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天使の歌声  作者: 紅凛
第一章:ジュリア
8/50

混乱の原因



 自宅に戻り、普段着に着替えてベッドに沈む。

 無性に背中が痛い。

 油断すると涙が溢れてくる。


 ――あの男、一体何をしたんだ……?


 父との約束の時間が迫ってきて起き上がる。

 夕闇が迫る中、再び悲鳴を上げる身体を宥めながら、暗い気分で家を出た。


「ジェル」

「ブレイド……?」


 家を出てすぐの所に、人目につかないような服装のブレイドが立っていた。


「トールから話を聞いたんだ」


 頭から血の気がひいていくのを感じて、立っていられないほど気分が悪くなる。


「大丈夫か?」

「うっ……」


 ジェルは口許を押さえてブレイドの方に倒れこむように崩れ落ちた。

 家に戻ってブレイドに支えられながら胃を空にすると大分、楽になる。

 ソファーに座らされて、一息つくと隣りに座った顔色の優れないブレイドが口を開いた。


「トールには口止めしておいたから大丈夫だ」

「……すまない」

「いいんだ。少し落ち着いたら、病院へ連れていってやる」

「もう平気だ」

「そうは思えない。親父さんは、どうした? 残業か?」


 ブレイドの顔は真剣そのもので。


「外食する予定だったんだ……」

「出かけるなんて無茶だ。場所はどこだ?」


 ジェルは、ブレイドに父との待ち合わせ場所を告げる。


「わかった。無理するなよ」


 心配そうにブレイドは出かけていった。


「驚いたよ。王子がメッセンジャーだなんて」


 驚くほど早く帰宅してきた父が、ジェルの部屋に訪れる。


「悪い。あいつしかいなくて……」

「どうした? 流行病か?」

「いいや。――クラスメイト達に、アレを見られた」


 意を決したジェルの言葉に、父は息を詰めた後、嘆息した。


「どんな状況だったんだ?」


 "トール達の事だけ"を掻い摘んで説明すると、父は苦笑する。


「王子絡みの嫉妬か。青いね。……向こうさん、慌ててたろう?」

「驚いてはいたけど……見られてもいいのか?」


 あんなに口煩く言っていたのに……とジェルは不貞腐れた。


「良くはないけど、一応、ヴェリオンに入学する直前に保険で魔術をかけておいたんだ」

「魔術?」


 魔術って、旧世代の迷信じゃなかったのか……。


「そう。背中と胸の痣の代わりに、お前が異性に見えるっていう単純な目くらましの魔術だ」

「……なん、だって?!」

「面白いだろう?」


 父には、まだ話していないが……ブレイドにも、あの男にも見られている……という事は……?

 ジェルは顔を青くした。


「もしも本当に痣を見られていたら大変な事になる。それだったら嘘でもいいから誤解されたほうが数倍マシだ……と思ってね。魔術をかけておいて正解だったな」


 父はあっけらかんと、そう言ったが。


「そもそも、この痣は何なんだ?」


 ジェルは胸を押さえる。

 産まれた時から胸と背中にある、赤い大きな痣。

 まるで魔法陣のようにも見える、ソレ。

 胸の部分は魔法陣の中に幾何学模様が描かれていて、背中には魔法陣の中に翼にも見える左右六本ずつの翼が描かれているのだが。

 父は物心つく前から、まるで呪文のように『誰にも見られてはいけない』と繰り返しジェルに教え込んでいた。

 しかし、今まで一度たりとも理由を話してくれた事はなかった。


「とても大切なものだ」


 相変わらずの父は、にっこりと。

 それでいて、それ以上の質問は許さない――とばかりに笑った。


「その誤解とやらは……解けないのか?」

「痣の事を話すつもりか? だとしたら今すぐにでも地下室に隔離する」


 鋭く切り返されて、ジェルは黙る。

 やると言ったら、この父は確実にやる。


「これからも、なるべく見られないように気をつけるんだ。じゃないと、お前の事を誤解する連中が増えるだけだぞ?」

「せめて他のものに見える魔術にしてくれないか……?」

「却下だ」


 父は妙にキッパリ言い切った。


「どんな理由であれ、見られてしまったお前の責任だ。例え私の魔術が原因で学校を辞める事になっても、仕方のない事だと思うが?」


 父の発言は絶対だった。




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