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天使の歌声  作者: 紅凛
第一章:ジュリア
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お忍び




 クレイは、とても綺麗で儚い少女ジュリアを見送ると、城の門番に話しかけた。


「やあ、テリー」


 テリーと呼ばれた、先ほどの若い門番は驚愕した様子で駆け寄る。


「クレイル王子!」

「やめてくれよ。この格好の時は庶民のクレイだって言ったろう?」

「クレイ……さん。どうしたんですか? こんな所に」

「さっき可愛い女の子がここに立ち寄らなかった?」

「ええ。伝言を頼まれまして」

「伝言って?」

「ブレイド王子宛です」

「ブレイドに?」

「今日、ご友人がお見えになる予定だったのですが、体調不良のため来られなくなったと」

「それって、もしかしてジェル・シニアンって子?」

「よくご存知で」

「そう。ありがとう……」


 クレイ、もといクレイルは顎に手をあてると、思案気にリーゼルの家に戻って報告する。


「届けてきたよ。お兄さんと今後の事を相談してみるってさ」

「そう。それなら心配ないわね。ありがとう、クレイ」

「いいんだよ。僕、ちょっと用事を思い出したから……明日また来るね。リーゼル」

「わかったわ」


 クレイルはリーゼルを抱きしめると、耳元で囁く。


「君が底抜けにお人好しなのはわかっているけど。いい加減、危険な事に首を突っ込まないでくれない?」


 未だクレイルは、ジュリアという少女の事を疑っていた。

 リーゼルはこれまでも人の良さにつけこまれて、困った人を装った底意地の悪い連中に何度も騙されているのだ。

 今回も、そうでないとは言い切れない。

 何よりジュリアの言っている事は、何故だか胡散臭く聞こえるのだ。

 彼女が暴漢に襲われて、深く傷ついているのは本当だろう。

 むしろ、こちらが感じているよりも事態は深刻かもしれない。

 しかし、その他の……例えば兄の事だとか――が嘘に聞こえてしまうのだ。

 これはクレイルの勘であり、確証はないのだが、幼少の頃より培った経験に基づく貴重な才能でもあった。


「仕方ないでしょう。あの子、放っておけなかったんだもの。あなたもよ?」

「はいはい」


 苦笑したクレイルは、すぐに城へ戻って着替え等をし、やがて弟の部屋に赴く。


「何か用? 兄さん」


 ブレイドは心なしか、つまらなそうに尋ねてきた。


「さっき門の所で、お前の友達の妹さんに会ったんだよ」

「妹?」

「ジェルって子の妹さん。とっても美人だね」


 クレイルが笑むと、ブレイドは表情をキツくしてクレイルに食いついてきた。


「ジェルは一人っ子だぜ? 妹に会ったって、本当か? どういう事だ」

「……」

「どういう事だ。兄さん!」


 他ならぬ弟から、底知れぬ迫力を感じてクレイルは息をつめた、その時。


「ブレイド王子。ご学友がお見えです」


 従者の一人がやってきて恭しく頭を下げた。

 ブレイドは、とある人物を思い浮かべて首をかしげる。


「学友だって? 名前は?」


 しかし、従者が告げたのは別の人物の名前だった。


「エブリア・トール様。トール卿のご子息です。何でも急ぎの用があるとの事」

「急ぎの用だって? また、つまらない政界の話かな?」


 ブレイドが訝しんだ時、クレイルが冷静に言葉を紡ぐ。


「いいから話を聞いてみよう。胸騒ぎがする……貴重な情報のはずだ」


 兄の勘は、悪い事ほど良く当たる。


「通せ」


 ブレイドは鋭く命令を下した。




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