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滝との決闘

 まずいかもしれない。

 身体がムズムズし始めた。

 これたぶん進化の前兆だ。

 前回はこのムズムズを無視して食べ続けたら進化した。

 追いかけっこという運動をしながら食事をしていたから、もう少しだけもう少しだけと狩り続けていたらちょっと食べすぎたようだ。

 早く進化はしたいけど、今は困る。

 滝の穴を確認したところ、穴のサイズはあまり大きくないようだった。

 前回の進化と同じように身体が巨大化したら、滝の穴は通れなくなる。

 そうなると、永遠にここから出られない。

 進化する前に、滝の穴を通り抜けなければならない。

 私は急いで滝に向かう。

 なるべく他の魚に邪魔をされないように、私は水の表面を泳いだ。

 水の底には転がって来た卵狙いの稚魚がたくさんいる。

 なんとか邪魔されずに滝の前まで来た私は、滝の前で止まり滝を見上げた。

 けっこう長い滝ね。

 私の身体の十倍ぐらいはあるかな。

 滝の穴は天井スレスレの位置にあり、そこから勢いよく水が流れ出しているわけだけど、そばで見る滝は迫力があった。

 これ登れるかな……。

 簡単には登れなさそうな滝に、私は心配になる。

 でも、やらなきゃ。

 私は家に帰るんだ。

 お姉ちゃんのもとに帰るんだ。

 覚悟を決めて、私は滝に突入した。

 頭の上から押さえつけるような勢いの水に、私はあらがいながら必死に上へ上へと進む。

 こ、これは……。

 水の中をぐいぐいと強引に登ろうとしても、遅々として進まない。

 むむむ……。

 胸ビレと尾ビレをちぎれんばかりに動かすも、落ちて来る水に負けて登れない。

 これは……。

 ちょっと無理!

 力を抜いたとたん滝に流され、私は水底まで押し込まれる。

 底の岩に叩き付けられないうちに水流から逃げ出し、私は滝を見上げた位置にまで戻った。

 滝登りってこんなに大変なの……。

 身体は大きくなったし、泳ぐ力も強くなったのに、滝を登りきれない。

 他の魚たちも登ろうとしては滝に押し流され、滝の半分も登らぬうちに脱落していた。

 たぶん私もあんな感じで、半分も登れていないんだろう。

 これどうやって登るの?

 他の魚の様子を見ても、ただひたすら泳いで滝を登っているだけだった。

 滝を登れる気がしない……。

 ……けど、登らなきゃ帰れない。

 やるしかないか。

 私はもう一度、挑むために滝に入る。

 今度こそおおお!

 止めどなく流れてくる水の中を、私は逆らって泳ぐ。

 胸ビレと尾ビレを精一杯動かして、私は泳ぐ。

 泳ぐ。

 泳ぐ。

 泳ぐ。

 ぐぐぐぐぐ。

 ぐぅ。

 無理だこれ!

 胸ビレと尾ビレを止めたとたん、私はまた押し流されて滝から追い出された。

 もう!

 何この滝!

 私は滝の前に戻って、また滝を見上げる。

 滝はドドドと低い音をたてながら勢いよく流れている。

 その勢いがゆるむ気配は全くない。

 どうすれば登れるの……?

 今の私では滝の水圧に勝てない。

 滝を真っ直ぐに登る滝の水圧との真っ向勝負がダメなら、ジグザグに登るのはどうだろうか?

 私は自分の考えを試すべく、滝に突っ込む、が。

 いやいやいや。

 無理だわ。

 また滝に流され、私は滝の前に戻っていた。

 そもそも滝の水圧に負けてちっとも登れないのに、滝の中をジグザグに泳ぐなんて無謀すぎた。

 やはり最短距離の真っ直ぐを力強く泳ぐしかない。

 って、それがダメだったわけで。

 何この堂々巡り。

 うーん。

 じゃあ、滝の表面を泳ぐってのはどうだろうか。

 滝の水圧を避けたいのなら、単純に水に触れなければいい。

 さすがに全く水に入らないで登るのは無理だから、跳ねるようにして滝の表面を移動する。

 これはいけるんじゃないだろうか?

 私はさっそくチャレンジした、わけだけど……。

 今度は流されたのではなく、滝から落ちた。

 滝の表面に出るまでは出来たのだけど、跳ねるために滝から出た瞬間、下に落ちた。

 ほぼ真上に向かって登るのだから、滝から出たら落ちるのは当たり前だった。

 もっとちゃんと考えないとダメだ。

 私は無力感に覆われながらも、滝を見上げて自分を叱咤した。

 絶対に諦めない。

 私は家に帰るんだ。


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