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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
意識し始めた関係性
30/37

パフェと野菜ジュース

祝、30話です。

お付き合いありがとうございます。

「よしっ!」


 私は張り切っていた。

 今日は病み上がりということで学校を休んでいる(私は行くって言ったんだけど狼くんに言われて一日だけね)から、一日中暇なのだ。

 ならすることは一つでしょ。

 昨日、皆に迷惑かけてしまった分料理で挽回するしかないからデザートとジュースを考えるの。

 加奈からのメールで学校祭の展示で作るメニューが<パフェ>と<野菜ジュース>に変わったことを知らされたから、それで考える。

 学校祭で持ち運びしやすいパフェと、老若男女飲むことが出来る野菜ジュース。

 元々の案が決まっているから、私はそれを付け足すだけで簡単な作業だった。

 ただ、クラスでの展示なのに私だけで決めるのは申し訳ないけど。


「……俺もいるだろ」


 後ろから予想してなかった狼くんの声が聞こえて思わずひゃっと声が出た。


「あっと。おかえり。私が考えてること……分かったの?」

「ずっと、大きな声で話してたけど。いや、一人言か?」

「やっだー。恥ずかしい。止めてよね」

「自分でも気づいていなかったのか」


 狼くんは呆れた目で私を見ると小さく笑った。

 なんか、バカにしてる様な笑いだけどそれでも嬉しくって「にへへー」と笑ったら狼くんは更に呆れてしまった。


「ん。材料」


 狼くんの言い方は雑だけど机の上に丁寧に荷物を置く辺りが可愛い。

 って、言ったら照れちゃうから言わないんだけど。


「えっ、言ってないのに買ってきてくれたの!?あ、ありがとう!」

「どうせ凛子さんなら休まずやると思ってたからな……あと、学級代表が決めたことなら皆反対しないから安心して。それが凛子さんなら尚更」


 狼くんは後から付け足した。多分、さっきの私の一人言への返事だと思う。


「だと、良いな」

「安心しろ」


 ポンポンと頭の上に手を乗せながら狼くんは言った。



「ねえ。持ちやすいパフェって言ったらどんなのを想像する?」

「……パフェで持ちやすい?そんなイメージがない」

「だよねー。私も、パフェを食べ歩きしてる人を見たことないもん」


 でも、学校祭だったら色んな所を回って歩くからほとんどの人が食べ歩きすることになる。

 だけどパフェだったら食べ歩きしにくいんだよね。

 最後のスプーンと食器の処理にも困っちゃうし、何か良い解決案みたいのはないんだろうか。

 食べやすい、美味しい、ゴミが少ない。


「あー、難しいことは取り合えず置いといてパフェの材料を何にするか決めよう!」

「……おう」


 ぽわん、と頭の中にパフェを浮かべてどんな物が入ってたか思い出す。


「果物が入ってたよね。予算的には高いイチゴを多くは使えないからミカンとか。さくらんぼとか、林檎が良いかな?あと生クリームは必須。下に入れるのはゼリー?白玉?アイス?」

「アイスは溶ける可能性も含んでいるから、無難にゼリーか白玉は」

「なるほどっ。でも白玉って大量生産すると予算に影響しないかな?大丈夫かな?」

「んー危険だから白玉は避けようか」

「じゃ、下のはゼリーで決まりだね。狼くんは何味が好き?あ、林檎以外で」


 狼くんは私が聞いた瞬間に「りn……」と言いかけていたが最後まで聞くと唸って首を捻った。


「……白桃と蜜柑」

「林檎と桃と蜜柑で……」

「白桃」


 狼くんはしっかりとした声で言った。


「ふふっ、分かったよ。白桃ね……っと」


 ペンを握りしめて、パフェの欄に書いた白桃に大きく印をつけて目立つ様にした。


「ゼリー、白桃、林檎、蜜柑、生クリーム。後はチョコを乗っけたいなー」


 想像しているパフェを絵に描いて見ると、あることに気がついた。それは、狼くんも同じで口を開いた。


「これって、パフェじゃなくてクレープでも出来ないか?例えばゼリーの水分を少なくしたりして、生地がダメにならないようにしたりとか」

「んん!それ、私も思ったの。それだったら生地のことを考えても色んな種類のを作れるし、予算内で作れるよね!」

「だよな。持ちやすいし」


 ずっとモヤモヤしていたつっぱりが取れたような爽快感で、ペンがどんどんと進む。


「そうだ。生クリームは全部にかけるけどゼリー、白桃、林檎、蜜柑の中で好きなのを二つ選ぶ式にするのは?」

「良いと思うよ」

「うん!それで、それが良い!」


 決まったクレープに更に丸をつけたけど冷静になって考えてみれば「皆が考えてくれたのはパフェだったけど、クレープで良いのかな?」という疑問が。


「聞いてみれば?あの、人に」

「あ、加奈?」


 思い立ったらすぐ行動ということで今決まったことについてメールを送るとすぐに返ってきた。


『良いに決まってるじゃん!素晴らしいのを考えてくれてありがとうねー』


「な?」


 狼くんは私の携帯の画面を覗き見てから、私を見た。


「ほんとだね。これでデザートの心配はなくなったから、次はジュースかな」

「野菜ジュース、なんだろ?」


 狼くんは意地悪な顔をして買った食材の入った袋をひっくり返した。

 中からは大量の野菜が出てきた。辛い、苦い、甘い、無味のいろんな野菜。それと、狼くんが後ろに持っているのはミキサー。


「もしかして?」

「そう。取り合えず混ぜる。そして、成功すればラッキーだけど……」


 と、そこで狼くんは話すのを止めたけど私には分かった。とりあえず入れてみて何が出来るかな、というお楽しみ的なチャレンジな製作をしようと言っているのだ。



 ☆ ☆



「ぷはー。もう、野菜ジュースはいらなーい」


 パンパンに張ったお腹を叩いてみると良い音がした。

 クレープ(後で買い足した)と野菜ジュースがお腹の中で騒いでいる感じで気持ちが悪くなってきた。


「うっぷ……俺もだ」


 狼くんもお腹を押さえた。思い出すだけでお腹が痛くなるほど飲んだ試作品の野菜ジュースが数々残っている。

「やっぱり一番良かったのはキャベツと林檎とホウレン草とレタスと白菜とトマトと……何だったっけ?」

「まあ、それぐらい入れとけば何とかなるだろう」

「ふぅー……じゃ、今日作ったのを明日持っていかないとね。ちゃんと良いのが出来たんだから」

「……凛子さんの料理は俺が全部食べる」

「そしたら皆の分がなくなっちゃうでしょーが」


 けらけらと私が笑うのに対し、狼くんはいつもよりも真面目な顔で不釣り合いだった。


「凛子さん。俺の味噌汁を毎朝作ってくれないか?」


 前にもないぐらいの真面目な顔だったから、どんなことを言われるか不安だったけど私に出来ることで安心した。

 へえ、狼くんって味噌汁が好きだったんだ。いつも林檎とシチューしか言わないから意外だわ。


「良いよ。狼くんのためなら味噌汁でも豚汁でもけんちん汁でも何でも作るよ」


 すると狼くんは首を傾げた。質問への答えが的を獲ていないそんな表情だった。


「もしかして……勘違いしてないか?」

「勘違い?してないよ。味噌汁が好きな狼くんのために作るって言ってるだけで」

「ああ、また俺の空回りか」と狼くんはぼやいてから頭をさすって言った。

「俺、味噌汁はあまり好きじゃない」


 冷たい様に聞こえるけど顔は拗ねていて、でもいじけてる様にも聞こえるこの言葉。

 私は急な発言の変化についていけず首を捻った。


「どっちなのさー?」

「辞書で調べてみろ。すぐに出る。インターネットでも載ってるはずだ」

「ふむふむ。味噌汁を突然好きになって嫌いになる病気についてだね」

「ごめん。何も理解してないよ」


 狼くんはまた、呆れた顔を見せた。

 狼くんの笑顔はあまり見ることはないのに、何故か呆れた顔は沢山見てるような気がする。

 でも呆れた顔でも見れて嬉しいなぁって思っている私は、相当狼くんの色に染まっているんだと思う。




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