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生への道

 けれど、ナマズとのやりとりで、余計な体力を使ってしまった。

 残りの体力は少ない。

 私はとりあえず水流から隠れられるような岩を探した。

 早く移動しなきゃ。

 必殺技レベルの“吸い込む”をもって壁に吸い付いていても、滝の水圧はキツイ。

 どこか。

 どこかに移動出来る場所は……。

 近くにそれらしき岩はない。

 確認もせず滝に入ったせいで、最悪の場所取りとなってしまったようだ。

 私はさらに周囲を確認する。

 一番近くの岩は……。

 あそこか……。

 だいぶ上の方に大きな岩があった。

 一泳ぎじゃ全然届かない。

 ここから泳いでギリギリ届くかどうかの距離。

 他に近い岩はないし、逃げられる場所もない。

 あの岩に行くしかないのだ。

 けれど……。

 躊躇してしまう。

 もし届かなかったら、流されてそのままナマズの口へすっぽりインだ。

 そんなの嫌だ。

 でも……。

 でも、行くしかない。

 そこにしか道はないのだから。

 私は覚悟を決めた。

 そして、泳ぎ出すべく岩に吸い付くのをやめようとしたが、異変が起きた。

 吸い付いている岩が、ぐらりと揺れたのだ。

 え?

 私の身体の何十倍もある巨大な岩が、私ごと傾き始める。

 岩が壁からはがれようとしていた。

 うそうそうそ!

 驚いているうちに、岩は壁から完全に離れてしまった。

 岩はグルンと回転し私の下になり、私をくっ付けたまま滝の水流にのり、凄い速さで下に落ちて行く。

 うそーーーっ!

 このまま落ちたらナマズの餌食だ。

 ナマズから逃げる体力はない。

 そして、滝を登る体力ももうない。

 生きるためには、もう進化するしかないのだ。

 進化するしかないのならば、私はナマズを倒して進化する!

 私は尾ビレで水を蹴って、落ちる先を修正した。

 私が疲れて落ちて来るのを待って下にいたナマズは、私の考えに気付き逃げる気配があったがもう遅い。

 岩はナマズの頭部ほどの大きさがあった。

 私はナマズの脳天に、岩ごと突っ込む。

 強い衝撃と手ごたえが、岩ごしに身体全体へと伝わって来た。

 岩が割れる。

 滝の水圧が加わった岩は、強力な鈍器となったはずだ。

 私はナマズから離れて様子を見る。

 岩の下じきとなっているナマズは動かない。

 倒した?

 じっとナマズを観察していると、心臓がドクンと跳ねた。

 身体が熱くなり、ピリピリとし始める。

 これは……。

 身体が進化する?

 じゃあ、ナマズは倒せたんだ。

 私はナマズに食べられなかったことを安堵するが、ちょっとそれどころじゃなくなった。

 イタタタ。

 私の身体中に破れそうな痛みが走る。

 進化のたびにこの痛さを我慢しなきゃいけないの?

 勘弁してー!

 そう頭の中で叫びながら、私は痛さに目をギュッとつぶった。

 そして、前回と同じく唐突に痛みが消える。

 終わった……?

 私はそっと目を開く。

 周りの景色に前回ほどの劇的な変化はなかった。

 少し縮んだ程度かな?

 どうやら今回は、そんなに大きくならなかったようだ。

 これなら滝の穴も通れるかも。

 私はそのことを喜ぶ。

 が、すぐに視界に入ってきたものに、私はギョッとした。

 え?

 手?

 身体の両脇から細いものがニョロリと出て、その先で膨らんで三つ又に分かれていた。

 これ……。

 どう見ても腕と手だよね?

 私はまじまじとそれを見る。

 ヒョロリと細くはあるけれど間違いなく腕だし、三つ又だけれど爪もあるきちんとした手だった。

 あとどこが変わったんだろう?

 さっそく新しく生えた腕と手を使って、身体中をペタペタと触る。

 その結果、分かったのは……。

 どこも変わってない。

 私はガッカリした。

 腕と手が生えたから、もしかしてもう人魚に近い身体になれたのかと、期待してしまった。

 触って確かめたけど、どう考えても魚の身体に腕が生えただけの姿だった。

 それに、髭も消えてなかった。

 消えないどころか、少し長くなったような気がする。

 この姿……。

 気持ち悪くない?

 魚に腕が生えているって気持ち悪くない?

 この姿はあれを彷彿とさせる。

 蛙。

 蛙は足から生えるけど、おたまじゃくしから蛙になる時の姿が思い出された。

 ……さすがに、蛙にはならないよね?

 いや、でも蛙が人間になるお話もあったはず。

 あれは真実の愛で、人間になるお話だったと思う。

 真実の愛が家族愛でも有効なら嬉しい。

 お姉ちゃんに頼むことが出来る。

 肝心なのは人間になること。

 最終的に人間にさえなれればいいんだ。

 そう。

 たとえどんな姿になろうとも。

 どんな姿になろうとも……。

 ……やっぱ嫌。

 気持ち悪いのは勘弁してー!

 私は心の中で叫んだ。


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