配達員 平子 楽郎
子どもの頃はたくさんの夢があった。大きなったら自分の夢が叶うとその頃は本気で思っていた。でも現実はそう甘くはなかった。やりたいことをして生きていける人間なんてほんのひと握りだ。
平子楽郎は配達トラックから降りるとダンボール箱を抱えてアパートの階段を駆け上がった。
平子は配達員の仕事を始めて4年になるがいまだに仕事に慣れずにいた。もちろん配達業者なんて子どもの頃からやりたかったわけではない。それでも平子なりにやる気を出していた。しかし…。
「遅かったじゃないか」
と吐き捨てるように受取人の男性は平子に言い放つと無機質な音を立てて玄関の扉を閉めた。1分遅れただけでこの言いようだ。だが落ち込んでる暇はなかった。平子は次の配達先へ向かった。
全ての配達先に荷物を送り届けた平子は配達センターに戻り、休憩室で先輩の石飛達也とたわいもないことを話していた。石飛は平子と年も近くこの職場で話の合う先輩だった。
石飛はスマホを操作し、あるサイトを開いて平子に見せた。それは小説を書いて投稿するサイト「小説家になろう」だった。
「今度こそは面白いの書けたから読んでよ。感想書いてね。」
このサイトには小説にコメントを書くことができるのだ。
「直接言いますよ。」
平子は石飛に言ったが、
「コメント欄に来るのが嬉しいから。」
と一蹴されてしまった。石飛は小説家になるのが夢で、よく小説を書いては平子に読ませた。この前も石飛の小説を読んだが控えめに言って微妙だった。正直読む気はしてこないが本人にそんなこと伝えるわけにはいかない。
平子は家に帰り早速石飛が書いた「転生したらエイリアンだったんだが」を読んだが、やはり面白くはなかった。
なんてコメントすればいいのか悩んでいると「転生探偵」
というタイトルの小説が目に留まった。平子は読み始めた。そのお口直し程度で読み始めた小説に平子は衝撃を受けた。それは人生で1番好きな小説をたやすく塗り替えられてしまうほどだった。平子はあっという間に読み終えた。作者はフエダマユと書かれていた。平子は「すごく面白かったです。また次回作に期待してます。」とコメントした。
「転生探偵」は毎日更新された。平子は小説が更新されるのを楽しみに毎日仕事に励んでいた。やっと人生の楽しみを見つけることができた気がした。
ある日、平子は郊外の外れに位置する薄暗い小さなマンションの担当を持った。