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巨大生物の選択

 私は流されるままだった体勢を立て直そうと、胸ビレと尾ビレをちょいちょいと動かす。

 逆さまになっていた身体を元に戻し、水の流れから抜け出そうとした時、私は刺すような冷たさを感じ取った。

 とっさに進もうとした方向とは逆の水底へ沈むように、尾ビレで水を蹴る。

 水底の岩に身体を打ち付けたが、私のすぐ上を巨大な何かが素早く通り抜けていった。

 な、何?

 通り過ぎた何かの後ろ姿を見ると、ずんぐりむっくりとした体躯と左右に揺れる太い尾ビレが見えた。

 その体躯が、優雅に旋回して顔をこちらに向ける。

 それは大きな口と二対のヒゲを持った生物だった。

 ナマズ?

 その生物はナマズにそっくりで、口をぱっくりと開け、私に向かって来た。

 私を軽々と一飲み出来る大きさだった。

 ナマズに狙われている!

 私はナマズを避ける。が、ナマズは思っていたよりも早く、私はギリギリでナマズの右側へと避けた。

 ナマズのヒゲが私をかする。

 まずい!

 どう考えても、追いかけっこで逃げ切れる体力がない。

 滝登りでほとんどの体力を使ってしまった。

 ナマズのこのスピードで追われたら、すぐに追い付かれてナマズに食べられてしまう。

 どこかに隠れるか、追って来られないような場所に逃げなければ。

 私は周りに視線を走らせる。

 周りは岩の壁と岩のじゅうたんで、どこまでも水が続く。

 隠れられる場所なんてない。

 旋回したナマズがまた私に迫って来た。

 私は大きくジグザグに泳いで逃げる。

 あの巨体なら小回りはきかないはずだ。

 短時間のおにごっこなら逃げられる。

 私は泳ぎながら逃げ場所を探した。

 しかし、この近辺に隠れられるような場所なんてない。

 探すまでもなく知っている。

 この空洞に流された日に、空洞の中はあらかた調べたのだから。

 ないものを探してもしょうがない。

 隠れられる場所がないのなら、ナマズが追って来られない場所に行くしかない。

 もう考えている暇はなかった。

 ナマズは身体一つ分まで差を詰めて来ている。

 私はナマズに背を向け、上を目指した。

 向かってくる水流は強いが、ナマズにも影響しているはずだ。

 そう信じて、私は振り向かずに突き進む。

 そして、滝の中に突っ込んだ。

 追って来られない場所。

 それは滝の中だ。

 私は滝の中を必死に泳ぎ、壁に辿り着く。

 運悪く流れをさえぎってくれそうな岩はなく、私は流れの強い中、壁の岩に吸い付いた。

 身体に水圧をもろに喰らう。

 水に押し潰されそうだったが、私はそれに耐えながら岩に吸い付き続けた。

 ナマズは予想通り追って来ない。

 ナマズは滝を登れる力がないのだ。

 だから、この空洞で巨大になるまで育ってしまった。

 あのナマズはここで永久に暮らす選択をしたのだ。

 私はそんな選択なんて絶対にしない。

 そして、食べられる側にも絶対にならない。

 ナマズの殺気はまだ続いていた。

 下の方から刺すような冷たさを感じる。

 私が疲れて落ちて来るのを待っているのだ。

 私だってナマズの立場になればそうする。

 でも、私は落ちない。

 生きて帰るのだから。

 お姉ちゃんのところに帰るのだから。

 私は生きて帰る選択をする。


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