ピーテルの報告書1
どうも! ピーテル・ビスホップっす! これでも王都イチの情報通です!
元々はちょーっと盗み聞きが得意で、たまーに変装もするスリ師だったが、マスターに拾われてからは人生がガラッと変わった。
それによって楽しさが増した。ギルドについて行けば、俺の技術をより磨ける。昔ならば手に入らない情報ですら手に入った。限界だと思っていた変装技術も、年々上手くなる。
王都で最も、と言えるほどの技術者になった俺は、それでもギルドを出ない。マスターには俺をここまで育ててくれた恩がある。
だからそれを返すため、ずっと貢献しているんだ。
おっと、今日の仕事をしなきゃな。
今日は姐さんがたに頼まれて、依頼主の調査だ。匿名で、しかもとんでもない難易度の依頼をしてきた、とんでもない金持ちを特定するため。
俺達のギルドには、他ギルドで出来なかった依頼が舞い込むことが多い。だから聞き込みをするならば他所のギルドだ。
まず手始めに向かうのは、王国でも最大手と言われる冒険者ギルド。冒険者なんて大層なもんを謳っているが、結局はどことも変わらず傭兵を管理している組織に過ぎない。
ただの傭兵共をランキングに分けることで、特別感を出すのが得意なギルドだ。
それを知らない新人どもは、冒険者という職に憧れてこの門を叩く。お陰で冒険者ギルドは、初心者から上級者まで潤う大きな組織になっている。
規模が大きいだけあって、依頼量も情報量も多くなる。一日ここに居座るだけで、十分だと言えるほどのものが手に入るだろう。
だが俺が今日頼まれたのは、その辺りの冒険者とやらが簡単に喋れる内容じゃない。
「よう、〝ピーター〟!」
「おう!」
「久々だな。長期依頼か?」
「いや。地元から戻ってきたんだ」
「そうだったか! がははは!」
ピーターは俺の冒険者ギルドでの名前だ。俺は様々な場所に潜入するための、いろいろな立場と名前を持っている。
その中でピーターは、中堅冒険者としての役割を持っていた。上に上がりすぎず下過ぎないのは、ちょうどいい立場を保てるから。
新人に対しては先輩風を、上級者に対しては後輩としておだてるため。同じレベルだと逆に心を開いてくれないから、これくらいがちょうどいいのだ。
「俺がいない間、ギルドはどうだ? デカいヤマとか来たか?」
「それがよ! 上位ランカーが断った依頼があるんだよ!」
「はあ? まさか冗談だろ、うちの上位が?」
おぉ、まさか一発目で当たりを引くなんてな。俺と同じ立場にいるこいつが最初から最後まで知っているとは思えないが、持っている情報を全部貰おうか。
話したがりの男に、それらしい――欲しそうな反応をドンピシャで与えてやる。するとペラペラと何もかも喋っていくではないか。
匿名の大金持ちが、高級な素材を求めているという内容だった。
全ての情報を知らないだけあって、ところどころふわっとした話だったが、どうやら俺達のギルドに舞い込んだあの依頼で間違いがなさそうだ。
ブラッディ・ベアならばまだしも、この冒険者ギルドからすれば、あの依頼金額はありえないほどの高額だろう。
冒険者ギルドには、技術もあり金にもがめつい連中は多くいる。そんな連中があえて断るのだとしたら、本当に出来ない依頼だったのだろう。
マスターだったら仕留めるだけなら、一日もかからなそうなのにな。
とはいえそんなプライドの高い連中に聞いて回るのは苦労しそうだ。プライドだけは一丁前にあるから、俺が聞いた日にゃ怒り狂いそうだ。今後の立ち回りにも関わるだろうし、高ランカーは避けて行こう。
「情報ありがとよ。じゃあウチのお偉方はカリカリしてんだな」
「おう。お前も気をつけろよ〜」
下の立場は生活を維持するためには、ヘコヘコする必要がある。自身がもっと高い地位へ行けるような実力があれば別だが、あの男はそうではないようだ。
一応――自慢では無いが、俺も戦闘能力は高い方だと思う。あのブラッディ・ベアに在籍して、様々な情報収集を頼まれているものの、たまーに、本当にたまーに戦いに赴くことがある。
当然だがマスターについていけるほどの強さはないが、この冒険者ギルドであれば上位に食い込むくらいの実力はある訳だ。
そんな訳でヘコヘコと媚びへつらう必要はない俺だが、このギルドにも籍を置いているのは全てマスターのため。別に上に立って偉そうにするためじゃない。
ま、上の連中には媚びておいた方がラクだから、これからも平均を保ち続けるけどな。
俺は先程の男と解散すると、ギルドの受付へと向かった。美人の受付嬢がギルドメンバーを迎え、それぞれに見合った仕事を割振る。
掲示板に掲載されているものを受けるのもいいが、実力が分からない連中はプロに任せた方がラクというわけだ。
「どもー」
「あら、ピーターさん。お久しぶりですね」
「うす。なんだか俺のいない間に面白いことがあったそうで?」
「やはり話題には鋭い方ですね」
ジッと見つめられて、ドキリとする。これは美女に言われてテンションが上がっている――のではない。
最大手たる冒険者ギルドの受付嬢であれば、様々な人を見てきている。小さな一挙一動にも気を配って、無茶な仕事を割り振らないようにしているのだろう。
そしてその観察眼は時として、俺のような〝虫〟を見分ける目でもある。
まあ俺ほどのプロは、ポーカーフェイスを保ち続けるんだけどな。
「まあね。俺は万年このランクだからさ、周りのピリピリしたのに触れないように必死なんですよ」
「なるほど。ですが詳しい話は教えられませんよ」
「えぇ〜?」
「私も知らないのです。上位ランク冒険者の方々と、ギルドマスターのみが知っている内容でして」
「そんなにヤベー依頼ってことなんすか?」
ギルドメンバーに仕事を割振る受付嬢は、ギルドの殆どを知っていると言っても過言では無い。
そんな受付嬢ですら教えて貰えない機密情報。
確実に貴族レベル――それ以上の人間が絡んでいる。
となればここで聞き込みをしていても、延々と情報は手に入らない。下手をすれば本当に高ランクの連中の敵意を買ってしまうだろう。
冒険者ギルドでの調査はおしまいだな。
「ま、いーや。いつもの依頼ある?」
「ありますよ。ピーターさんがご不在で、誰も受ける方がいないので依頼者の不満も溜まっています」
「そりゃ結構なことで」
俺は〝いつもの依頼〟を受けると、冒険者ギルドを出た。
いつもの依頼とは、自称元情報通とかいうちょいとボケた爺さんの話し相手。報酬は高額で、誰もが飛びつくだろう。だが蓋を開ければ、こちらの相槌すら許さぬ尋常ではないスピードで喋る年寄りだ。
その面倒くささから、話題が広がり今や俺以外で誰も相手をしない。
ま、俺としたら有難いことなんだけどな。
大通りを出て、スラム街へ続く路地へと入る。スラム街目の前に佇む怪しげな平屋を見つけると、俺はノックをした。返事ならばいつも、ない。
反応がないが俺は扉を開けて中へと入る。勝手知ったる部屋の中を歩き、キッチンへ。
床にある地下収納の戸を開ければ、階段が現れた。
爺さんは基本地下に住んでいる。人を招く時には上にいることがあるが、過去の経験であまり人目につきたくないそうだ。俺も何となく理解出来る。
階段を降りていけば、特殊な〝鍵〟が施されたドアが佇んでいる。一見変哲もない扉だが、ドアノブを握る際に微量の魔力が必要になる。流した魔力が〝許可された者〟の魔力であった場合のみ、扉が開くという仕組みだ。
「よう、久方振りだな。何処に行っていた?」
「俺がブラッディ・ベアの人間だって知ってんだろ、忙しいんだよ」
「そうじゃったな、ボケておるからのぉ」
「都合の悪い時だけボケ老人になるな」
この人はここの家の主、そして依頼主であるヘルベン・ドレースだ。見ての通り、ボケちゃいない。
大昔には、裏を牛耳っていたとも言われる。俺に取っちゃ憧れるレベルの情報通だ。
皆はボケたせいでそう思っていると信じているらしいが、実際は貴族に裏切られた結果、騙されてこうなってしまったらしい。……俺も気をつけないとな。
唯一、ヘルベンを信じて――見抜いた俺にだけ、重要な情報を時折教えてくれる。そんなことが嬉しく思えてしまう俺は、やっぱりこういう仕事が好きなのだ。
ヘルベンが俺を信じてくれたのは、ブラッディ・ベア所属というのも大きかったようだ。
「それで? お前さんが来たってことは情報がほしいんじゃろ」
「よくおわかりで」
「残念じゃがわしから与えられる、新しい情報ならばないぞ」
「まあ取り敢えず聞いてくれよ」
俺はそう言うと、ヘルベンに依頼の件を話した。するとヘルベンの表情は、みるみるうちに曇っていく。
情報の遣り取りをするのであれば、こういった表情管理は大事だ。ヘルベンは俺を信用しているので、それらを誤ることはない。
つまり本当にヘルベンは良くないことが起きていると思っている――〝まずい事態〟なわけだ。
「過去にもドラゴン討伐の依頼は存在した。しかも匿名でな。どうにもきな臭い。金持ち連中はそれをどうしても隠したがっているようだが。これはギルドの聞き込み程度で調べられる内容ではないぞ」
「……はあ、そうなると行く場所は一つか……」
「ああ、話題の大量にあるあの場所だ。お前さんも好きじゃろ?」
「俺はあそこが嫌いだよ……」




