表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

怪談い

 最近犬の頭をよく見かける。

 始まりは3週間前のこと。

 街を歩いていてふと前方を見ると人混みの中に犬の顔があった。犬がいるのは珍しくない。ただおかしいのは、その犬の顔は歩く人々の中でも身長が高い人の顔と同じくらいの高さに位置していたのだ。いくら大きいな犬でもそんな高さに顔がくるはずがない。

 犬のお面や被り物でもしている人がいるのか。近頃は変な人も増えたなと思いながら歩いていたが、近づいていくにつれ、そうではないことが分かった。それはどう見ても本物の犬の頭部だった。さらに奇妙なことに、その犬には体がなく、まるで頭だけがぽっかりとその空間に移動してきたかのように空中に浮かんでいて、まっすぐに正面を見つめているのだ。

 見てはいけないものを見てしまったと思い、早足でその場を通り過ぎた。しばらく歩いてから振り返るともうそこに犬の頭はなかった。

 それからというもの、人混みにいるとあの犬の頭部と遭遇するようになった。通勤電車や商店街、飲食店にもそれは現れた。最初は正面を見つめていたあの犬の目が、遭遇するたびにだんだん自分を追ってきているような気がして恐ろしくなり、それと遭遇しないように、通勤電車では目を瞑り、休日もなるべく人のいない場所に行くように心がけるようになった。そんな生活がもう3週間続いている。


ここまでのBさんの話を聞いて、私は気になったことを尋ねた。

 「その犬ってどんな犬なんですか?犬種とかは?」

 するとBさんは少し考え込んだ後、首を捻って不思議そうに言った。

 「あれ……なんでだろう。思い出せない。あの毛むくじゃらの顔とへんに発達した犬歯だけは覚えてるんですけど……」

 うんうん唸りながら首をひねっている。しばらくらそうした後、私の方をチラッと見たBさんは、青ざめた顔をして俯きながら、私に言った。

 「あ……あれ、犬じゃないかもしれないです。だって、犬って言葉、喋らないですもんね。今、そいつ、喋ってます。あの、あなたの後ろで、〇〇〇〇〇---」

 Bさんが言った〇〇〇〇〇と言ったのと同時に、私の後ろから怒鳴るような唸り声がして、私の耳にBさんの言葉は聞こえなかった。唸り声はまだ続いている。

 私は振り返ることができなかった。

 今、私たちは人で賑わうフードコートにいる。

 



     


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ