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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
腐れ縁の関係性
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人のために

 場所は学校。時は6時間目でホームルームを行っていた。内容はクラスの中で委員を決めることだった。


「じゃあ、学級代表立候補するやついるか?」


 先生はダルそうに教卓に腕を伸ばしながら聞いた。先生としてそぐわない行動ばかりをするから、皆はもう慣れていた。


 (ろう)くんは学級委員になんかならないって言っていたけど、やらなかったら全てが始まらないと思うの。

 私は始めたい。自分勝手で狼くんには迷惑かけてしまうかもしれないけど、やらなかったら後悔する気がする。

 だから、始めるにはまず私が動かなくちゃいけない。そのために私がすべきことはただ一つ。


「学級代表に立候補します」


 手を挙げて言うと皆が一斉に私を見たのが分かった。怖くて誰が見てるなんて確認できないけど、視線を全身に浴びているのが分かる。

 特に隣の席の狼くんが意味が分からないと言いたげな表情で私を見ているのが痛いほど伝わった。

 皆は地味で人前に出ることを嫌う私がこういった仕事をするなんて、ありえないって思っているのかな?

 その通りで人前は嫌いだし発言なんてしたくないけど狼くんに自分の想いをぶつけてばかりではダメ。私が行動しなくちゃ始まらない。


「お、おう。そうか。じゃ、学級代表は彼女で良いか?」


 先生は私が手をあげたことに驚いたのか少しどもった。けれど、すぐにいつもの適当な雰囲気に戻り聞いた。


「はーい」

「いいでーす」


 口々に賛成の意を示して拍手をしてくださるクラスの方々に(ほとんどの人と会話したことないからよく知らないけど)感謝しながらチラリと狼くんを見ると狼くんは拍手もせず前を見てた。

 狼くんの横顔は少し、怒っている様に見えた。


「じゃあ、次。女子は決まったから男子で学級代表やるやつは?」


 先生は手をふらふらあげながらクラスを見渡した。けれど、しばらく手をあげる人はいなくて先生が顔をしかめた時。


「俺、やる……」


 そう言って狼くんが手をあげた。

 それを見て自然とクラス内がざわざわと五月蝿くなった。『何で?』『え?』『あいつが?』と、疑問の言葉が飛び交う。

 ガタリ、狼くんは椅子をわざとかと言うほど五月蝿く引いて立ち上がり皆を睨み付けた。すると、怯えて一瞬でクラスは静かになってしまった。

 ああ、そうやって壁を作るから狼くんは恐れられちゃうんだよ。と、ハラハラしながらも止められないで私はただ座っていた。


「そ、そうか。じゃあ学級代表は二人で決まりだな。次は委員を決めるぞー」


 悪い雰囲気を断ち切る様に先生は言った。面倒なことが嫌いな先生はクラスの皆が怯えてるけど、続けていた。

 先生が話したと同時に座った狼くんは小さく唸るような小声で呟いた。


「予想以上にデカイ音が出て怖かった」


 多分椅子を引いた時の音を言っているんだと思う。まさか、皆は思いもしないのだろう。恐れ怖がる狼くんが椅子の音がデカ過ぎて怖がってるって。

 もう、天然で皆を驚かせちゃうんだから狼くんはもったいない。こんなにも面白くて可愛らしい性格なのに誰も気がつかないなんて。


「言いたいのはこれじゃなくて。何で学級代表になったの」


 疑問じゃない問い詰め。あ、狼くん怒っているんだ。と、私でも分かった。そりゃ当然だよねこんなことしたら。


「後で話すから、ごめんね」


 私も小声で言うと狼くんは軽く頷いて机に突っ伏した。仮にも学級代表になったばかりだというのに先生の話を無視するなんてとは、言わなかった。



 放課後になって、中学からの幼馴染みの可奈(かな)が話しかけてきた。


「凛子!あんた、本当に代表出来るの!?」


 話しかけるという表現より怒っているという表現の方が正しい加奈の表情。そんなに眉間にシワを寄せたら可愛いお顔がもったいない。

 言ったら更に怒られるから言わないけど。


「なったからには、やるよ」

「何か理由は?」

「ちょっと助けたくって」


 私が笑うと可奈はため息をついた。


「あんた、昔っから行動が突発的かつお人好しだものね。今度は誰のため?」

「狼くん」

「今すぐ止めなさい。凛子みたいに小さいのはすぐに食われて利用されるだけなんだから」

「それは見た目だけだよ。内面を知ってみてよ」


 確かに狼くんの見た目はおっきくて近づきがたいけど、内面は誰よりも傷つきやすい優しい人なの。それを、分かって欲しい。


「無理よ。近づきにくいもの」

「もっと近づきやすくなれば怖くないんでしょ?狼くん、皆が思っているよりも優しい人だってのが代表になれば分かるの」

「ふうん。どうやってあの人を代表をするように説得したの?」

「それは、幼馴染みパワー?」

「は?分からないの?」


 加奈は目を丸くして呆れた様な顔で私を見る。


「自分でも分からないよ。ただ、私も代表になれば狼くんもなってくれると信じていたから」


 可奈はまたため息をついた。


「凛子とあの人、昔から一緒にいたものね」

「うん」


 幼稚園、小学校、中学校。そして、高校もずっと一緒に育ってきた。だから、信じていた。


「あんたらしいね」

「でしょう!」

「……まあ、凛子が決めたことだし応援するよ。何かあったら手伝うから言ってよね」

「ありがとう。またね」

「うん。明日」


 可奈は帰ったからもうそろかな?と、扉を見るとやっぱり。狼くんが教室に帰ってきた。


「あら、狼くん」

「よお、凛子さん」


 狼くんにしてはハイテンションな受け答えでぞくりと悪寒が走った。あ、怒られる。全身が狼くんの黒いオーラを感じてそう察知した。




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