妹?
ジェルは、とても重い足取りで城へと引き返す。
あの男と出くわしても、すぐに逃げられるように、なるべく人気の多い道を選んだ。
やがて見えてきた城の門番に話しかける。
「お仕事中、すみません」
「はい?」
出てきたのは若い門番で、何故かジェルを見て、うっすらと顔を赤くした。
「ジェル・シニアンから伝言を頼まれて……それを伝えに来たのですが」
「ああ、ジェル・シニアン君ね。話には聞いてます。どのような伝言ですか?」
「今日は体調が悪くて行けない、と伝えて欲しいと……」
「了解しました。……大丈夫ですか?」
「え……?」
「あなたも相当具合が悪そうですよ」
門番の言うとおり、実際にジェルは相当、身体の調子が悪かった。
「大丈夫です。大変お手数ですが、伝言の方……お願い致します」
「わかりました。失礼ですが、貴女のお名前は?」
「……ジュリアです」
「わかりました。お気をつけて。ジュリアさん」
門番が爽やかな笑顔で見送ってくれて、ジェルは安心する。
途中、古着屋に立ち寄るが、そこで財布を落とした事に気づいて何も買わずに古着屋を出た。
――あれには身分証明書も入ってるし、明日、自警団に問い合わせよう。
そう考えて自宅へと足を向けた時、クレイと再会した。
「ひょっとして、これを探しているのかな? ジュリア」
クレイが持っていたのは二つ折りの財布だった。
「わざわざ、ありがとうございます」
礼を述べるジェルを見て、目を細めるクレイ。
「でも。これ君のじゃないよね? ヴェリオン学園の支給品だ」
クレイは値踏みするようにジェルを見つめてきた。
ヴェリオンは男子校なので、当然といえば当然の質問だった。
「これ、どこで手に入れたの?」
クレイの質問にジェルはどう答えようか迷う。
出来れば嘘はつきたくなかったが……。
「ちょっと座って話そうか?」
近くにあった緑の濃い公園に入り、二人はベンチに座る。
「そうか。君はジェル君の妹さんなんだね」
ジェルの事を寝堀り葉堀り聞いた上で、ようやくクレイは納得した様子で財布を渡してくれた。
「はい。兄の忘れ物を届けに行く所で……」
クレイの、やんわりとした追及から逃れるためにジェルは嘘を重ねるしかなかった。
「それにしても身体、大丈夫? 僕でよければ病院に付き添うよ」
「もう平気ですから……」
「でも、顔色悪いし……色々と痛むんだろう?」
「兄に相談してみます。ありがとうございました」
「無理しないでね」
クレイは見送ってくれたが、ジェルは内心ヒヤヒヤしていた。
まさかクレイが学校に問い合わせたりする事はないだろうが……。
――それより何より、トールだ。
もし、口外されたら……と思うと、ただでさえ身体の調子が悪いというのに、余計にジェルは気分が悪くなった。