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湖の中

 暗闇に放り出されて一時間はたっただろうか?

 それとも三十分?

 もしかして五分もたっていないかもしれない。

 暗闇は私の時間の感覚を狂わせた。

 どうなっているんだろう?

 暗闇では前も後ろも右も左も分からなかった。

 どうなっちゃうんだろう……。

 お姉ちゃん……。

 お姉ちゃんに会いたい……。

 寂しいけれど私ではどうにもならない。

 ん……?

 これは……。

 目の前に亀裂が入る。

 そこから光が入り込んできた。

 眩しい……!

 亀裂が大きく割れ、私は暗闇から押し出された。

 わわわ!

 上と下がどちらかも分からず、身体がきりもみ状態で流されて翻弄される。

 め、目が回るううぅ。

 止まってええぇ。

 あ、足!

 足で踏ん張れば!

 足で踏ん張ろうとするが、うまく踏ん張れない。

 なんか足が開かない!

 じゃあ、手!

 手で!

 手をバタバタと大きく動かそうとしたが、それも無理だった。

 手が上げられないいい!

 身体の様子がおかしい。

 どうなってるのおおおぉ!

 私は止まることが出来ず、しばらくグルグルと回り続けた。

 そして、回転がゆっくりになった時には、完全に目が回っていた。

 ううう。

 気持ち悪い。

 私は目の前がクラクラしながらも、周りの状況を確認する。

 ここは……。

 薄青色の空間がどこまでも広がっていて、空には波紋が浮かんでいた。

 あの空……。

 水面だ。

 じゃあ、ここは水の中?

 でも、息は出来る。

 私は思いっ切り息を吸ってみる。

 口から液体が入って来る感覚はあったが、それを苦しいとは感じなかった。

 そういえば、あの変な魚が私を鯉に転生させるって言っていたな。

 落ち着いて手を動かしてみる。

 パタパタと上下に少しだけ動き、少しだけ前に進んだ。

 今度は足を動かしてみる。

 足を開くことは出来ないが、両足を一緒に動かすことは出来た。

 足を動かすと、ツイッとさっきより早く進めた。

 身体が変化している。

 私……。

 本当に魚になっちゃったんだ。

 もうお姉ちゃんに会えないのかな……。

 私は水の中を泳ぎだす。

 上に行くべきか下に行くべきか……。

 水の中で暮らしたことなんかない。

 どこが安全なんだろう?

 うーん。

 川とかだと小さな魚は石の下とかにいたっけ。

 じゃあ、下に進めばいいかな。

 私は身体を下に向ける。

 が、急に自分の周りが陰った。

 何?

 上を見ると、そこには巨大なヘビのような生物がいた。

 何あれ?

 胴体はヘビのようだが、前方に二対の大きなヒレが生えている。

 その長さは胴体より長く大きい。

 あんなの見たことない。

 あれがこの湖の水棲モンスターかな。

 この距離なら私が見えているはず。

 なのに反応はない。

 ヘビのようなモンスターは優雅に泳いでいる。

 そこへ、骨だけの魚が泳いできた。

 これはわかりやすい。

 絶対にモンスターだ。

 骨魚モンスターは大きく口を開き、ヘビのようなモンスターに襲いかかった。

 ヘビのようなモンスターはそれをスルリとかわし、骨魚モンスターの身体に沿って巻き付いていく。

 そして、骨魚モンスターを締め上げ始めた。

 あれ締め上げていることになっているのかな。

 骨だけだといまいちわからない。

 ギリギリと締められていた部位がボキリと折れ、骨魚モンスターがバラバラと崩れていく。それ以後は、骨が動き出すことなくはなく、湖の底に沈んでいった。

 どうやらヘビのようなモンスターが勝ったようだ。

 ヘビのようなモンスターは再び優雅に泳ぎだし、どこかに行ってしまった。

 なんか……。

 あっさりと勝負が決まったな。

 力の差が大きかったのかな?

 それにしても、あの二匹のモンスター、私に反応しなかった。

 全く眼中にないといった感じだった。

 まあ、それもそうか。

 私は産まれたばかりのただの稚魚。

 こんなに小さかったら脅威にはならないし、食べたところで腹の足しにもならない。

 意識を向けるのさえ無駄というものだ。

 私が注意すべきなのはあんな大きなモンスターではなく、小さなモンスターや私より大きな稚魚になるだろう。

 私はそれからも泳ぎ続け、色んなモンスターの観察をした。

 そして、しばらく観察したところで、私はあることに気が付いた。

 お腹空いた……。

 稚魚の姿になってから、何も食べていなかった。

 そりゃお腹減るよね。

 観察の続きはご飯食べてからにしよ。

 私は湖の底に向かう。

 そういえば、私って何が食べられるんだろう?

 普通の魚なら水の中のちっちゃな虫とかだろうけど、私はモンスターらしいからなぁ。

 モンスターの稚魚って何を食べているの?

 大きいモンスターはモンスター同士で戦って倒して、相手を食べていた。

 ということは、私もモンスターの稚魚を倒して食べないといけないのかな?

 あー、でも、水草を食べていたモンスターもいたな。

 もしかして、モンスターってだいたい何でも食べられる?

 湖の底には大きな岩がゴロゴロしていた。

 うーん。

 この岩にくっ付いている緑色のコケっぽいのは食べられるかな。

 岩に近付いて、コケを観察する。

 フサフサしていて、柔らかそう。

 でも、コケかぁ……。

 いざとなればこれでもいいけど、もう少しまともそうなのはないかな?

 私は湖の底をさらに探索する。

 コケ、コケ、コケ、お、水草、コケ、コケ、水草。

 出来れば野菜より肉系が食べたいなぁ。

 湖の中だと魚肉になっちゃうけど。

 今の私に他のモンスターが倒せるだろうか?

 湖の端に到着し、今度は端の土壁沿いに泳ぐ。

 陸に近い方が水草多いな。

 土壁には水草が密集して生えていた。

 こういうところには小さい魚がいることが多いし、気を付けて進まないと。

 そう思って水草の中を注意して見ていると、丸い何かが地面を転がっているのが見えた。

 何あれ?

 私は周りを確認しながらその丸い何かに近付く。

 丸くて、プリプリしていて、中が赤く透けている。

 もしかして、これ卵?

 大きさは私の身体の倍以上はありそうだけど、人間の時のサイズから考えると、この丸いものは指先ぐらいのサイズになるはず。

 ……おいしそう。

 私は思い切ってかぶり付いてみた。

 濃厚でトロリとした中身が、破けた透明な皮から口の中に流れ込んで来る。

 旨みが凝縮されたような味わいがたまらなかった。

 おいしい!

 卵はまだまだ転がっている。

 続けて隣の卵にかぶりつく。

 うーん。

 最高!

 お姉ちゃんにも食べさせてあげたいなぁ。

 でも、このサイズじゃ人間には小さくてダメか。

 今の私はとても小さい。

 卵が大きく見えていても、実際はかなり小さいのだ。

 今はしっかり食べて力を付けよう。

 私は次々と卵を食べる。

 食べられるときに食べておかないと。

 保存場所はまだ確保出来ていないし、残しておいても他のモンスターに食べられるだけだ。

 夢中になって卵にかぶりついていると、身体が引っ張られるのを感じた。

 何?

 顔を上げて確認する。

 身体が前方へ流されていた。

 え?

 何これ?

 私は慌てて流される方向とは反対に泳ぎだす。

 ダメだ!

 進まない!

 必死に足を動かしているのに、身体は後ろへと流されていく。

 周りの卵も水流に巻き込まれ、コロコロと私と同じ方へ転がっていく。

 どこに流されているの?

 私は泳ぎながらも、後方を確認する。

 後ろにはポッカリと暗い大きな穴が広がっていた。

 洞窟?

 水流は洞窟の中に向かっていた。

 卵が洞窟の中に転がっていき、見えなくなる。

 中はだいぶ深そうだ。

 私の力じゃ……!

 まだ稚魚である私には、この流れに逆らえるほどの力はなかった。

 抵抗空しく洞窟の入り口が近付く。

 もう……。

 ダメだ……!

 私は暗い洞窟の中に引きこまれてしまった。

 ぐんぐんと流されて、前後左右が分からなくなるほどもみくちゃにされる。

 無力な私は流れに身を任せるしかなかった。


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