王との謁見
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
ウィンダンド城にある謁見の間にカインとアーレンはいる。ファイアンド城であった事をウィンダンド王に報告した。
「そうか、ファイアンド王は魔人に操られていたのだな」
「幻惑で操られていたのではなく、恐怖で従っていたようです」
「同じ王として情けない…」
「いや、私も同じ事にならないよう自分を律しないといけないな」
カインとアーレンの報告を聞いてウィンダンド王は気を引き締める。
報告は終えた。王との謁見は緊張する。
『まだ帰っちゃダメかな…』
カインは帰りたい。
「カインは騎士のスキルが目覚めたのだな?」
「はい」
カインは王に答える。
「ナイトラン家に戻って妻を持つ気はないのか?」
王はカインに尋ねた。
「ガルドが亡くなってアベルは若すぎる、当主がいないんだ」
「戦争を止める力、この国を守る為に発揮してほしい」
王はナイトラン家の当主になる事をカインに勧めている。
『僕なんかの力を認めてくれている、嬉しいな』
『でも…』「僕はナイトラン家に戻りません」
カインは王に宣言した。
「あっ、戻らないっていうのは当主になって家を継がないという意味で…」
「…顔を見せには戻ります」
直ぐにカインは言い直す。そしてアーレンのほうを向く。
『僕の妻はアーレンさんだ』
『騎士の子どもを生む為に他の人と結婚するつもりなんてない!』
カインは心の中で宣言した。王に「妻」と言われたがカインにとって妻はアーレンだけである。
視線に気付いたアーレンもカインのほうを向いた。カインの気持ちが分かった気がしてアーレンはニコリと笑う。
「カイン、鎧を解除してくれ」
「えっ、でも…」
アーレンの言葉にカインは戸惑った。鎧がないとアーレンが女であると知られてしまう。しかし何に戸惑っているのか王と御付きの者達は分からない。
「大丈夫だ、構わない」
アーレンは真っ直ぐな目でカインに伝えた。そして王のほうを向く。
『分かりました』
アーレンの真っ直ぐな目を見てカインも覚悟する。そしてアーレンの鎧を解除した。女の姿が現れる。
「なんと、アーレンは女性だったのか!」
「女性が冒険者をしているなんて…」
王は驚く。御付きの者達もざわついている。
「私は誰かの決めた相手と結婚して子を産む事が受け入れられず家を出ました」
「そして生きていく為に自分の意思で冒険者になったんです」
自分の事情をアーレンは皆に説明した。
「しかし冒険者なんて女性には危険すぎる」
「女性にはスキルがないんだ」
御付きの者達のざわつきが収まらない。
「いや待て、ポーションを用意する時に魔法を使っていたと聞いた…」
「どういう事なんだ…」
王には分からなかった。アーレンは剣に手を置く。
「我に従う光の精霊…」
「我が魔力を糧として我へ光を与えよ、ライト」
魔法の光でアーレンは謁見の間を照らす。
「単純な事です、女にもスキルはある」
「恐らく、子を産む女に危険な事をさせまいとしてスキルがない事にした」
「そして知らなくていい真実は忘れられて今に至る」
アーレンは王達の前で真実を明らかにした。
しばらくの時を要して王は事実を飲み込む。
「なるほど、女性もスキルを持っているのか…」
「ではアーレンは魔法使いという事だな?」
王はアーレンに聞いた。
「本来、私は剣士の家の出身で剣士のスキルを持っています」
「カインと旅をする中で精霊に魔法を与えてもらいました」
「ジョブという言い方をするなら…魔法使いでもある剣士という事になります」
アーレンは王に答える。
「そうか、私は知らない事ばかりの愚か者だ…」
王は自分の無知を恥じた。しかし自分の愚かを恥じれる者は賢い。
アーレンの話は続いている。
「国の為にはカインが騎士の女性と結婚したほうがいいかもしれません…」
「でも、私はカインにプロポーズされた」
「嬉しかった」
「私はカインと結婚します、カインは譲れません!」
王達の前でアーレンは自分の意思を宣言した。アーレンの宣言を聞いて皆が驚く。そしてカインはにやける。
カインとアーレンの気持ちは王に伝わった。
「二人の気持ちは分かった、二人には幸せになってほしい」
「ところで…今回の功労者である二人に褒美を与えたい、何が欲しい?」
王はカインとアーレンに聞く。
「実はアーレンにも貴族の地位を与えたかったんだ」
「それを褒美にしようと思ってな」
「しかし貴族の地位では二人への褒美にならないと分かった」
王は言葉を付け加える。
「いえ、褒美は…」
「譲れない、褒美は譲れない」
「王の面子にも関わる、受け取ってくれ」
断ろうとするアーレンの言葉を王は遮った。王の意志は固い。諦めてカインとアーレンは褒美に金を受け取る事にした。
「そんなに少なくていいのか?遠慮していないか?」
「いえ、遠慮なんてしていません」
「僕達のような冒険者にとっては結構な金額なんです」
『本当に結構な金額のつもりだったんだけどな…』
王との感覚の違いにカインは驚いている。
カインとアーレンは謁見の間を退室した。王との謁見を終える。褒美の金を受け取ってウィンダンド城も後にした。