときに性格悪そうだなって思ったし。ゲームを進めていくと見かけ倒しの普通な女子高生だって分かったけど。
「昔からそうなんだよね。性格悪そうって第一印象最悪、百合愛と一緒にいるといじめてるんじゃないかーって言われたり」
小学生の頃はちょっと怖い。
中学生の頃は性格悪そう、遊んでそう。
原作の白浜類はその事で人見知りとなってしまった。性格設定の『クールで口数が少ない』と言うのはそれが原因だ。
しかし記憶が戻る前の私は前世の影響を受けている。阿呆で、周りから呆れられるほどマイペースだった前世の影響を。ゲームをしていて事故り一生を終わらせるような前世の影響を。
気にするどころか、最早開き直っていたりする。
それに見た目から来る第一印象なんて当てにならない、特に私は。
「酷いね……」
「なれちゃうと全然。話してると皆印象と違うって言ってくれるしね」
「そうなんだ?」
「うん。まぁたまに話した事で残念がられる事もあるけど」
キャップが凄すぎるんだろうなぁ……自覚はあるけど。
けらけら軽く笑っていると月花堂君の足が止まった。不思議に思って振り替えると真剣な……ちょっと不機嫌そうな顔をしている月花堂君。
……え、何で?
「…………」
「月花堂君?」
「嫌じゃ、無いのか」
「へ?」
「勝手に期待して、勝手に失望して、イメージばかり押し付けてくる。……俺の事なんか、なにも知らないくせに」
「………」
私に言っているというより、自分に言っているみたいな呟き。事実、自分に言っているんだろう。
きちんと個別ルートをプレイしていない私には分からないが、フルコンプをした妹の話を思い出そうと頭を回転させる。なんか……言ってた気がするんだけどなぁ。何だったっけ?扇……お兄ちゃんを攻略出来ないって知ってから聞き流していた、くそぅ。
でも確か、月花堂君も似た様な経験がある……とかなんとか。
甘く優しい王子様を体現する月花堂君だけど、その本性は粗野でがさつな俺様……うん、乙女ゲームでありがちなヒーロー像って感じ。
「完璧でなければいけない、完璧でなければ俺じゃない……馬鹿らしい」
何か……スイッチ入れちゃった?
物凄く、素でてますよー?
「うーん……私は、そう言うの気にしないから」
「あ……?」
怖いから睨まないでください。
「見た目と中身が一致しないなんて、当たり前じゃん?私はそれが激しすぎるだけ。それは悪い事じゃない。いや、むしろ良い事じゃないかな、ギャップ萌えって言うし!」
それに私が当てはまるかは別だけど。
月花堂君はまさにギャップ萌えでしょう。だからこそ乙女ゲームのヒーローな訳ですし。
「それに私、そんなに沢山友達とかいらないし」
「………は?」
「友達でも無い人に何言われたってどうでも良いし、分かってくれる人が分かってくれてればそれで充分。人の性格に残念だなんだ言ってくる人に興味ないから」
昔からそう。あ、昔って言うのは前世からって意味。
身内に対しては物凄く甘いくせに、それ以外に対してはほとんど興味がない。勿論好かれてるか嫌われてるか、悪口とかも気にしない。元々人見知りなのもあって、友達も少ない。コミュ障……ではない、きっと。だって元アラサー手前現十五歳、合計したらアラフィフに近いですからね。
……自分で言ってて悲しくなった。十五歳なのに精神年齢おばさんって、どうよ?
「こんな事思ってる時点で性格良くは無いんだろうけどね」
「……そんな事ねぇだろ」
「そう?」
あははと笑って、少ししたら体育館についた。隣には武道場、すぐそばには技術工房の建物もある。無駄に広い校内と同じく大きな建物が三つも集合していると、何と言うか……圧迫感が凄い。
「ここが体育館。向こうのが武道場と技術工房ね。工房は三階まであって二年生が二階、三年になったら三階、部屋数も多いから……覚えられてる?」
「……一応」
「移動の連絡は掲示板の教科別かクラス別のスレッドでも確認出来るから、もし迷ったら使うと良いよ」
「何でもありだな、この学校」
「突っ込んでたら切り無いよ」
私だって何度も思った、異常だと。この世界で生まれ、この世界の記憶しか持たない月花堂君ですらちょっと引いている。前世の、それも別世界の記憶を持つ私が平常心な訳がない。
まぁ、もう諦めたけどね!
一応、創設者曰く「技術が衰退する事はない、後退する事もない。進化し続ける技術に対応するにはまず、高性能な技術も、高い水準も、当たり前な日常にしなければ」と言う事らしい。これを携帯も知らない世代が言ったのだから、創設者には先見の才があったのだろう。
『Week*Love』を作ったのはガラケーどころかスマホも知ってるゆとりだったらしいので、それを知ってしまうとありがたさ半減だけどね。
「これで案内は終了!」
やっと終わったー!!
本気でこの学校広すぎるって。ただの学校案内だったのに、すでに空が暗くなり始めてる。まだ春だよ?まぁ私が寝こけてたせいだって言うのも有るんだけどさ。
「遅くなってごめんね。今日行ったところも行ってないところも端末の地図ですぐわかるから、迷ったらそれに頼ってください」
と言うか、地図で全部分かるんだから案内とかいらないよね。
乙女ゲームのイベントだから仕方ないけど。そしてそれをぶっ壊してるのは私だけど。
「……白浜」
「ん?」
「携帯、貸せ」
「え……あ、うん」
携帯って、携帯だよね?端末じゃなくて『携帯端末』の方。
不思議に思ったけど特に問題もなかったので、渡せと言わんばかりに手を差し出している月花堂君の手のひらに私の携帯を乗せた。
すぐにカチカチと操作し始める月花堂君。手に有る猫耳のカバーがついた可愛らしいスマホが物凄く……笑える。笑ったら殺されそうなんで黙っとくけど。
多分、一分くらい。満足そうに笑った月花堂君が携帯を返してくれた。
えーっと……何だったの?
「あの……」
「それじゃ、また明日……類」
「え………」
綺麗な、綺麗な笑みを残して、月花堂君は背を向けた。残ったのはぽかーんと阿呆面をしている私だけ。
女の子としてはどうかと思うけど、それどころじゃない。
今……名前で呼ばれた?
「……何で?」
そう言えば途中からずっと喋り方とかも違った。取り繕うの面倒になったのかと思ってたんだけど……どういう心境の変化があったのか。
「……ま、いっか」
これで一先ず、フラグを折るまではいかなくても建築を遅らせる事くらいは出来ただろう。
個別ルートに入られたら私には一切の情報がない。その上相手は七人もいるのだ。共通ルート……つまり、今の内に出来るだけ折っておかなければ。
「頑張るぞ……」
二人の幸せの為と言う名の、私の十年の努力の為に!!
携帯に入れられた『月花堂響谷』の名に私が気付くのが、三時間後。
そして前世の妹が語っていた、月花堂響谷との重要イベントの概要を私が思い出すのは──何時になることやら。