獲物の観察
さて、色々とやってみたけど、結局どれも失敗に終わった。
登れない滝に焦って、少し自暴自棄になっていた。
落ち着いて考えなきゃダメだ。
私は息を深く吸い、深呼吸をする。
目を閉じて、いったん全ての思考を捨てる。
そして、頭がクリアになったところで目を開き、水面から顔を出して滝を見上げた。
まずは観察をしよう。
これは狩りと同じだ。
大きな獲物をしとめるためには、事前の観察が重要となる。
私は滝の周辺を泳いで観察してみた。
天井付近から落ちる滝は勢いを持つ。
私の泳ぎでは勝てないほどに。
普通に泳いでいては、登りきることは出来ない。
私は滝の裏側を見てみようと滝を回り込む。
しかし、滝の裏側は壁になっていて、入り込めるような隙間はなかった。
滝は壁伝いに流れていた。
珍しい滝ね。
滝の裏側はだいたい空洞があるものだ。
しかし、それがこの滝にはない。
私は水しぶきがバシバシと当たるなか、滝と壁にもっと近付いてみた。
壁は岩でデコボコとしていて、滝と壁の間の水流は、壁のデコボコに当たって複雑にうねっていた。
あれ?
でも、これは……。
さらにじっくりと見ると、岩のでっぱりの下は水流が遅くなっているように見えた。
岩の下に隠れれば、流されることもないんじゃないだろうか?
ただ、岩の下以外は複雑な流れになっていて、岩の下から岩の下への移動で、体力を多く削られる心配があった。
残りの体力を考えると、チャレンジ出来るのはあと二回ぐらいだろう。
私は岩の位置を確認し、なるべく壁に近付いてから滝の中に入った。
先ほどと変わらぬ勢いの流れの中、私は一番近くの大きな岩の下に入る。
やっぱり流れがゆるい。
これならいけるかもしれない。
次の岩は右斜め上。
私はタイミングを見計らって、岩の下から飛び出す。
水流が左から襲いかかって来るが、両方の胸ビレで右側の水を必死にかき、流されないように耐えながら右上方に進んだ。
な、なんとか入れた。
岩の下に辿り着き、私はそこで身体を休める。
体力の消耗が激しい。
いや、休める分、普通に滝登りするよりも、体力を温存出来ているかもしれない。
私は次へ次へと岩を使って上に登って行く。
そして、十個目の岩の下に隠れている時に、ふと思った。
どれくらい登れたんだろう?
気になって、私は高さを確認しようと振り返った。
が、それがいけなかった。
半身を反した瞬間、私の身体は岩の下からはみ出たようで、思わぬ水流に襲われた。
上から水が押し寄せる。
しまった!
岩の下に戻ろうとしたが、戻れなかった。
流された体勢も悪く、きりもみ状態で流される。
せっかくここまで来たのに!
どこか、どこか入れる岩の下は!
壁の方を見ると、すでに手遅れだった。
私は水流によって壁から遠く離され、岩の下に入るのはすでに不可能だった。
ああ……。
ここまで登ったのに……。
私はただ嘆くことしか出来なかった。
グルグルと回りながら、私は凄い速さで下へと流されていく。
滝壺に到着するのは一瞬で、ようやくスピードが落ちた時には水底近くだった。
体力をほとんど奪われた……。
もう疲れた……。
心が折れそうだった。
何度挑戦しても勝てない。
滝は強敵だった。
他の魚たちだって何度も破れている。
私だけじゃない。
負けてもしょうがないんだ。
私は流れに身を任せ、力を抜く。
もういっそ進化してしまおうか。
進化すればきっともっと強くなれる。
強くなれば、滝を楽に登ることも出来るはず。
もしかしたら、大きく進化したのは最初だけで、次の進化はそんなに大きくならないかもしれない。
私の心配しすぎかもしれない。
でも……。
そんな不確かなものに、私は賭ける気にはなれなかった。
残った体力から考えて、滝登り出来るチャンスはあと一回。
体力の回復を待っていたら、またお腹が空いて力が出せなくなる。
食事なんてしたら進化待ったなしだ。
岩の下に隠れる登り方なら、この身体でも最後まで登りきれそうだった。
今度こそ慎重に登ってここを脱出する。
私は心に強く誓った。




