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藍燕②  作者: 幸紗
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ゴドーを待ちながら②

大学生活にも慣れて来、友達もできた。

「ねぇ、ランランこの2年間が終わったらどうするんだね?」 入学式の日に友達になった加納美佐が声を架けてきた。因に、ランランは本名ではない。蘭子という名前なのだが、入学式当日にこのあだ名にされてしまった。

「な、何故、教授の真似?あ、でも、3年になったら本格的に学部の勉強始まるね」

医学部は通常の勉強(一般教養)が2年間あり、その後国家試験に向け4年間本格的に医学の勉強をする。 加納が言っているのは3年になると臨床か研究かのどちらかを決めなければならない。ランランこと蘭子は臨床医になりたいと思っている。

「私は臨床の方にするよ。研究は向いてない気がするし」

「私も、根拠はないけど研究の方の仕事って地味っぽくない?」

無論、臨床も研究も医学の発展には欠かせない大事な分野である。が、ドラマを見て医者になりたいと思ったクチの人間にはどうしても、地味でジメジメとしたイメージがある。

目の前を白衣を着た一団が通り過ぎた。重そうな書物、飛び交う専門用語、真っ白の白衣、全てが憧れで、いつかあんな風になりたい、そう思う。

「ああ、やっぱ良いよねぇ」

加納が感嘆の声をもらす。

「だよね。何か今までドラマや本の中だけの存在だったのが、目の前にいてさ。自分でもなれるかもしれないって思うと、テンション上がるよ。」


「まぁ、憧れてくれるのは嬉しいが、その前に試験に受からんと話にならんよ。諸君」

振り返ると蘭子と加納の先輩で蘭子の従姉妹の芹沢すぐりがお昼ご飯のカレーパンを頬張りながら立っていた。いつもの癖で口元にパンが付いている。

「今から講義?」

パンの袋をゴミ箱に捨て、口を拭いつつ聞かれ、「いいえ、今から合コンです」とは言わないが、もう帰るとも何だか言いにくい。

「やー、もう終わっちゃったんだよね。」

と蘭子と加納どちらともなく言おうとした時、すぐりのポケベルが鳴りだした。「あ、運が悪いや。ゴメンね、呼び止めたのに。」

これ悪いけど食べてと言い、おにぎりやらジュースが入った袋を蘭子に押し付けて去って行った。


「へへーん、ちょっと儲けた。」

学内にあるベンチで先程すぐりから貰った物を山分けしていた。

植物学研究の為に2年程前に寄贈された温室には様々な植物が植えられており、色とりどりの花は温室の外からでも中々見応えがある。

「でも、可愛そうだね。スー先輩、お昼だったんだよね、これ。」

加納がすぐりのお昼ご飯になる筈だったスモークサーモンのおにぎりの袋を剥がしながら、すぐりを少し可愛そうに思った。

「まぁ、仕方ないよ。ポケベルで呼びたされたって事は患者に何かあったからだろうから。」


今頃担当患者の処置に追われてあるであろう、すぐりの姿を思い浮かべ、外科医の過度の激務が医療ミスの原因の1つになっているのではないかと、将来の自分が恐らく同じ立場になる事を想像し、身震いした。

いつかは来る未来。しかし、それは明日、明後日ではなく6年後。その時、自分はどうするのだろうか。従姉妹や友人と同じく外科医になるのだろうか。

医療知識ゼロの今の自分は只、ドラマや本に出てくる医者に漠然と憧れているだけだ。


ふわり、風が吹いた。

春の優しい風に乗って花びらがヒラヒラと踊り、地面へと落ちていく。その姿が、まだ道の定まっていない自分を見ているような気がし、いつもは綺麗だと思える桜の散る姿が何故か今は綺麗とは思えない。


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