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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
知ってしまった関係性
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☆屋上への鍵

 

「ああ、クソッ。どうしてこのクラスはお節介ばかりなんだ」


挿絵(By みてみん)


 狼くんは屋上への鍵を乱暴にガチャガチャ振り回しながら空を仰いだ。青く澄んだ空には雲一つない。

 THE青春って感じの空に胸がざわついた。綺麗すぎると不安になる、あの感情に似てる。


「狼くん、そんなに鍵振り回してたら飛んでっちゃうよ」

「ああ、俺のペースでやりたいのに。これじゃあ、計画とか全て崩れるじゃねーか」


 狼くんには私の言葉が届いてないみたいで、頭を抱えて呻いた。さっきから、狼くんはこう。

 頭を抱えたり、腕を組んだり、落ち着きなくウロウロ屋上の隅を移動する。何か、イライラしてるの?それとも、考えてるの?


「凛子さん、話がある」 


 狼くんは突然止まって、私を見る。狼くんの猫目の中には不安げな表情の私と水色が移った。

 キレイ、なんて考えてる余裕もなく先程の変な不安が返ってきた。胸が熱くなって、呼吸が速くなって、心臓が痛くなる。変な副作用まで連れて。


「な、なに?」

「俺と凛子さんが初めて会った時の事、覚えてるか?」

「そりゃ、忘れられないよ。あの時の粘土作りがきっかけで、私達こんなにも仲良くなれたんだから」

「そっか。忘れられない、か。そうかそうか」


 私の言葉を噛み砕く様に何度も何度も繰り返す狼くんの口角は若干、弧を描いていた。笑っている、何で?


「じゃあ、俺の家に初めて来た日は」

「小学一年生の初日、帰り道が同じだからと一緒に帰った時に狼くんの家が隣だって知って、私が勝手に入っていったよね」

「そうそう、そうだ」


 お爺ちゃんみたいに、うんうんと頷く狼くん。まるでこれでサヨナラみたいに優しく頷くものだから、私は不安になる。


「何でそんな質問するの?」

「……ふう。何となくだ。特に深い意味はない」

「ふうん。そんか感じには見えないけど。狼くん変だよ。いつもと違う。だから、私も変になるの。熱くなって苦しくなる」


 狼くんの事を考えるだけで、変にパタパタ歩き回ったりしたくなる程落ち着かなくなるの。私も、いつもと違う。


「鈍感な凛子さんにしては……進歩したのかな」

「私、鈍感じゃないよ」

「あー、じゃーあれだ。月が綺麗だな……意味分かるか?」

「まだ夕方なのに月が見えている……狼くんの目が悪くなった!?」

「案の定分かってないな。もう、凛子さんらしいよ。ま、鈍感じゃない凛子さんは凛子さんじゃないからな」

「意味分かりませんー」

「そうだよ、それそれ」


 呆れてるのか、でも確かに面白そうに狼くんは笑う。ああ、狼くんったらいつの間にこんなにも素敵な笑顔で笑うようになったの?

 変、じゃないけど、変。うむ?私は一体何を考えているのか自分でも分からないな。


「まあ、アレだ。人間的に噛み砕いて言えば、あ、『愛してる』だ」

「へー、狼くん難しい言葉知ってるんだね」


 私、そんな熟語?知らなかったよ。月が綺麗と愛してるにどんな関係があるのだか……って、愛してる?何で今そんな言葉を口にしたの?誰が?誰を?どうして?


「えっと、それは誰に対しての愛してる、なの?」

「それ位自分で考えようとして。凛子さんはいつも俺に答えを求めようとするけど、俺はそれが嫌だ。もう、分かってるだろ?」

「え、いや。え?何が何か、分からないよ。だって、ね」

「何でソレを拒むんだ。俺が嫌いなのか?俺が嫌いだから、答えを出そうとしないのか?」

「違う。私が狼くんを嫌いになる筈ない。狼くんのこと、大好きだもん」

「それはどういう意味で?前みたいに友達として、とでも言うの?」


 狼くんが真剣な視線を私にぶつけてくる。纏まった考えを発信できる訳じゃないから、むしろあっち向いてて欲しいんだけど。

 いや。でも目線を反らされたら不安になるから……結局私はどうしたいの?何がしたいの?

 私が今しなくちゃいけないのは、考えなくちゃいけないのは狼くんの事でしょ?なのに、何で?

 ああ、もう。

 変な感情がぐるぐる回る。屋上のせい?違う。自分のせいでしょ。全ての答えを出せない、私のせい。


 ――もう、答えは決まってるのに?


 何か、分からない。

 自分の中で自分の声が聞こえた、気がした。すると、どこからか共に熱い思いも生まれた。

 そう、だ。分かってる。私は、分かってる。答えは、ハジメマシテのあの時から心の中で眠ってたんだ。


「私、狼くんのことが好きなんだ……誰よりも、好き。大好きな生姜よりも好き。世界で一番、好き」


 答えが溢れた。

 ぼうぼうと耳鳴りがして、頭が酸欠状態。だからかな?顔が凄く熱いや。

 ぎゅっ、と目を瞑って大きく深呼吸した。新鮮な空気を深く吸い込めば顔の火照りも取れるかと思ったのに、変わらず頬は熱い。

 狼くんは?

 ゆっくり目を開けてみれば――、


「狼く、んが、いない?……いた。って、え!?!」


 狼くんは、私の目の前で大の字に倒れていた。



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