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第4話:ドワーフの親方と三次元魔成建築(3Dプリンティング)

 防衛戦に勝利し、グラード領の安全が証明されたことで、移住希望者の数は爆発的な勢いを見せていた。

 都市計画家としてのアレンにとって、これは嬉しい悲鳴であると同時に、極めて深刻な課題でもあった。


「アレン様、住宅供給が全く追いつきません! 入居待ちの列が隣領の境界まで伸びようとしています。アレン様が一人で魔法を振るって家を建てるのにも、物理的な限界があります!」


 リディが悲壮な顔で書類を突きつける。

 俺一人の魔力で一棟ずつビルを建てるのは、工期リードタイムの観点から見て非効率だ。俺が必要なのは、俺がいなくても『質を落とさず、高速に』街を広げられるシステムだった。


「わかっている。だからこそ、今日は彼らを呼んだんだ」


 俺が視線を向けた先。領主館の応接室には、腕組みをして不機嫌そうに鼻息を荒くする集団がいた。

 ずんぐりとした体格に、膝まで届く立派な髭。この大陸随一の建築職人集団――ドワーフの『剛腕工務店』の一行だ。


「おい、若造。俺たちを呼びつけといて、随分な言い草じゃねぇか」


 中心に座る巨漢のドワーフ、バルカスが酒を煽るように茶を飲み干した。

「俺たちの建築は『魂の結晶』だ。石の一つ一つを吟味し、数年かけて堅牢な城を築く。それをなんだ? あんたの魔法で作った白石の建物は、あまりに滑らかすぎて気味が悪い。職人の手触りがねぇんだよ」


 バルカスは、アレンの魔法建築を「手抜き」だと断じていた。彼らにとって、魔法で一瞬にして家を建てるのは、伝統への冒涜に近い。


「バルカス親方。あなたの腕は聞き及んでいる。だが、今このグラードに必要なのは、数年かかる城ではない。数日で完成し、かつ百年持つ『標準化された住宅』だ」


「数日でだと!? 抜かせ! 漆喰を乾かすだけでも何週間かかると思ってやがる!」


 俺は無言で立ち上がり、彼らを建設予定地へと連れ出した。そこには、俺が金属性の魔力であらかじめ製造しておいた「ノズル」のような奇妙な装置が設置されている。


「親方。前世……いや、私の故郷には『3Dプリンティング建築』という技術があった。材料を層状に積み重ね、図面通りに立体を作り上げる手法だ」


「三次元……プリン……? 何を言ってるのかさっぱりだ」


 俺は構わず、魔力をノズルに注ぎ込んだ。

 今回の素材は、砕いた石材に魔力を帯びた粘土を混ぜた「魔導コンクリート」だ。ノズルの先から、トローリとした灰色の液体が噴き出す。


「土魔法・積層固定レイヤー・フィックス!」


 俺が操るノズルが、正確無比な円を描きながら動く。

 噴き出された液体は、空気に触れた瞬間に魔法で硬度を増し、定着する。一段目が終われば、その上に二段目。重ねられた層が、まるでバウムクーヘンのように積み上がっていく。

 図面データは俺の脳内にある。誤差は数ミリ以内。柱の太さ、窓枠の溝、配管を通すための空洞……それらすべてが、人の手を介さず、機械的な正確さで形になっていく。


「な、なんだと……!? 石積みの手間を一切省き、形を作っていやがる……!」

 バルカスが目を見開く。


「見ていろ。ここからが真骨頂だ」


 俺は金属性の魔力を発動させ、あらかじめ用意していた「プレハブ(前加工)」パーツを呼び寄せた。それは工場――領主館の地下工房で量産しておいた、規格化された窓枠やドア、内装パネルだ。


 3Dプリンターで出力された壁の溝に、これらのパーツをガチリとはめ込んでいく。レゴブロックを組み立てるような手軽さだ。

 仕上げに、バルカスたちドワーフが得意とする「強化魔法」を、建物全体の構造線フレームにだけ流し込む。


「親方、この手法なら、熟練の職人でなくても『一定の品質』の家が三日で建つ。そして、あなたのような本物の職人は、もっと重要な場所――つまり、仕上げの彫刻や、高度な魔法防壁の構築に、その魂(魔力)を集中できるはずだ」


 作業開始からわずか数時間。そこには、内装以外がほぼ完成した平屋の一軒家が立っていた。

 バルカスは震える手で、プリントされた壁の表面を撫でた。


「層状の模様があるが……強度は、これまでの石積みよりも遥かに均一だ。それに、この配管用の穴……俺たちがノミで何日もかけて穿っていたのが、最初から開いてやがる」


 彼は深く溜息をつき、俺をじろりと見た。


「……負けたよ。あんたは『手抜き』をしてるんじゃない。『無駄』を殺してるんだな。建築から苦役を奪い、創造だけを残そうとしてる」


「理解してもらえて嬉しいよ、親方。私は、あなたたち『剛腕工務店』を、我が領の『都市開発公社』の最高顧問に迎えたい。この3D魔法プリンターのノズルを操る魔法陣の調整、そしてプレハブパーツの品質管理。職人の目が必要なんだ」


 バルカスは大きな手で俺の肩を叩いた。その顔には、先ほどまでの不機嫌さはなく、新しい技術への好奇心が燃えていた。


「いいだろう、アレン様。あんたの描く『ニュータウン』ってやつを、俺たちの手で現実にしてやる。ただし! 酒だけはドワーフ好みの強いやつを用意しとけよ!」


「ああ、それなら『地下醸造プラント』の設計も既に終わっているよ。排水処理のついでにな」


 リディが「ついでに酒を作るなんて!」と後ろで憤慨しているが、俺は無視した。

 こうして、現代の施工技術とドワーフの伝統的なクラフトマンシップが融合した。

 グラード領の建設スピードは、ここからさらに加速する。もはやただの街づくりではない。それは、異世界の物理法則すら書き換える、巨大な「工場都市」の誕生を意味していた。


「よし、親方。次は一戸建て百棟の同時施工プロジェクトだ。工期は二週間。いけるか?」


「がっはっは! 建築の歴史を塗り替えてやろうじゃねぇか!」


 夕闇の中、3Dプリンターが放つ魔法の光が、荒野に新たな街のシルエットを刻み続けていた。

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