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Red Boy  作者:
1/1

Mother


母はわたしが五歳のときに亡くなった。


まだ二十五歳と若く、至って健康だった彼女の死を誰もが悲しみ、涙を流していたらしい。


寝顔のような母の顔を、今でも忘れられない。


「十二年経った今、優子さんからわたしに手紙?」


「うん、ずっと言われてたんだ。綾子が十七になったら渡してくれって」


にこり、優しく笑い父は振り返る。


「透さんは中身、見た?」


「まさか。優子さんの言いつけだからね」


見てないよ、と言った。

わたしは父を透さん、と呼び、母を優子さんと呼んだ。

それはわたしが物心ついた頃からのだからね愛称でもある。


「読まなきゃダメ?」


「読みたくないの?」


「なんとなく、ね」


手紙とは言えないような分厚い紙を、わたしは両手で包んだ。

少し紙は汚れ、黄ばんでいて、十二年という月日を感じさせるには十分だった。


「優子さんからもらった言葉、一つしか覚えてないの」


「なに、教えて?」


「原稿の締切に間に合ったら、教えてあげるわ」


ソファーから立ち上がり、透さんの肩を軽く叩く。

すると透さんは思い出したような

「あっ」とした声を出す。


「忘れてたよ!もうこんな時間だ!」


「ほら早く部屋行って、小説書く」


父は勢いよく頷き、作りかけのビーフシチューのおたまをわたしへと渡した。そして部屋兼書斎に駆け込んでいった。


「全く、世話が焼ける父親だ」


笑いながらため息を付き、おたま片手にもう一度、手紙を見つめる。


「…優子さんからの」


手紙。


いつでも笑顔で、子供のような人だった。

わたしとよく透さんに悪戯をしていた。

コメディアンのようで、八方美人で、寂しがり屋で、強がりなひと。

とても美しかった人。


わたしの母は、有名な女優だった。

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