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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
腐れ縁の関係性
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日直のお仕事

 なかなか(ろう)くんと二人きりになる時がなくって言いたいことを言えずに既に3時間の後の休み時間。

 移動教室があれば言えるのになぁ…なんてぼやきながら黒板を消す。


「ん……っしょ」


 む、難しい。なかなか上の方の黒板が消せない。

 そういえば私は少し身長が小さいのだ。ここであくまでも強調したいのは少しってとこ。絶対にチビじゃないから。

 やっぱり背伸びをしても上の方は届かない。あと少しなのに……なんともモドカシイ。

 手を伸ばしたり、背伸びしたり、ジャンプしたり、助走つけてみたりいろんなのを試して消そうと(こころ)みるがやはり届かない。

 普通の黒板よりも高く大きく作られているらしい、特別仕様にした私の高校の黒板を恨みがましく眺めながら、無駄な挑戦を繰り返していると。


 ひょいっ


 狼くんに黒板消しを取られ、それを呆然と眺めている間に狼くんは簡単に消してしまった。

 さすが身長高いだけあるねぇ、格好いい。という思いと、私が届かなかったところに届く悔しさの中で葛藤しながらも感謝した。


「ありがとっ」


 人前での会話が嫌いな狼くんのために小声で言った。のに。


「チビのフォローは大きな奴がやらなくちゃいけねーんだよ」


 黒板を消しながらも狼くんは言う。


「な、何だと……!?私はチビじゃないっ」

「え、今更?」

「……ううー。狼くんが苛めてくる」

「現実を教えているだけだ」

「さらっと酷いっ!」


 前言撤回。格好よくないです。酷い人です。べーっだ。

 ……こんな風に気軽に接する事が出来ること皆にも知ってもらいたい。

 そうしたら皆の反応が変わるよね。きっと、良い方向に。


 だから……






「狼くん学級委員になろう!」


「やだ」


 即答でした。

 学校からの帰り道、いつもの様に二人だけで帰るから他人もいないし丁度良いと思って聞いたのに、この返事。

 まあ、狼くんは人前に出るのを苦手とするし、人と話すこと自体が嫌いだからね。

 無理もないし、ハードルも高すぎると思うけどなって欲しいの。


 だって、学級委員になったら→発言する→え、狼くんって以外と面白い!?→友達になろうぜ!


 的な流れで友達ざくざく出来る予定なの。


「友達出来るかもしれないよ?」

「友達なんて要らない。凛子さんがいる」

「え、友達じゃないでしょ?」

 すると、狼くんは目を丸くして私を見た。

「え、友達なの……?」

「だと思ってた……違うのか」


 狼くんは見て分かる様に残念そうにうなだれた。

 何で落ち込むの?私たちは友達じゃないしょ。だって友達ってすぐ壊れるようなそんな仲でしょ?

 だからもっと壊れにくい鎖の様な関係が良いの。うーん、と考えてからようやく答えを出した。


「……家族だね」

「家族?」

「そう、家族よ。切っても切れないようなそんな感じの縁」


 胸の前で握り拳を作って、それを高らかにあげると狼くんは私との距離を少し空けた。引いてるの?とはつっこまずに続ける。


「……それって良いのか?」

「多分!」

「……凛子さんらしいね」

「えへへー」

「褒めてねーよ」


 狼くんは軽くつっこんだ。つっこみ待ちしてた訳じゃないのになぁ。と、チョップを受けた額をすりすり撫でた。

 狼くんを見るとそっか、家族か。家族なのか……とぶつぶつ唱えていた。家族という関係に不満があるみたい。

 良いじゃんねぇ。家族って。友達みたいに喧嘩別れしないし、恋人みたいに恋愛事は絡まないから面倒なことにならないから、悪い事なんてないと思うのに。


「家族の何が嫌なの?」

「いや。じゃねーけど。お袋や親父の様に凛子さんがいなくなるのは嫌だ」

「あ、あぁ」


 狼くんのお母さんは何でも出来る社長さん。お父さんは狼くんが小学生の内に亡くなった。

 その分お母さんは働こうと会社を始めたら予想以上に成功しちゃって家に帰ってこなくなった。

 一ヶ月に一回、二ヶ月に一回帰って来れば良い方だけど狼くんはそんなお母さんを嫌がっているみたい。

 だから、私が狼くんの家に寝泊まりしたり、狼くんにご飯を作る。それじゃないと狼くんは自分で作ろうとしないからね。

 これは私のお母さんも認めている関係で、狼くんの家に泊まるのを悪いと思っているどころか私を追い出すレベルだ。


「でも、お母さんは狼くんの事をいつも考えて働いている。私もそんな風になりたいの」

「俺の事をいつも考える?」

「狼くんが幸せになるにはどうしたら良いのかな?とか考えているだけで私が幸せになるの」

「……べ、別に俺は凛子さんがいるだけで幸せだよ」


 狼くんは俯いて言った。


「つまり、お母さんは要らないってこと?ダメでしょう。お母さんの事を悪く言ったら」

「……鈍感が」

「ん?何が?」

「そういう所」

「あー、もういいわ」


 何故か狼くんはキレているみたいで、ちっと舌打ちをした。舌打ちはだめなんだよ、と小さく言いながら。


「ちょ、歩くの速くしないでよー」

「……凛子さんがチビだからだ」

「ひどっ。何で怒ってるの?」

「……凛子さんがチビだからだ」

「そっそれは関係ないはず」

「……凛子さんがチビだからだ」

「え、そんなに小さいのダメなの?」


 もう、今日の狼くん分からないよ。

 すたすたと私を無視して歩く狼くんの後ろを小走りしながら追いかけた。それでも、狼くんとの距離は埋まらなかった。


ありがとうございました。


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