終わりと始まり
お昼御飯は凛子さんが作っているとばかり思っていたから、俺は昼御飯を持ってきていない。
だから凛子さんがお昼御飯を作ってきてないとなると俺の昼御飯はないことになる。
正直凛子さん以外の人のご飯を食べるのは気が進まないが、腹が減ってはナントヤラということで学食を食べに行くことにした。
食べ終わり思う。凛子さんの料理とは比べ物にならない程不味いな。
そして、一口一口ご飯を食べるほど凛子さんの料理が恋しくて仕方がなくなっていった。
しかし、それからというもの凛子さんは俺の家に来なくなった。
それどころか俺にお弁当を作ってもくれなくなったのだ。
だからなんとか凛子さんの作ってた料理の真似をして、いつもの美味しい料理を作ろうとしたが無理だった。
俺の料理の腕が壊滅的に悪いということはないのに、やっぱりどう頑張っても凛子さんの味にはならなかった。
なぜ凛子さんは俺を嫌うようになったのか。
その問題は何度悩んでも答えは出なくて、俺が精神的に辛くなるだけだった。
そのまま凛子さんと話さない日が続いた二日目。
凛子さん不足で軽く病み始めていた俺の元に凛子さんと接する機会が設けられた。
「ま、ってことで頼むわ」
先生はボリボリと頭をかきながら言った。
「はい。この学校祭についてのお知らせをホームルームで読めば良いんですね?」
「そうそう。お前らならちゃんとやってくれるだろ?」
その先生の一言に対して凛子さんは曖昧に笑った。
「頑張ります」
「……」
俺は黙って隣の凛子さんを見つめる。久しぶりに近くで見る凛子さんの笑顔はやっぱり可愛い。
「失礼しました」
ガラリ、と職員室を出てから隣の凛子さんに目をやる。
「もう、学校祭か。早いね」
凛子さんは今までの様に普通に接してきたから少し驚いてしまった。
しかし、表情に出してはいけないと思ってすぐに返す。
「だな。早く過ぎていく」
「これ、狼くん皆の前で言いたい?」
凛子さんはさっき渡された紙を持ち上げた。学校祭のことについて書かれた紙。
人前で話すことなんてしたくない俺だが、凛子さんもそれは同じだろうから、返す言葉は一つ。
「ああ、やるよ」
「じょ、冗談だったんだけど……本当にやるの?」
「読む」
「狼くんが?」
凛子さんはまじまじと俺の顔を見た。な、何故そんなにも見るのだろうか。そんなにも凝視されると照れてしまう。
「勿論」
「えへー。大人になったねー」
「……当然のことだ」
照れ隠しにそっぽを向きながらも、今なら言えるそんな確信を持って口を開いた。
「今日、俺の家に来ないか?久しぶりに凛子さんのご飯が食べたい」
すると凛子さんは笑った。
「久しぶりって……そんなに時間たってないでしょ」
酷く安堵した。心がどっと疲れたが沸き上がってくる喜びで、嬉しくなる。
どうやら、凛子さんの反抗期は終わったようだ。密かにもう二度とこないことを願った。
「あの日作ってあげれなかったシチューを作るね」
凛子さんは照れ臭そうに笑っていた。その笑みにはいつもとはまた違った感情が含まれている様な、そんな気がしてならなかった。




