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第三話 七日学園

 保健室から早足で歩く事七分、教室に着いた。

 と言っても私の目が覚める前から待っている訳だから、かなりの時間待たせていた事になるけど。


「月花堂君、待たせてごめん」


「え?……えっと、白浜、さん?」


「百合愛と案内役代わったの。じゃあ、行こうか」


「あ、うん……」


 何がなんだかよく分かっていない様子の月花堂君を連れ出して、まず向かったのは特別教室棟。


 ここ七日学園は、歴史こそ浅いものも進学校と言って差し支え無い教育を謳い文句にする学園だ。中等部と大学を隣接している為敷地もかなり広い。隣接しているだけで一つ一つが独立はしているから間違ったりする事は無いが、元々広大な土地なせいか高等部だけでもかなりの広さ、迷わないとは断言できない。月花堂君が方向音痴だったら確実にアウト。方向音痴でなくとも要領よく必要不必要分けないと覚えきれないと思う。


 私は特別教室棟へ続く廊下を歩きながら、隣に居る月花堂君に説明を始めた。

 

「とりあえず必要な特別教室だけ教えるから、後は端末で調べた方が良いと思うし」


「端末って、これ?」


 そう言う月花堂君の手に握られているのは、生徒手帳くらいの小さなスマホ、通称『端末(たんまつ)』。

 と言っても私達が使うスマホと同じ物では無く、学園から一人一器支給されている七日オリジナル電化製品だけど。


「そう、それ。使い方は?」


「一応一通りは……」


「地図の事とかは?」


「それはまだだけど」


「ん、なら先にそっちを教えるね」


 窓際に寄って、私の端末を取り出す。片手におさまる小さなそれは一見只の小さなスマートフォン。でも中身は電話もメールも出来ない、学内以外では只の重い生徒手帳で、逆に学内では携帯よりも役に立つ優れもの。


 明るくなった画面には、私の学年クラス名前、そしてその下には見かけ通り、四つのアイコンが並んでる。


「この画面はそのまま生徒手帳、後は本の貸し出しに使うIDね。学割とかもこれ。この右端のが先生からのメッセージ、連絡事項が来るからアイコンの上に数字が付いたらチェックする事、音ならないから気を付けて」


 このハイテク機器は私達の身分証明書であり、学内でのみ使える地図であり掲示板であり連絡ツールである。


 待受画面はそのまま生徒手帳であり、図書室での本の貸し出しやカラオケなどでの学割に使える。右端に有る緑色の『teacher』と書かれたアイコンはそのまま、担任からの連絡網。学内であれば返信できるし学外であっても見るだけは可能だ。その隣の歯車は設定変換が出来る。残りの二つ、片方は七日関係者ならが自由に使える掲示板。


 そしてもう一つが、ここの生徒にとっては一番使いこなせなければならないもの。


「……で、これが地図。この学校は教科よりも教室が多くて、授業で使う以外の教室はこのアプリを使わないとわからないの。IDで現在地は分かるから迷ったら必ずこれを使ってね」


「……凄いな、噂は聞いていたけど」


「私も入学した時は驚いたけど、慣れるしかないよ」


「……努力するよ」


 『噂』と言うのは、この七日学園の施設の事だろう。実際この学校の施設は恐ろしく充実している。前世を思い出す前から思っていたけど、思い出した今ではもう一種のファンタジーだと思うよ、色々ぶっ飛んでて。

 広い校舎と高い技術。何とも乙女ゲームの舞台らしい水準の高さ。快適だから文句は言わないけど。



「それじゃさくさく説明してくよー。授業で使う所は固まってるし、時間はかからないと思うから」


「あぁ、ありがとう」


 爽やかな笑みと優雅な立ち居振舞い。うん、これぞ王子様……だよねー、見ているだけなら。猫被ってるって分かってる私ですら騙されそうになる。


 そう、彼『月花堂響谷』と言う攻略対象には特徴がある。

 それは王道学園乙女ゲームらしい、ちょっとした二面性。


 誰にでも優しく、博愛主義で、他人を傷付けるなんて絶対に出来ない。悪人であろうと慈悲の心を分け与え、無償の笑顔を振り撒く王子様。それが月花堂響谷の、所謂表の顔。

 裏の顔……と言うより素は、傲岸不遜で我儘な俺様で、口調も態度も大きく粗い。反面猪突猛進で向こう見ず、不器用で素直に慣れないと言う王道テンプレ設定だったりする。


 百合愛はその裏表に気付き、振り回されながらもお互いに惹かれ合ってハッピーエンドならゴールイン。

 バッドエンドならライバルに遠慮をした百合愛が身を引いて二人は別れる。

 まぁそのライバルの一人は私なのだが。


「ここが美術室と音楽室と被服室で、選択科目はこのどれかね。下の階に理科室、二つあるから理科室と化学室で分けてて、間違えない様に」


「うん、ありがとう。白浜さん、綺麗な声をしているからとても聞きやすくて耳が心地良いよ」


「……どういたしまして」


 私、これに惚れるの……?

 いや、そのフラグはへし折るつもりだけどさ。

 せめて素の状態でお願いします。キラキラ笑顔で歯の浮く様な台詞は二次元だからときめけるのであって現実になると……いくらイケメンでも少し寒気がするから。


「後は体育館と道場と技術工房かな……全部外だから、一回鞄取りに行こうか。そのまま帰れるように」


 もう百合愛も帰ってるだろう。

 フラグさえ折れればとりあえず目的は達成だし、案内の仕事をさくさく終わらせてさっさと帰ろう。




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