誤解
翌朝、神官の制服を着た父に連れられて、街の中央に位置するヴェリオン城へと向かう。
「夕飯までには戻るよ。いつもの所で待ち合わせしよう」
そのまま父は関係者以外立ち入り禁止の城の奥深くへと行ってしまった。
残されたジェルは、人が多数集まっている門の近くの正面の庭へと向かう。
今日はヴェリオン建国記念日。
王族の姿を見るために、多くの人が城へとつめかけていた。
やがて式典が始まると、城のバルコニーからヴェリオン王や王妃、そして、ダムド、クレイル、ブレイドという三人の王子達が笑顔を見せた。
ブレイドが普段の姿からは考えられないほど王子様的な表情を浮かべているので、ジェルは吹き出しそうになってしまう。
式典が何事もなく終わり、人ごみに紛れて、さて門番……とジェルが門を守るガード兵に近づこうとした時。
「……!」
背後から近づいてきた何者かに口を塞がれ、そのまま人気のない路地裏に連れ込まれてしまった。
「調子に乗るなと言っただろう?」
腹に何発か強烈なパンチを受けて道端に蹲っていたジェルが見上げると、クラスメイトのトールとコクトー、そしてバリスがいて。
流石に武闘派の三人相手だとキツイな……とジェルが思案している時。
「ったく。こんな見窄らしい奴に、何で王子は……ん?」
不意にトールがジェルを立たせて前髪を持ち上げる。
次いで、僅かに息を呑む音。
「え……?」
「離せ」
ジェルが顔をしかめると、急にトールは酷く真剣な顔つきになった。
「お前等、おさえてろ」
二人がかりで身体を拘束され、藻掻いてみるものの上手くいかない。
目や口をふさがれていて、何がどうなっているのかわからなかったが、ピンチである事だけは分かりすぎるほどに分かった。
やがてトールたちの驚いたような声が響く。
「これって……どういう事だ?」
力が緩んだ隙に、ジェルは二人の手の中から抜け出す。
そして、無残にも破かれ剥ぎ取られた上着とサラシを奪い取って、脱兎のごとく逃げ出した。