由希子と仁栄
「ジンエー、お友達がいらっしゃったわよー!」
階下から母親の呼ぶ声がした。仁栄はベッドから飛び降りると、テレビを付けっぱなしのまま階下へと急いだ。玄関で、仁栄の母親と由希子が何か話していた。
「よ、吉田……さん、ど、どうしたの?」
仁栄は母親の手前、咄嗟に呼び捨てにしないよう気をつける。
「あ、深水くん、風邪で学校休んでいるのに急に来ちゃって、ごめんね」
由希子は走って来たのか、僅かに呼吸が乱れていた。
「仁栄、もう体調もいいんだし、取り合えずお部屋に上がってもらったら? 後でお茶とお菓子持っていってあげる」
母親はそう言うと、台所の方へと姿を消した。
「あ、どうぞ、こっち、二階がオレの部屋だから……」
仁栄は由希子を二階へと促した。
「あ、ありがとう。お邪魔します」
由希子は脱いだ靴をキチンと揃えると、仁栄のあとに続いた。
「で、吉田、どうしたの? あっ、まあそこの椅子にでも座ってよ」
仁栄はパソコンチェアーを勧めながら、自分はベッドに腰かけた。
「え、うん。深水くん、遠山くんの家知ってるかなと思って……あと、何か他にも……」
「え? トーマの家? いや、知らないけど……」
仁栄はさっき考えていたことをもう一度思い出す。
彼は、冬馬とはいつも水無川の橋のところで別れていて、家まで行ったことがないことを由希子に告げた。
「え? そ、そうなんだ……深水くん、いつも遠山くんと一緒にいるから、絶対何か知ってると思ったんだけど……そっか……」
由希子はため息をつくと俯いた。
「吉田、トーマのこととか、家の場所知りたくて、わざわざオレの家に来たの?」
「え? うん……転校のことを聞いて、なんだかびっくりして、でも遠山くん学校休んでるし、今まで病気したことなかったのに、おかしいよね。で、お見舞いに行こうかなって、それで深水くんなら家を知ってると思って……」
由希子は一息に話した。混乱しているのか、いつもの彼女らしくない話方だった。
「そうだよな、珍しいってか、初めてだよな、あいつが学校休むの……それ、お見舞いに?」
仁栄の視線が、ふと由希子の抱えている手提げ袋に向く。
「え、うん……あ、そうだ! 学校の連絡簿には載ってないかな?」
「あ、そっか!」
ふたりは思わず笑顔になった。
「ちょっと待ってて。今取ってくる!」
仁栄は立ち上がった。そのときちょうど部屋のドアが開いて、トレイにお茶とお菓子を載せた母親が入って来てた。
「お茶とお菓子を持って来たわよー」




