洞窟
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
女を尾行してアーレンは人気のない森の洞窟へと入る。洞窟の中には広い空間があり、多くの男と女がいた。
『これだけの人間が何故こんな所に…』
『盗賊には見えない、やはり魔人…しかし、これが全て魔人だというのか』
目に映る光景を見てアーレンには判断が付かない。
アーレンの追ってきた女が尊大な態度の女に平伏す。
「申し上げます」
「操っていた町の人間達が正気を取り戻して操れなくなってしまいました」
女は平伏しながら報告した。
「何ですって!あんたは人間も碌に操れないの!」
平伏す女を尊大な女が踏みつける。
「も、申し訳ございません」
踏みつけられながら女は必死に謝罪した。周りの残る女達はニヤニヤと笑い、男達の表情は変わらない。
洞窟内の光景をアーレンは眺めている。
『話している内容から考えて魔人には違いない』
『しかし全員が魔人なのだろうか?』
『人間の姿をされていると判断が出来ない』
アーレンは判断に困っていた。操られているだけの人間には手を出せない。
『それにしても…見ていて気分が悪い』
「何をしているんだ、そんな事は止めろ!」
不可知の魔法を解いてアーレンは姿を現した。
洞窟内にいた男女がアーレンに注目する。
「何なのよ、あんた」
「…いい男じゃない、私の玩具に加えてあげるわ」
「こっちにいらっしゃい」
尊大な女がアーレンを誘う。鎧を着たアーレンが男に見えていた。当然、アーレンは誘いに乗らない。
「どうしたの…」
「何でこっちに来ないの?」
「男のくせに何で私に靡かないのよ!」
尊大な女は金切り声を上げる。そして魔人の姿を現した。
「男のくせに…身の程を弁えなさい!」
魔人は聞き覚えのある事を言う。
『やはりあの女は魔人、いや上位魔人だ』
『問題は他が魔人なのかどうか…』
アーレンは判断できかねていた。
カインが駆け付ける。
「アーレンさん」
カインはアーレンと合流した。火の精霊はいない。
「また男が来た、でもイマイチね」
「私の視界に入るなんて…身の程を弁えなさい」
上位魔人がカインを評して言葉を投げ付ける。
「まぁいいわ、二人で殺し合いなさい」
「男なんだから女の為にそれぐらい出来るでしょ?」
上位魔人はカインとアーレンに命じた。もちろんカインとアーレンは上位魔人の言う事を聞かない。
「どうして言う事を聞かないの…」
「男のくせに、男のくせに、…」
「もういい、男達は私の為にあの二人を殺すのよ!」
上位魔人に命じられて男達がカインとアーレンに襲い掛かる。
「そうよ、これでいいのよ」
「男は女の気を惹く為に殺し合う、女に操られる事に幸せを感じる」
「それが世の理なのよ!」
上位魔人は恍惚の表情を浮かべた。
「カイン、操られているだけの人間かもしれない」
「気を付けろよ」
「はい、もちろんです」
男達によるカインとアーレンへの攻撃は自動の盾が全て防ぐ。
「…というか、幻惑と封印を回復すればいいですよね」
カインは洞窟内で幻惑と封印を回復させた。
「何で俺達は魔人の言う事なんて聞いていたんだ」
「そうか幻惑、幻惑で操られていたのか」
男達は正気を取り戻す。
「何をしているの、殺し合いなさい」
「男達は私の為に殺し合いをするのよ!」
上位魔人は命じた。しかし誰一人として従わない。
上位魔人は呆然としている。
「諦めろ、カインがいれば操る事もスキルを使えなくする事も出来ないんだ」
アーレンが上位魔人に言い放つ。
「何よ、何なのよ、男のくせに…」
「あんた達、あの男共を殺すのよ!」
悔しがる上位魔人は女達に命じた。
「あんた何様のつもり?」
「命令される筋合いなんてないわ!」
女達も上位魔人に従わない。そして次々と魔人の姿へと変わる。
「洞窟内で回復魔法を発動したので人間か魔人かに関係なく操れません」
カインが状況の理由を説明した。
上位魔人は怒りに体を震わせる。
「キー!!!!!」
癇癪を起こした上位魔人が近くにいた下位魔人を攻撃した。下位魔人は魔石となる。上位魔人は魔石を貪り喰う。それをきっかけに魔人は争いを始めて喰い合った。
「共喰い…」
アーレンは呟く。カインを含めて男達は青ざめている。
魔人は上位魔人だけとなった。上位魔人はカインとアーレンを睨み付ける。
「カイン、あれは私に任せてくれ」
「分かりました…気を付けて下さい」
カインの言葉を聞いてアーレンはニコリと笑う。
「我に従う風の精霊…」
「我が魔力を糧として我へ風の刃を与えよ、ウィンド・ブレイド」
アーレンは魔法で剣の刃を風の刃に変えた。
「ギャー!」
上位魔人が悲鳴を上げる。アーレンの剣は早い。
「ウィンド・スラッシュ」
「ウィンド・スラッシュ」
「ウィンド・スラッシュ」
…
息もつかせぬ連続の風斬撃でアーレンは上位魔人を斬り付けた。
「男のくせに…」
上位魔人は呟く。そして魔石となった。魔石は以前に見た上位魔人の魔石よりも大きい。
男達は立ち去る。カインとアーレンは二人きりとなった。
『やっぱりアーレンさんの太刀筋は美しいな…』
『騎士になっても真似が出来ると思えない』
相変わらずカインはアーレンの太刀筋に感心している。
「見事な太刀筋ですね」
火の精霊が現れた。
「世界を巡ってお二人は強くなりました」
「今ならファイアンド王を止められると思います」
火の精霊はカインとアーレンに話し掛ける。
「火魔法の魔導書を出して下さい」
火の精霊に言われてアーレンは火魔法の魔導書を荷物から取り出す。
「上位魔人の討伐、ありがとうございました」
火の精霊はアーレンの魔導書の中に消えて魔導書はアーレンの剣と一つになった。剣の刃の片側刃元には新たに赤色で楕円の玉が付いている。鞘も変形した。
「今まで通り、呪文の詠唱という形で呼んで頂ければ力添え致します」
再び現れた火の精霊がアーレンに決まり文句を伝える。
「これからは火の魔法剣も使えますよね」
「ぜひ使って下さい」
火の精霊は伝える事を伝えていなくなった。
上位魔人の魔石を持ってカインとアーレンも洞窟を後にする。
「そう言えば…カインはどうしてこの場所が分かったんだ?」
アーレンはカインに聞いた。女を尾行したアーレンと町に残っていたカインとでは状況が違う。
「火の精霊に案内してもらったんです」
「あっ、なるほどな」
カインの説明を聞いてアーレンは納得する。町に戻ってカインとアーレンは魔石をギルドへ提出した。