稚魚の追いかけっこ
私は滝に近い場所まで来た。
近いと言っても、水面から見ると滝が見える位置なだけで、水流はそれほど強くない。
滝の入口までは、まだ距離があった。
ここに来たのは、滝登りにチャレンジするためではなく、他の魚を狙うためだった。
この身体の大きさなら、稚魚ぐらいなら食べられるはず。
というより、エビとかの幼体は、この身体には小さすぎて食べても腹の足しにならなくなった。
幼体よりも大きい獲物を狙うしかない。
それには滝の近くに来るのが一番だ。
小さな稚魚が泳いでいるのが見えるが、そこかしこから、見えている以上の小さな殺気が発せられている。
生きるか死ぬかのやり取りが、ここではたくさん行われているのだ。
私もその中に行かなくてはならない。
私は底の方を泳いでいる茶色の稚魚に目を付けた。
特に変わった部分は見られない稚魚の身体は私より小さく、一飲みに出来そうな大きさだった。
けれども、相手も魚だ。
泳ぎは早いはず。
こっちも気合を入れて泳がないと。
まずは、気付かれないように、そっと近付く。
追いかけるスタート地点は近ければ近いほどいい。
稚魚の後方に回り、稚魚の胸ビレで水をかくタイミングに自分も合わせる。
同じタイミングでも、私は稚魚よりも少しだけ強く泳ぐ。
人間の時の狩りも、獲物の歩調に合わせて追った。
こうすることで、相手に気付かれにくくなる。
私はジリジリと稚魚との間合いを詰めていった。
稚魚はまだ私に気付いていない。
出来ることなら、稚魚のトップスピードを知ってから仕留めに入った方がいいけれども、前準備をしているような余裕はない。
稚魚との距離は身体五つ分まで狭まった。
稚魚は前方にばかり気を取られ、後ろには気を配ってはいないようだった。
よし。
いける!
私は胸ビレと尾ビレを最大限に動かし、スピードを上げる。
私と稚魚との間がいっきに縮まった。
近付いた私に稚魚が気付き、私を一瞥すると慌てて泳ぎを速めた。
遅い!
私はすでに稚魚の真後ろにまで詰めていた。
稚魚の後ろから、私は口を大きく開けて稚魚に喰らい付く。
が、寸でのところで稚魚に避けられた。
稚魚が身体を翻し、私の真横に来る。
甘い!
身体を捻って、私は稚魚の身体に横から喰らい付いた。
今度は捉えることが出来た。
稚魚の腹に私の口を吸いつかせる。
私は鯉のモンスターになっているせいで、口の奥にしか歯がなかった。
前歯があれば噛みちぎることも出来ただろうが、今の私には出来ない。
しかし、その代りに、吸いこむ力は強かった。
なんせ攻撃技に“吸い込む”があるぐらいだ。
稚魚は暴れ回るが、私は稚魚を吸い上げて、稚魚の身体を半分に折るようにして口の中に収めた。
私は抵抗する稚魚を奥歯でバリバリと噛み砕き、おいしくいただく。
うーん。
ウロコが気になる。
ウロコ取りをしてから食べたかった。
まあ、手がないから無理だけど。
さあ、次のターゲットだ。
お腹はまだまだ空いている。
滝登りのために、もっとたくさん食べなきゃ。
お腹が減っていたら踏ん張れない。
私はまた気合を入れ直して泳ぎ出した。




