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凛子さんと狼くん  作者: 太郎
学級代表の関係性
10/37

席替え

 

 私達の朝の奮闘(?)で出来た紙を使って、席替えが始まった。


「……出席番号順にこのくじを引いて下さい。引いたくじは私の隣に立っている(ろう)くんに渡して、名前を伝えて下さい。明日の朝、黒板に席替えの結果を貼ります」


 声が小さく震えているのには途中から気がついていて逃げ出したかったけど何とか言い切った。

 小さな達成感に包まれていると、クラスの隅から歓声が上がってパラパラと拍手が沸いた。その隅の中心にいるのは加奈で柔らかい笑顔で私を見ていた。

 私は皆前に出て発言出来るタイプではないから驚いたのだと思う。本当にその通り。自分でも驚いているもの。

 これは朝からずっと考えて覚えていた文だったから私自身の頑張りを誉めてもらえた気分で嬉しくなった。


「じゃ、じゃあ出席番号の一番から並んで下さい」


 ばらばらと生徒が立ち私の周りに群がった。実際にはくじの紙を持っていくために集まっているのだけど、人が苦手な私にとっては恐怖しか感じない。

 私よりも大きすぎる男の子が怖いんじゃない。女の子だって怖い。だって、私はコミュニケーション能力がかけているから!

 (堂々と重く言っているけど本当はただ人と接するのが苦手なだけ)

 でもこれも狼くんのため。私が(くじ)けてどうするんだ!と、くじを持ちながらも歯を食い縛った。

 大きな人達に囲まれて見えなくなっちゃった狼くんがいてくれたら、もっと強い気持ちでいれたのに。と、少し寂しくなった。


「ありがとうございます。次の人どうぞー。あ、それはそこに置いといて下さい」


 意外と順調にいっているみたい。あれ、私凄くない?と、隙間から見えた狼くんにアイコンタクトを送ろうとしたが狼くんは真面目に名前と番号を記載していた。

 もうっ、狼くんったら私のことを無視してるーとかふざけれる雰囲気でないこと位は私にも分かったので自重した。

 最後の人が取り終わったのを確認してから狼くんに走り寄った。狼くんはさらさらと綺麗な字で、メモをとっているのだがクラスの人の名前を知らないから皆の名前がカタカナなのが可愛らしい。


「もう皆くじ取ったから残りは私達だけだね。じゃ、こっち私ね。狼くんはこっち」

「ん」


 二つ余った紙を適当に狼くんに渡した。しかし、受け取るとすぐに狼くんは紙を開こうとしたから慌てて制止する。


「あ!まだ引いちゃダメだよー」

「ん?」

「一緒に引いた方が楽しさ二倍でしょう?だから」

「ほう」

「そう!じゃあ見るよ。せぇのっ!」


 ぐいっとくじを開くと真ん中には七の数字。

 あ、この綺麗な字は狼くんの字だ。と、分かってしまう私はどうなんだろうか不思議に思った。


「あ、一番窓側の後ろの席かー」

「……」

「狼くんは?」

「隣」


 狼くんが私に見せた棒には八の数字。それは私の隣の席の番号だった。


「本当だ。やったね」

「あ、おう」


 珍しく狼くんがはにかんだから、ついつい私も微笑んだ。


「また、だね。これからも宜しく」

「おう」


 私が手を差し出すと訳が分からない狼くんもつられて手を出して握手をした。やっぱり狼くんは不思議な顔しているから、なんとなくやったのなんて言ったら怒られるんだろうな、とか思いながら。

 にこーっと(一方的に私が)微笑んでから、皆を見た。

 騒がしく「何番だった?」「何処の席になったのー?」「やったー。隣になれたね!」なんて話している皆を見渡すと少し静かになった。

 そして一言。


「これで席替えを終わります。残り時間は自由です」


 また拍手が沸いた。一部の男子生徒がひゅーひゅーと口笛を吹いた。

 それは私を褒め称えてるんじゃなくて、自由時間を喜んでいるのだって分かるけど、どこか嬉しかった。


 二人して席に戻ってふうと、ため息ついてから狼くんを見ると達成感からか、緊張からか狼くんの額には汗が流れていた。

 そうだよね。いつも人に近付かないのに急に囲まれると怖いよね。ごめんね。行動が速すぎて。

 心の中で必死に謝っているのは、狼くんは知らないんだろうなと考えていたら狼くんは私を見て言った。


「また変なこと考えてるでしょ」

「へ、変なこと?」


 ぎくり。心臓が鳴った。別に変なことじゃないけど、確かに考え事をしていたから心臓がドクドク速まる。


「次は何をしようかなーとか。俺に迷惑かけたかなーとか?」

「エスパー?」

「凛子さんのことは大抵分かるよ」


 狼くんはふん、と鼻を鳴らした。けれど、その顔は少し嬉しそうに見えた。鼻を鳴らしてバカにしてるみたいなのに、何で?


「そんなに私分かりやすい?」

「うん、凄く」

「そんなにかな」

「ああ」


 少し黙ってから狼くんの鼻をあかせる様な良いことを思い付いて、ニヤニヤしながら狼くんを見つめる。


「じゃ、今私が何考えてるか、分かる?」

「……凛子さんらしい事だろ」

「そうかな。うん、でも、そうだね」

「答えは?」

「狼くんの事だけしか考えてないよ」

「……ぇ?」


 あれ。狼くんが固まった。口を魚みたいにパクパク動かしたと思えば、みるみる頬が赤くなっていく。私、変なこと言ったっけ?


「そ、それって……つまり」


 ──キーンコーンカーンコーン、キーンコーンカーンコーン

 丁度チャイムが鳴って狼くんの声と被さった。チャイムの音は大きすぎて狼くんの言葉の続きが聞けなくなる。


「ん?何て言ったの?」

「……今は言わない」


 少し唇を尖らせている。そんなに大事なことだったんだね。なら。


「今日、家帰ったらゆっくり聞くから話してね?」

「……ぉふ」


 狼くんは更に顔を赤くした。あはは。面白いの。私は大きく笑ったが狼くんは対称的に口を押さえて目を伏せていた。




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