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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
意識し始めた関係性
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学校祭とは

 狼くんの家に行かなくなってから一週間がたった。


 別に嫌いになったとか、そんな暗い感情じゃなくってもっと気分が高揚している様な変な感情のせいで。

 狼くんの側にいると苦しくなって嬉しくなるからずっと近づくことは出来なかった。

 むしろ狼くんから近づいて来てくれても無視してしまっていた。

 どうしよう。こんな態度ばっかりとってたら狼くんは私のことを嫌いになっちゃうんじゃないか。

 そう思うと凄く不安で、狼くんに話しかけようと思うんだけど、なかなか実行出来なかった。


 が、やっと機会がやってきた。

 私達は学級代表をしているんだけど、その仕事が大量にある学校祭というイベントがきたのだ。

 先生に呼ばれて、説明されて、狼くんと一緒に職員室を出た。隣に狼くんがいる。

 ずっと話しかけたかった狼くんがすぐ横にいる。私は勇気を出して口を開いた。


「もう、学校祭か。早いね」

 自分では思っていたよりも小さな声で呟くように狼くんに向かって話しかけた。

「だな。早く過ぎていく」


 良かった。狼くんは普通に返してくれた。

 ドキドキと五月蝿かった心臓が徐々に静かになって、私を落ち着かせる。そして、私は次の言葉を出した。


「これ、狼くん皆の前で言いたい?」


 さっき渡された紙を持ち上げてきくと狼くんは盛大に頷いた。……頷いた?狼くんが?

 人前に出ることを嫌う狼くんが自ら進んで人前に出るってこと?


「ああ、やるよ」

「じょ、冗談だったんだけど……本当にやるの?」

 確認のためにもう一度聞いてみた。すると狼くんは再び、こくり、頷いた。

「読む」

「狼くんが?」

「勿論」


 嬉しい。嬉しい。嬉しい。

 小さい頃の尖ってた頃の狼くんを知っているから尚更、嬉しくって思わずにやにやしてしまう。


「えへー。大人になったねー」

「……当然のことだ」


 狼くんは怒った様にぷいっとそっぽ向いてから言った。知ってる。照れてるんだって。


「今日、俺の家に来ないか?久しぶりに凛子さんのご飯が食べたい」


「久しぶりって……そんなに時間たってないでしょ」


 狼くんの家に行かなくなってから一週間しかたってないのに、久しぶりって表現に思わず笑ってしまった。

 思いっきり笑うと狼くんも小さくだけど笑ってくれた。

 凄く嬉しかった。いつもの事なのに、この瞬間、世界がキラキラ輝いて狼くんがとびきり格好よく見えた。うん、気のせいなんかじゃない。



 ☆ ☆



「……学校祭の準備が来週から本格的に始まるので、放課後を開けてください。内容や実施日についてはこの配布したプリントで確認してください」


 ぺこりと礼をしてから狼くんは自分の席に戻った。

 顔が緊張で固まっている様に見えたけど小さく下の方でピースをしていた。

 狼くんが人前で話せた。いや、前から結構話してはいたけど最近は私以外の人と話すことが多くなって嬉しい。

 なんでだろう。今日はたくさんの嬉しいでいっぱいだよ。

 隣に座った狼くんにだけ聞こえる様に小さく「お疲れ様」と囁いた。

 すると、狼くんは眉間にしわを寄せてからそっぽを向いた。


 ええっ、そんなに嫌なことだったの!?と目を丸くさせたが狼くんの視界には入らない。

 仕方がないかと諦めて手に握っていたプリントに目を移して気分を紛らすことにした。


『実施日 九月九日

実施内容 ステージ発表、部活動発表、クラス展示

準備期間 実施日の一ヶ月前からで、放課後や休み時間の活動も可』


 ふむふむ、実施日は一ヶ月後ね。

 なら、来週からは家に帰る時間が遅くなるのかな?

 そんな一人の妄想は口に出てたみたいで狼くんが「……遅くなるんじゃない?」と返してくれた。

 あら、怒りは静まったのね。良かったわ、と井戸端会議中の主婦の様に笑うと狼くんに「おばさんくさい」と止められた。

 私はまだおばさんじゃないのにー、と膨れてみた。




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