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第11話 修羅の『一閃』

―――パキ……パキパキ。


 見渡す限り『宇宙』が広がっていた第8階層は、怒れる龍の息吹によって辺り一面、『銀世界』へと姿を変えた。


『ティトハレット・ベ・ゲヒノム

 《しれ者が、地獄で後悔しろ》』


 ものの十数秒ですべてを氷に閉ざす威力。

 この攻撃を喰らってなお生存できる生命など、地球上には存在しないだろう。


―――バァァァァァンッ!

―――ガラガラガラッ!


「焦ったぁ!

 ミニ・フレイムがなかったら絶対死んでたわ!」


 氷山の一角が、音を立てて崩れる。


 そして中から、少し焦げ臭い俺の登場。


 ミニ・フレイムの()()()()によって、

 俺はなんとか凍死を免れた。


 思ってた以上に、ミニ・フレイムは有用だった。

 すでに2度も命を救ってくれている。

 もう、雑魚スキルと馬鹿にはできない。


「ありがとう、ミニ・フレイム。

 これからも感謝して使わせてもらう。


 それはそれとして、魔力がぜんぜん尽きないな。

 とっくに底をついていてもおかしくないのに」


 かなりスキルを連発したのに、

 俺の魔力はなぜか一向に減らない。


 ここに来てすぐステータスを確認した時には、魔力の値は『11』だった。


 そこから、

 消費魔力3のゲイル・サイズを3発。

 消費魔力1のミニ・フレイムを8発以上。

 合計で消費した魔力が『17』。


 スマホに記されていたステータスをそのまま信じるなら、俺はミニ・フレイムを2発使ったところで魔力を使い切り、そのまま氷漬けになっていたはず。


 だが、俺はまだ生きているし、体の奥底から湧き上がる未知のエネルギー(魔力)は、いまだ健在だ。

 体感、まだ8〜9割残っている。


「今、スマホを確認する暇なんてないしなぁ」


『マドゥア・アタ・ハイ?

 《貴様、なぜ生きている?》』


 呑気に考え事をする俺に、龍が驚声をあげる。

 相変わらず、何を言ってるのか分からないが。


「なんとなくだが、お前が驚いていることは分かる。

 俺も同じだ。

 分からないことだらけ、困ったもんだ。


 だからそれを確かめるために、早く倒されてくれ」


 第2ラウンド開始。

 俺は再び、龍へ突っ込んでいく。


『インフェルノ・ロア』


 龍も負けじと大焔を吐く。


 俺は凍った地表をスケート選手のように滑りながら、華麗に回避。


「ちょちょ、止まれ止まれ」


 いや、そんな華麗でもなかった。

 ツルツルに凍った大地は、思った以上に滑る。

 冬の北海道とか、こんな感じなのだろう。


「これじゃまともに動けないな。

 ―――あ」


 龍が吐いた大焔が、広範囲の氷を溶かしていた。

 これをあともう何回かやってくれれば、十分に戦うことができるだけの戦場が復活するはず。


「おい、全然当たってねぇぞ!

 どこ見てんだ爬虫類!

 お前の目は節穴か!

 いらねぇなら、もう片方の目も潰してやるぞ!

 ほら、もっかいやってみろ!」


 こちらの言葉は果たして龍に伝わるのだろうか?

 分からないが、ひとまず煽ってみた。


―――ブチッ


『インフェルノ・ロア!』

『インフェルノ・ロア!』

『インフェルノ・ロア!』


「嘘だろ、単純すぎないか!?」


 燃え盛る炎が吹き荒れる。

 その度に死ぬ思いをしたが、ギリギリ避け続けた。


 焼け焦げた大地から、蒸気が立ちのぼる。

 凍りついていた地面が次々と溶け、まるで戦場そのものが息を吹き返していくようだった。


―――グゥゥ……グゥゥゥゥ。


 さらに、大技を連発した龍は魔力を使い果たしたのか、荒い息をつき始めた。


『アニ・アレセク・オトハ!

 《叩き潰してくれる!》』


―――ダンッダンッダンッ!


 龍が長い尻尾を鞭のように振り下ろす。

 その度に足元に衝撃が広がり、階層全体が揺れた。

 地面がまるで割れるかのような大きな衝撃が走る。


 激しい連撃。


 だが、これはチャンスだ。

 向こうからこちらに近づいて来てくれたのだから。

 

『ラマ・アタ・ロ・メット?

 《なぜだ、なぜ死なない?》』


 地表の氷さえ解けてしまえば、こちらのもの。

 闘気によって身体能力が大幅に向上した俺は、龍の攻撃を軽々かわす。


「今だ!」


 龍が戸惑いの声を上げた瞬間、わずかに攻撃の手が緩まった。

 その瞬間を俺は見逃さない。

 振り下ろされた尻尾の上を、猛ダッシュで駆け上っていく。


『アニ・エトロフ・オトハ!

 《食い殺してくれる!》』


 龍は俺を丸ごと噛み砕こうと、大きな口を広げた。

 熱気と絵の具のケミカルな臭いが鼻をつく。


「スキルを多重発動できることは分かった。

 だから、今ならできる」


 俺は迫り来る巨大な龍の顔面に、


『マルチキャスト:ゲイル・サイズ』


 ありったけの魔力を全て込めた、龍でさえも刈り獲る修羅の一閃を放った。


―――ザンッ!


 龍の頭部が真っ二つに割れ、赤青黄緑白、さまざまな色の体液を撒き散らしながら崩れ落ちる。


『アニ・ミトナツェル・アドニ

 《申し訳ございません、ご主人様》』


―――ダァァァンッ!


 轟音とともに、巨体が地に沈む。

 そのまま、龍は光の粒子となって消えていった。


「あぁ、めっちゃ疲れたわ」


 体を酷使し、かつ、魔力をすべて使い果たした俺は、仰向けになって暗い夜空を見上げる。


 この身を焼き尽くすほどの闘争心は、強敵を打ち倒したことで、(ひとまず)なりを潜めた。

 今はただ、心地よい疲労感と達成感だけが全身に満ちている。


「まさか本当に龍を倒しちまうなんて。

 天国でお母さんに話したらびっくりするだろうな」


 俺は安らぎに包まれながら、静かに眠りについた。


==========


 龍が光となって消えると、その跡地に赤色の扉が出現した。

 次の第9階層に続く、新たな扉だ。

 正式に、第8階層の攻略が認められたのだろう。


 しかし、肝心の攻略者は大の字になって爆睡しているので、扉の存在に気がついていない。


 静かな時間が流れていく。

 ………。

 ……。

 …。


 30分後。


―――ガチャ。


 突然、扉が開く。


 中からひょっこり顔を出したのは、

 きれいな紫髪の女性、いや少女だった。


 見た目だけなら十代後半くらい。

 まだあどけなさが残る顔立ちをしている。

 けれど、彼女の立ち振る舞いには、大人の色気のようなものが感じられた。


 落ち着きはらった淡紫色の瞳。

 無造作に見えて丁寧に束ねられた艶やかな紫髪。

 きめ細やかな純白の肌は、まるで人形のよう。


 身にまとっているのは、植物の繊維で作られた茶色のロングコート。

 白衣のようにも見えるその服は、どこか知的な印象を与える。


 そして極め付けは、

 髪のすき間から覗かせる、長く尖った耳。


 彼女は耳長族エルフだった。


―――カツカツカツ。


 少女は迷いなく、『史上2人目の』星画天蓋・第8階層攻略者の元へ歩み寄った。

 そして、すぴーすぴーと寝息を立てる男を見下ろし、じっくりと観察する。


「黒い髪、薄茶色っぽい肌、小さくて丸い耳。

 ……変わったエルフね」


 少女は自分と容姿の異なる男を見て首を傾げる。


 もちろん、男はエルフではない。

 ヒト属ホモサピエンス『日本人』だ。

 盛大な勘違いである。


 少女は人間を見たことがなかった。

 そもそも、この世界に人間がやってきたのはつい最近のことなので、彼女が人間を知らないのはごく当然のことである。


「まぁ、大きな怪我はないし、大丈夫そうね」


 男に治療の必要がないことが分かると、少女は再び何かを求めて歩き出した。


 40分後。


 ウロウロと迷子のように彷徨って、

 はぁはぁと息が切れ出したちょうどその頃、

 少女はついに、それを見つけた。


「……やっと見つけた、第7階層への扉」


 方向音痴な少女が求めていたもの。

 それは、以前、ここへ来る時に通った茶色の扉。


 この扉の先には、第7階層があるはず。


 少女はドアノブを握り、


「ぐぬぬぬぬぬ……」


 力一杯、扉を開けようとする。


 しかし、扉はビクリともしない。

 完全に無関心を決め込んでいる。


「……はぁ、やっぱりそうだわ。

 階層主を攻略してしまうと、後には引き返せない仕組みになっているようね」


 少女は落胆し、小さくため息をついた。



==========

『アイテムポーチ』(新着欄)

・ナイト=ペイン(剣) ×1

神絵師ペインテストの最上インク(黒) ×1

・マナストーン(中) ×1

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