悲しみの進化
いったいいくつのエビと卵を食べたか分からなくなった頃、私は身体の異変に気が付いた。
身体がムズムズする。
身体を震わせてそのムズムズを解消しようとしたが、うまくいかない。
何だろうこれ。
何かが変だ。
ドクンと心臓が跳ねる。
身体が熱い。
何これ。
ドクンドクンと心臓が早鐘を打ち、身体中にピリピリと痺れが走る。
痛い。
痛い。
痛い。
目をギュッとつぶり、痛さに耐える。
身体が破けそう!
そう思った瞬間、唐突に痛みが消えた。
なん、だったの?
私はそうっと目を開ける。
え?
何これ?
周りが小さくなった?
周囲の景色が変わった。
全てが二回り以上小さくなっていた。
どうなっているの?
周りを確認しようと泳ぎだすと、思っていたよりも早いスピードで前に進んだ。
私は驚いて急ブレーキをかける。
これは……。
もしかして、私の身体が大きくなっている?
確認のために、私は岩の壁に近い水の底に向かい、エビに飽きたら食べようと目を付けていた水草のサイズと自分を比べてみた。
すらりと真っ直ぐに伸び、茎にそって対になるように生えていた水草の葉は、さっきまで私と同じぐらいの大きさだった。
けれども、今は私の半分以下の大きさになっている。
私……。
だいぶ大きくなったみたい。
これが進化か……。
いきなり身体の大きさが変わったものの、身体を動かすのに苦労はしない。
何というか、分かる。
本能。
というのだろうか?
こんなに変化しているのに、違和感がない。
あと、もう一つ。
分かることがある。
必殺技っぽいものが出来る。
私は湖でのモンスター観察で、疑問に思っていたことがあった。
それは、同種と思われるモンスターが、同じ攻撃方法をとっていたこと。
たとえ同じ種類のモンスターだとしても、いきなり進化して同じ攻撃が出来るのはおかしくないかと思っていた。
こういうのは何度も練習して、習得するものじゃないのかと。
でも、これで全部分かった。
モンスターには本能で分かるのだ。
理屈じゃない。
まあ、私が出来る必殺技は、だいぶしょうもないものみたいだけど。
とりあえず、大きくなれたことだけ喜べばいいか。
これで、あの滝にもチャレンジ出来るはずだ。
さっそく滝登りにチャレンジ、といきたいところだけど。
グウウゥ。
お腹減った。
身体が大きくなったせいか、猛烈にお腹が減っていた。
これはチャレンジの前に腹ごしらえだな。
いきなりの進化を受け入れてやっと落ち着いたので、さて泳ぎ出そうしたとき、私は異変に気が付いた。
視界の端に、ニョロリと細くて長いものが見えている。
よく見ると、それは口の辺りから出ているようだった。
そういえば、さっき泳いだときも視界にこれが入っていた。
進化したばかりで戸惑っていて、目の端に入っていても意識していなかったけど……。
これは……。
まさか……。
……髭?
髭なの?
髭……。
……いやああああああああ!
私は受け入れ難い髭のショックに、身体を左右に振って悶える。
視界の中で、髭も一緒にニョロニョロと揺れるのが見えた。
私、女の子なのに!
女の子なのにいい……。
こんなのってないわ……。
こんな立派な髭ええぇ……。
うう……。
これ次の進化で消えるのかな……?
人型になってもこのままじゃないよね……?
グウウゥ。
お腹がまたなった。
髭は嫌だけど……。
お腹は減ったわ……。
私はしょんぼりとしながら泳ぎ出した。
髭に嘆いている場合じゃないわよね……。
そもそも魚になっているわけだし。
そう。
今さらよ。
今さら。
……でも、髭。
ううう……。
早く進化しよう……。