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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
学級代表の関係性
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罵倒?誉め言葉?

 

 皆が帰った放課後の教室。そこに私と狼くんだけは残っていた。

 何のためか。することはただ一つ。決まっている。


「アサダさんは……浅いに田圃の田で五番」

「おお」

「カワノさんは……皮膚の皮に野原の野で六番」

「おお」


 丁度私達は(ろう)くんの書いてくれた番号を使って、席替えの結果を作っている途中だ。

 狼くんは私が言った言葉を記載し、私はクラス名簿と狼くんの書いた紙を持って狼くんに伝える。

 知らない人ばかりでなかなか難しい。コミュ障が学級代表なんて無理な話だったんだよ、なんて今更後悔はしないけど。


「えっと、七番は」

「凛子さんだろ」

「うん、そう。隣は」

「俺だろ」

「うん、そう。流石だね」

「凛子さんとのことを忘れる訳ないだろ……ついさっきの事だし」


 狼くんは言っている途中で照れたのか語尾を小さくした。


「そっか。じゃあ次いくね」

「……おう」

「ワタベさんは、渡るに部活で九番」

「おお」


 ──そんなこんなで、名前を告げては書いて。名前を告げては書いてを繰り返したら。



「終わったー」

「だな」


 最後の一人まで記載したのを確認してから大きく伸びをした。長い仕事だったなあ。


「後はこれを先生に提出するだけだねー」

「おお」

「じゃ、行ってきまーす」


 私が一人で教室を出ようとしたところを狼くんに止められた。狼くんはゆっくり立ち上がり言う。


「俺も行く」

「なら、行こっか」

「おう」


 二人で並びながら職員室に向かった。

 夕陽に照らされて影が伸びている。その影でだと私と狼くんとの身長差が更に大きくなっている気がする。

 んむむ。何か嫌だな。いや、小さいのは分かってるけどね。分かってるけども、大きくなりたいのは乙女心。

 だから、少し狼くんの前を歩いた。これで満足。ちゃんとした身長差になった。


「ん?凛子さん?」

「狼くんはそこにいて」

「何で」

「何でもないからー。ふふふん」

「凛子さんが楽しそうなら良いか」



 職員室に入ると椅子をくるくる回して遊ぶ先生を見つけたから、がっと椅子を足で静止させてから紙を渡した。


「お、ちゃんと出来てるじゃないか。字も上手いし」

「ありがとうございます。それ、狼くんが書いたんですよ」

「アイツが?結構綺麗な字を書くんだな」

「ですよね。私と同じ習字教室に通ってたんですよ」


 もうやめちゃったけどね。とは、言わずに。


「そういえば二人とも字が上手いものな。なら、書記の仕事も任せるよ」

「え?」

「ん?そのためのアピールだったんだろ?」

「いや、違いますけど」

「分かってるって。書記も兼任してくれる優しいやつだって事をね☆」


 先生すいません。何も分かってないです。


「じゃ、頼むな!」


 けれど、私の想いは最後まで届かず先生は笑顔で言った。反対に私は青い顔で頷く。


「は、はい……」


 もはや、断れない。ああ……狼くんに怒られる……


 職員室を出て外で待つ狼くんに一言。


「なんか、多々あって私達は書記を兼任する事になりました……」

「へぇ、ソウナンダ」


 妙に口角が上がって口元だけ笑顔な狼くんの背後に鬼が見えた、気がした。



 ☆ ☆



「へぇ、そんな経緯で書記になることになったんだ」

「その通りでございます」

「そんなに畏まらなくても。変な凛子さん」

「は、はは(変なのは狼くんだよ)」

「今何考えた?」

「な、んでもないです」

「そう。良かった」


 妙に優しくて勘の鋭い狼くんが怖い。もっと、ぶっきらぼうな言葉使いの方が良い。


「で、凛子さん。今俺が何考えてるか分かる?」

「もしかして、怒ってる……感じでいらっしゃいますか?」


 疑問には疑問で返してみる。すると返ってきたのは優しい笑顔だった。狼くんの笑顔を見るのなんて久しぶりで少しドキッとしたのに。


「いらっしゃいますよ」

「だ、大激怒ですねっ!?」

「当たり前だろ」


 突然、狼くんが元に戻った。あんなにも望んだ筈のぶっきらぼうが何故か怖い。


「大体いつも凛子さんは人に流されて、自分を犠牲にすることを屁とも感じない人間で。バカで。お節介(せっかい)ババアで。自分の意思を持ってないかと思いきや、する行動全てが人の為だし。今回の書記の件も自分がやらなかったら他の人がやって、嫌な思いをするんだろうな。とか、先生を悲しませたくないなとか、チビの小さい頭で考えたんだろ。全く、毎回付き合わされる俺の身にもなれよ」


 ひ、ひいぃぃぃぃい!基本無口な狼くんが早口で何か言ってる!(速すぎて聞き取れないけど恐らく私への暴言?)


「凛子さんは毎回何かをやらかして、巻き込んで、結果光のある方向へ導いていく。ただの良心の塊みたいで…いや、良心のみで構成されていて。俺なんかの面倒もみてくれる面倒見の良いやつで。だけど、人見知りで。時折、キチガ○かと思うほどにお人好しで…」


 徐々に狼くんの声は小さくなって優しくなっていく。怒っているのに、声は怒ってない不思議。


「狼くん、それ私への暴言になってないよ?」

「そうか?」

「うん。お人好しとか、良心の塊……とか。狼くんが言うほど私はそんないい人じゃないよ?」

「……凛子さんがいい人じゃねーんだったらこの世の人間全てゴミだ」

「そんなことないよ」

「ある」

「ない」

「ある」

「ないってば!」

「……」


 不毛な戦いをして、ふうとため息ついたら何をしていたのか忘れてしまった。


「って何の話をしてたんだっけ」

「さぁ」


 無表情におどけてみせる狼くん。そして、ダルそうに言った。


「もう仕事も終わったし、帰らねーか」

「うん。そうだね」

「今日の晩御飯はシチューで」

「はいはい」


 狼くんに向かって言うと、狼くんは嬉しそうに少しだけ口角を上げた。うむ、かわいい。



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