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天使の歌声  作者: 紅凛
序章
1/50

始まり




「ジェル。終わったら声をかけてくれよな」


 既に肌着のみというラフな姿のブレイドが、いつものように無駄に整った精悍な顔に、人懐っこい無邪気な笑顔をうかべる。

 ブレイドはこの国でも珍しい銀髪に緑色の瞳を持っている、均整のとれた恵まれた体格をした少年だった。


「わかった。また後で」


 そう答えると、ブレイドは隣のシャワーブースへと消えていく。

 ここはヴェリオン学園の大浴場の隣りに設置された個室のシャワールーム。

 大浴場は生徒なら時間を問わず誰でも利用可能なのだが、訳あって大浴場には入れなかった。

 いつもの通り、授業終わってそのままの姿でここまで来たジェルは、個室に入り、慎重にドアを閉めた後で篭手や膝当てなどを外し始める。

 脱げばそれなりに筋肉質なのだが、着やせするのか何故か周りに「華奢だ」と評されている身体を見下ろしつつ、長い金髪をしばっていた組紐を外した。

 顔の上半分を覆っていた前髪をかきあげると、右横の姿見に目眩がするほど今は亡き母に良く似た自分の顔が映る。

 汗ばんだ服を脱いで、装備と一緒に籠の中へ放り込み、最後に胸の部分を覆っていたサラシを取って、一息ついた。

 蛇口を捻って、しばらく水の冷たさを堪能する。

 先程までの戦闘訓練の余韻で火照った身体に心地よかった。

 再び胸にサラシを巻いて普段着を身に付けて外に出ると、ブレイドは傍のベンチに座っていて、おぼつかない手つきで左足首に包帯を巻きつけていた。


「怪我でもしたのか?」


 声をかけると、ブレイドはニヤリと笑む。


「少し捻っただけだ」

「貸してみろ」


 素直に包帯を渡してきたので、ジェルはブレイドの目の前で跪く。


「あまり無茶するなよ。こんなのトール達に見られた日には……」


 ジェルがブレイドの足首に丁寧に包帯を巻きながらそう言うと、当のブレイドは顔をしかめる。


「アイツ等、大袈裟なんだよなぁ」

「お前には大袈裟過ぎるくらいが丁度良いんだ」

「それって、どういう意味だよ?」

「わからないのか?」


 包帯を巻き終えたジェルが、顔を上げて目の前の級友を見つめる。

 ブレイドは肩を竦めた。


「わかった。今度から気をつけるよ」

「是非とも、そうしてくれ」


 ジェルが嘆息した時、背後から声が飛んできた。


「王子! ここでしたか」


 それは同級生のエブリア・トールだった。

 茶髪に茶色い瞳、そして意外と濃い顔が特徴なトールが駆けてくる。


「どうした? そんなに慌てて」


 さり気なく靴を履き、ズボンの裾をおろして包帯が見えないようにしたブレイドが尋ねると、トールが口を開いた。


「城から迎えが来ております。お急ぎください」

「そういえば、何か準備があるって今朝言ってたっけかな」


 のんびりとブレイドは立ち上がって、ジェルを見つめる。


「んじゃ、また明日な。ジェル」

「ブレイド。明日は……」


 明日は祝日で学校は休みなのだが。


「どうせ、お前も親父さんの付き合いで城へ来るんだろ? ついでに珍しいもの見せてやるよ」

「お前……」

「少しくらい良いだろ。付き合えって」


 悪戯っぽく笑むブレイドと、忌々しそうに睨みつけてくるトールを交互に見つめて、溜息をつくジェル。


「そんな顔するなよ。友達だろー? 祝典が終わったら門番に話しかければ、わかるようにしとくから」

「ああ。わかったよ」

「じゃ、また明日なー」


 満足そうに去っていくブレイドだったが、残されたトールはジェルを見下した。


「おい、シニアン。調子に乗るなよ。本来であれば、あの方の傍にいる事すら許されないんだからな」

「ああ……そうだろうな」


 調子に乗っているつもりなど全くなかったが、実に厄介な事だった。


「ったく。庶民の分際で生意気なんだよ!」


 貴族の親を持つトールはお決まりの捨て台詞を残すと、ブレイドの背を追った。

 ジェルは再び溜息をついて、一ヶ月前の事を思い出していた。




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