魔法持ちの真実
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
ポーションの用意を終えてカインとアーレンはファイアンド国へ向かう。アーレンには気になる事があった。
「カイン、気になる事がある…いいか?」
「はい、何でしょう?」
カインはアーレンに答える。
「カインは魔力切れから目覚めて…」
「騎士のスキルが目覚めた事、魔力が回復した事、いつ気付いたんだ?」
アーレンはカインに問う。
「気付いていなければ魔人の攻撃を真面に受けようと思わないはずだ」
アーレンの指摘は的を得ていた。普通の魔法使いでは魔人の攻撃で即死する。
「それは私から説明します」
今までいなかった時の精霊が話に割り込んだ。周りに他の人間はいない。
「アーレンさんは初めまして、私は時の精霊です」
「時の精霊…」『時にも精霊がいるのか…』
アーレンを見て時の精霊はニコリと笑った。
時の精霊は話を続ける。
「カインさんは既に会っています」
「その時に私から騎士のスキルが目覚めた事を伝えました」
「魔力切れになった事で騎士のスキルが目覚めたんです」
「魔力が回復した事は自分で気づかれましたね」
時の精霊はカインのほうを向く。
「はい、魔法が使えないと不便で…」
「試してみたら使えました」
カインはアーレンのほうを見て答えた。
「ちょっと待ってくれ…試す、そんな時間があったのか?」
アーレンはカインに聞く。アーレンがカインから離れた時間は長くない。アーレンは意識のないカインをずっと見守っていた。
アーレンの疑問には時の精霊が答える。
「カインさんには過去へ行ってもらいました」
「過去!過去へ行けるんですか?」
時の精霊の言葉にアーレンは取り乱す。
「行っても大した事は出来ません、出来る事は見る事だけです」
「…そうですか」
時の精霊が答えるとアーレンは落ち着きを取り戻した。
『いつも冷静なアーレンさんにしては取り乱し過ぎな気が…』
『…まぁ、過去に行ったなんて聞いたら取り乱すか』
アーレンの様子を気にしながらも自分の中でカインは納得する。
時の精霊の話は続く。
「カインさんには過去へ行ってもらって…」
「魔法持ちになった経緯を自分の目で見てほしかった」
期待していた事を時の精霊はアーレンにも伝えた。
『という事は…』「見てはいないという事ですか?」
「はい、カインさんは我慢できませんでした」
「我慢できずに傷付いた人を治してしまったんです」
「だから全てを見る前に現在に戻ってしまいました」
時の精霊は結果をアーレンに告げる。カインは何も言い返せない。
『我慢できずに傷付いた人を治してしまう…カインらしいな』
結果を聞いてアーレンは微笑んだ。
魔法持ちになった経緯を今更ながらカインは知りたい。
「魔法持ちになった経緯はもう教えてもらえないんですか?」
「いえ、それを伝えに来ました」
時の精霊の返事を聞いてカインは安心する。
「過去へ行ってカインさんは盗賊に襲われている人達を目撃しましたよね?」
「はい、二度目撃しました」
カインが答えると時の精霊は頷いた。
「二度目の時の話です」
「盗賊は馬車の中に押し入りました」
「カインさんは馬車の中も確認せずに回復魔法を発動させています」
「もし中の人が傷付いていたらと考えたんですよね?」
過去に起こった事を時の精霊は話す。何があったのかアーレンにも伝わった。
「はい…その通りです」
カインが時の精霊に答える。精霊に隠し事は出来ない。
「その馬車の中にリリアナさんがいました」
「えっ…母さんが?」
時の精霊が伝えた事実にカインは驚く。
「そして、リリアナさんの中に生まれる前のカインさん自身がいました」
「胎児の状態で回復魔法を受けた結果…」
「回復魔法を取り込んで魔法持ちとなったのがカインさんです」
魔法持ちになった経緯が時の精霊から明かされた。カインとアーレンは唖然としている。
「騎士のスキルが封印されていたのは回復魔法の影響が強すぎた為です」
「魔力切れとなった事で一時的に影響が消えて騎士のスキルも目覚めました」
時の精霊が付け加える。
「じゃあ…カインがカインを魔法持ちにしてしまったという事ですか?」
「本来なら別の魔法使いがリリアナさん達を治すはずでした」
アーレンの疑問に時の精霊は答えた。カインが城下町で会った魔法使いの事である。
カインは言葉が出ない。
「この事は他言無用でお願いします」
「馬鹿な人間が人体実験をしないとも限らないので」
「分かりました」
アーレンが時の精霊に答える。全てを話し終えて時の精霊はいなくなった。
カインとアーレンは二人きりに戻る。
「母さんが傷付けられた結果、僕の力は生まれたんですね」
何もない空をカインは見つめた。
「思えば騎士のスキルが目覚めたのも戦争があったからだし…」
「…僕って何なんだろう」
カインは自分の存在を見失っている。
「しっかりしろカイン!」
アーレンはカインを一喝した。
「傷付けられた結果じゃない、助けた結果だ」
「傷付いた者を助けようとする想いがカインの力を生んだんだ」
「それにカインがいなければ更に多くの人が戦争で傷付いていたはず」
「冷静になれ!」
アーレンはカインに訴える。そしてカインを抱きしめた。
「私の愛するカインを悪く言わないでくれ…」
自身の気持ちをアーレンは言葉に変える。言葉を聞いてカインもアーレンを抱きしめた。
カインが口を開く。
「過去で盗賊を二度目撃したと言ったんですけど…」
「一度目の時は父さん達が盗賊達を捕まえていました」
「誰かの為に行動する父さん、かっこ良かったな」
カインは父ガルドを思い浮かべた。
「カインはお義父さんに似ているんだな」
「えっ?」
「何でもない」
カインに聞き返されてアーレンは誤魔化す。アーレンはカインの原点を知った。
ブックマーク等して頂けると励みになるので、もし宜しければ お願い致します