魔導師の家
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
カインとアーレンは防具屋を後にする。城下町に来れたのだからと二人はアルダの家へ行く事にした。アルダに結婚の報告がしたい。
いつものようにカインとアーレンは土産を買ってアルダの家へ向かう。二人はアルダの家に到着した。
「アルダさん、いらっしゃいますか」
「はい、何か用ですか?」
扉が開いてアルダが現れる。
「アルダさん、お久しぶりです」
「カインにアーレンか、久しぶりだな」
挨拶を交わしてアルダはカインとアーレンを家の中に招き入れた。
アルダは茶を淹れる。三人はテーブルを挟んでイスに座った。カインはアルダに土産を渡す。アルダは無意識にカインの腕輪を見た。
「また精霊に会ったのか…」
「えっ、精霊?」
「あぁ…そうですね」
「風、雷、土、光、守、の精霊に会いました」『守の精霊はついさっき』
「癒の精霊には会えてないんですよね」
カインは腕輪を見ながらアルダに答える。
『儂は一切会ってない…いいなぁ』
アルダはカインが羨ましい。何とも言えない表情をしている。
『私は癒の精霊にも会っているなんて言い難いな…』
カインとアルダのやり取りを見ていてアーレンが一番気まずい。
「カインの腕輪ほどじゃないが…」
「今、複数種類の魔法が使える魔法道具を作ろうとしているんだ」
「商人の発案でな、魔導書関連の人間だけでなく武器屋や防具屋も関わっている」
「カインと会うまで魔法は魔導書と思っていたが…」
「そのうち魔法の使える剣なんて物が出回るかもしれん」
アルダは世界の変化を語る。
「なるほど、魔法の使える剣っていいですよね」
カインは思わずアーレンを見た。アーレンの剣はまさに魔法の使える剣である。
『今はこっちを見ないでくれ…』
アーレンは余計に気まずい。
アルダと話したい事は他にもある。
「複数で思い出したんですが複霊魔法って知ってますか?」
「複霊魔法?」
アルダはカインに聞き返した。複霊魔法はアルダも知らない。
「複数の精霊を一度に呼び出して魔法が使えるんです、例えば…」
「我に従う水と守の精霊…」
「我が魔力を糧として我へ治癒薬を与えよ、ヒール・ポーション」
カインは複霊魔法の例としてヒール・ポーションを生成して見せた。
「おぉ…」
「個別で順番に呼び出しても同じ事が出来るんですけどね」
感動しているアルダにカインは言葉を付け足す。
「防御魔法で瓶を作っているのか」
「はい、瓶は中身を守っていると思ったんです」
「癒の精霊はカインが回復魔法の魔法持ちだから呼ばなくてもいい、と」
「はい、そうです」
アルダはカインに確認した。既に魔法の要点を理解している。
「ちょっと待っててくれ」
アルダは奥の部屋に入り、複数の魔導書を持って戻ってきた。テーブルに複数の魔導書を開いて並べる。
「我に従う水と守と癒の精霊…」
「我が魔力を糧として我へ治癒薬を与えよ、ヒール・ポーション」
アルダは魔法でヒール・ポーションを生成した。理解を試して確認している。
「いずれ複霊魔法も当たり前になるだろうな」
これからの未来をアルダは想像した。
まだまだカインはアルダと話がしたい。
「詠唱省略というスキルがある事も知りました」
カインは詠唱省略について話し始めた。
「詠唱省略…聞いた覚えがあるな」
「ゼイルさんという方に教えてもらいました」
「ゼイル!ゼイルに会ったのか?」
アルダがカインの口から出たゼイルの名前に反応する。
「はい、ウォータンド国でスキルを鑑定してもらいました」
「ご存知なんですか?」
カインはアルダに聞いた。
「若い頃、一緒に冒険者をしていたんだ」
アルダとゼイルの関係が明らかになる。意外と世間は狭い。
「そうかゼイルにな…儂もゼイルに詠唱省略を聞いたんだと思う」
「確か難しいスキルじゃなかったか?」
「そうですね、難しいです」
カインは正直にアルダへ答える。
「でも騎士のスキルが目覚めたので必要だと思います」
「騎士のスキル?」
カインは自分の生い立ちをアルダに話した。
「そうか…カインは騎士の家の生まれだったのか」
『辛い思いをしただろうな…』
『しかし圧し潰されず、ここまで成長した』
『…それがカインが持つ本当の強さだ』
アルダはカインを評価している。関わった人達がカインを強くした。
カインは大事な話をまだしていない。
「カイン、そろそろ…」
「あっ、そうですね」
アーレンに切り出されてカインは本来の目的を思い出す。
「アルダさん、僕達…結婚しました!」
カインはアルダに結婚を報告した。訪問した目的を果たす。
「おぉ…そうか結婚したか、良かった良かった」
結婚の報告を聞いてアルダは喜んでいる。アルダに喜ばれてカインとアーレンも嬉しい。
「正式にはお金を貯めて冒険者を引退してからなんですけど…」
「お金も貯まってきたし、そろそろ正式に結婚できると思います」
カインは今の状況も伝えた。アルダは頷いている。
自分の人生をアルダは思い出す。
「儂も貴族の生まれでな、結婚相手を他人が決める事に反発して家を出た」
「アルダさんもですか」
アルダの話を聞いてアーレンが反応した。
「そうか、アーレンもか」『女性が冒険者になるのは覚悟が必要だったろうな』
アーレンの覚悟をアルダは想像する。
「儂は冒険者になって生きていくのに必死だった」
「結果、結婚できず今に至る」
「尊敬し合える相手と結婚できるのは幸せな事だ」
「ケンカする事もあるだろうが…末永くな、おめでとう」
アルダは祝いの言葉を伝えた。
「はい、ありがとうございます」
カインとアーレンはアルダに答える。二人はアルダの気持ちが嬉しい。
カインとアーレンは結婚の報告を終えた。アルダの家を後にする。
『私も魔法使いになったとは伝えられなかったな…』
気まずかったアーレンは自分も魔法使いになった事をアルダに伝えられていない。
「そろそろウィンダンド国へ戻ろう」
「ウィンダンド王に報告しなければいけない」
「そうですね」
カインはアーレンに答えた。本来の目的は更なる戦争を起こさせない事である。カインとアーレンはウィンダンド国へ戻る事にした。