王との謁見
この物語はフィクションです、実在の人物や団体とは関係ありません
「」で囲まれた箇所は口に出した言葉、
『』で囲まれた箇所は心に思った言葉、になります
ディアナはカインとアーレンとともに謁見の間でウィンダンド王に謁見する。緊張してカインは王の顔をはっきりと見れない。
「緊張しなくていい、気楽にしてくれ」
王は三人に声を掛けた。カインは王の顔をはっきりと見る。
『あれ?』
会った事がないはずの王の顔にカインは見覚えがあった。
「ガルドは私の友人だった」
「ディアナとの結婚を説得したのも私だ」
「あっ!」
王の話を聞いて思わずカインは声を出す。王はガルドのもとへ来た客の一人だった。遠くから顔を見た事がある。
「私の顔に見覚えがあるか?」
「はい…失礼しました」
「ハッハッハッ、構わない」
王はカインを怒ってなどいない。
王の表情が神妙な表情になる。
「ガルドの葬式に参列できず、すまなかった」
「いえ、お立場もご公務もあるでしょうから…」
ディアナが王に答えた。王はガルドの事を思い出している。
「この世界では…」
「同じジョブの家柄で子どもを生さなければ国が強さを保てないと言われている」
「確実にする為、王族貴族は結婚で男女ともに自分の意思が許されない」
王は王族貴族の結婚について話し始めた。アーレンは俯いて静かに聞いている。
「しかし、ガルドは愛し合うリリアナと自分の意思で結婚した」
王の話を聞いてアーレンは顔を上げた。
「自分の意思による結婚が認められたんですか?」
「批判の声はあった」
「苦労した思う」
「ただ、リリアナも騎士の家の人間だったから特例が認められたんだ」
アーレンの質問に王は答える。アーレンは頷いた。
「しばらく二人の間に子どもは生まれなかったが…」
「ようやく二人の間に生まれた待望の子どもがお前だ、カイン」
王の話を聞いてカインは嬉しいような恥ずかしいような何とも言えない気持ちになる。王はニコリと笑った。
王の表情が変わる。
「戦争が起こる前、ガルドが話してくれた…」
「カインは騎士のスキルが封印された魔法持ちなんだな?」
カインの事を王もガルドから聞いていた。王はカイン本人に確認する。
「はい、僕は魔法持ちです」
「でも今は騎士のスキルも目覚めました」
正直にカインは王に答えた。
「そうか、騎士のスキルも…」
「回復魔法を使うとか?」
「そうですね、回復魔法であれば魔導書とかがなくても使えます」
カインは自分の事を王に隠さない。
「戦場で戦争を止めようとしている二人がいた、と聞いた」
王の言葉を聞いてカインとアーレンはドキリとした。二人は冒険者という立場で国の事に介入した事になる。
「そして誰も傷付く事が出来なくなって戦争は終結した」
「戦争を止めようとしたのはカインとアーレンだな?」
玉座の置かれた檀上を下りながら王はカインとアーレンに問う。カインとアーレンの二人は逃げられない。
「…はい」
王の問いにカインとアーレンは事実を隠せなかった。
「王として礼を言う、ありがとう」
王は礼とともに頭を下げる。
「そんな、頭を上げて下さい王!」
周りで聞いていた御付きの者達は取り乱した。
「静まれ!国の為に動いてくれた者へ頭を下げる事は王として当然の事だ」
王は御付きの者達を一喝する。
「国として侵略へ抗わないわけにいかない」
「しかし戦争が長引けば長引くほど血は流れる」
「それを止めてくれた、感謝しかない」
カインとアーレンに王は気持ちを伝えた。
王は頭を上げる。
「しかし…まだ終わっていない」
「またファイアンド軍が攻めてくるかもしれないからだ」
悲しい現実を王はカインとアーレンに伝えた。
「カイン、アーレン、ファイアンド国へ向かってくれ」
「これ以上、戦争なんてしたくないんだ」
二人を呼び出した本当の用件を王は伝える。
「二人は冒険者だと聞いた」
「本来なら二人に頼むのは筋違いだという事は分かっている」
「しかし二人にしか出来ないと判断した」
「頼む!」
王は再び頭を下げた。
『僕達はファイアンド国から逃げてきたんだけど…』
『…確かに今の現状を放っておけない』
カインとアーレンは顔を見合わせる。アーレンが頷く。
「分かりました、お引き受け致します」
カインはアーレンとともに王の頼みを引き受けた。
アーレンには気になる事がある。
「一つ聞いて頂きたい事があります」
「聞かせてくれ」
アーレンは王に切り出した。
「先日、町に魔人が現れました」
「魔人だと!」
アーレンの魔人という言葉に王は驚く。
「魔人はカインが討伐しました」
「ただ、魔人はスキルを使えなくする能力を持っていたのです」
「その魔人は自分を上位の魔人と名乗っていました」
「スキルを使えなくする魔人、上位の魔人なんてものがいるのか…」
アーレンからの説明で上位魔人の恐ろしさが王にも伝わった。人間はスキルによって魔物に抗う。スキルがないと抗う事が難しい。御付きの者達もざわついた。
「ちょっと待ってくれ、その上位魔人をカインは討伐したのだな?」
王は重要な点に気付く。
「はい、カインはスキルを回復する魔法を持っています」
「再び上位魔人が現れないとも限りません」
「スキルを使えなくする能力…」
「言うなれば封印を回復するポーションを用意すべきだと思うのです」
アーレンは自分の考えを王に進言した。
「なるほど…分かった」
「先ずは封印を回復するポーションを用意してくれ」
「次いでファイアンド国へ向かってほしい」
「分かりました」
カインとアーレンは王に答える。先ずは新しいポーションを用意する事になった。
『二人の手伝いを手配しなければならないな』
『相手は魔人、サネティ・ポーションも別途で用意させよう』
王は上位魔人への対策を考えている。王は先を見ていた。
謁見の間からカインとアーレンは退室する。
「すまなかったな、ディアナ」
ディアナも退室しようとすると王はディアナに声を掛けた。
「気になさらないで下さい」
「二人には力がある、仕方のない事です」
ディアナは覚悟を決めている。
「リリアナの事もだ」
王は付け加えた。
「リリアナさんは同じ男性を愛した女性です」
「それにカインは私の息子でもあるんです」
「そうか、失礼した」
王の言葉を聞いてディアナはニコリと笑う。ディアナも謁見の間から退室した。