童話の神様は冬の童話祭2024を応援します
(ふむふむ。冬の童話祭2024のテーマは「ゆめのなか」っすか。どんなお話が読めるっすかね~。投稿が始まるまで2週間。楽しみすぎて、わくわくが止まらないっす~♪)
企画サイトが公開された2023年の11月30日。
その日の僕・ムリグゥは、締め切りまで1週間を切った今日になっても作品が全く投稿されない非常事態が起きるなんて、夢にも思ってなかったっす。
今思えば、前兆はあったっす。企画サイトが公開された翌日から、童話の投稿数が目に見えて減り始めたっす。
でも、当時の僕は、作家さんたちが童話祭2024用の作品執筆に切り替えただけだろうと、軽く考えてたっす。
ところが、そうじゃなかったんすよ。
投稿受付開始の12月14日、その日を境に、童話の投稿が完っ全っになくなっちゃったんすぅーーーーーっ!(エコー&フェードアウト)
僕が落ち着くのを待ってましたと言わんばかりのタイミングで、気分が重くなるトーンの女性の声がしたっす。
「ねえムリグゥさん、この状況、異常だと思いませんか?」
「うわっ! ああ、ナヤンデルさん。驚かさないでほしいっす」
彼女は「なろう神界」の童話世界異世界部の担当神。童話世界を担当してる僕の同僚でありライバルっす。
昨日まで長期休暇を取っていた彼女は、今日になって異常を知り、僕のところへやってきたというわけっす。
そう。彼女が担当する異世界部も、同じように投稿が途絶えてたっす。
いったい何が起こってるっすか…?
…………。
………。
「……ねえムリグゥさん。私、調べたいことがあるんですけど、協力してもらえませんか?」
僕と目が合ったタイミングで、ナヤンデルさんが沈黙を破ったっす。
「調べるって……何をっすか?」
「難しいことじゃありません。童話以外の世界でも同じことが起こってるかどうか? それを聞いて回るんです」
彼女の言葉を聞いた僕は、頭の中で除夜の鐘が鳴り響く以上のショックを受けたっす。
確かにそうっす。この異常が童話世界だけで起きてるんなら、僕とナヤンデルさんが力を合わせれば必ず解決できるっす。
もし、他に同じことが起きてる世界があったとしても、そこの担当神を巻き込めば同じ事っす。
僕は、同僚の神たち、特にナヤンデルさんはライバルとしてだけ見てて、協力しあう仲間でもあるという意識が無かったっす。
今まで彼女が僕より一歩先にいたのは、ある意味当然だったんすね……。
☆
「なろう神界」中を聞いて回ったら、異常が起きてるのは異世界部を含む童話世界だけってことが分かったっす。
僕とナヤンデルさんがタッグを組んでるから、もう解決したも同然。楽勝っすね♪
…僕は嬉しさのあまり、「楽勝っすね♪」を声に出しちゃったらしいっす。
「ムリグゥさん、それ、フラグですから…」
「まっさかぁ~。そんなこと、ありえないっすよ♪」
この後、僕はお約束の力を身をもって体験することになるっす……。
☆
「やいムリグゥ、この件から手を引くっす! じゃないと、お前の黒歴史を投稿するっす!!」
「ナヤンデルちゃん、暗くて重いキャラを演じるのは辛いんでしょう? 私を受け入れちゃいなさいよ」
僕の姿と僕の声で僕を脅してるのは、僕が神になるための修行で追い出した悪の心が実体化したブロス。そして、ナヤンデルさんに迫っている可愛らしい少女は、彼女が追いだした悪の心が実体化したセンっす。
童話世界への投稿が無くなったのは、何者かが作品を横取りしてたからだったっす。それが分かった時点で、犯人はブロスとゼンだと分かったっす。
この二人、元は僕とナヤンデルさんの一部っすからね。指紋認証も網膜認証もパスできちゃうんすよ。
でも、不思議っす。どうやって「なろう神界」に入ったんすかね?
悪の心はアカナイの壺に封印されてたはずなんすけど…? いや、今はそんなことを考えるより、ブロスとゼンをどうするかを考える時っす。
二人の要求を呑むのは論外。ここで僕たちが手を引いても、問題は何も解決しないっす。
投稿された作品には、作者の思いがこもってるっす。
多くの人に読んでもらって、楽しんだり、想像を膨らませたり、考えたりしてくれたら嬉しい。
作者は、そんなことを願ってるはずっす。
少なくとも、悪の心の力になってほしいとは、絶対に思ってないはずっす。
作者の思いをかなえるためには……。
僕は覚悟は決めたっす。全神力を使って、二人を封印するっす。
幸いにも、僕の足元にはアカナイの壺が転がって……て……!?
工工エエェェ(*´Д`*)ェェエエ工工
「な、なんで? なんでこんなところにアカナイの壺が落ちてるっすかぁーーーーーっ!」
あわてて壺を手に取ったら、……封印の期限が切れてたっすーーーーーっ!
「ムリグゥさん、封印には有効期限があるって、新神になったときに説明を受けましたよね? 私と一緒に、私の隣の席で……」
た…、確かに聞いたっす。封印は2年に一度、神力を使って更新しなさいって……。
うわぁぁぁぁぁぁぁ、いやな汗が出てきたっす……。
僕は、ゆっくりとナヤンデルさんのほうを向いたっす。首を動かしてる間は、「ギギギッ」って音が鳴ってた気がするっす……。
「ムリグゥさん」
「ハイっす」
「あなた、忘れてましたね…?」
僕には、返す言葉が出てこなかったっす……。
「これはチャンスっす」
紛らわしいけど、セリフの主はブロスっす。
ブロスは茫然としてる僕からアカナイの壺を奪い取ると、封印の呪文を唱えたっす。
「我と別れし者を、永遠に封じるっす」
僕は何の抵抗もできないまま、壺に吸い込まれたっす……。
「クッ、ここから出すっすーーーーーっ!」
何も見えない暗闇の中、思いっきり振り下ろした手は空を切ったっす。
が! 僕は、自分の大声で目を覚ましたっす。
「えっ!? ……今のは…もしかして……夢……?」
冷静になった僕は、思い出したっす。
悪の心をアカナイの壺に封印したのは、実際にあったことっす。
でも、封印に有効期限があるなんて説明は、実際には無かったっす。
あの日の僕は、誰よりも真剣に説明を聞いてたから、間違いないっすよ。
そもそもの話、僕は神になって5年目っすけど、封印の更新なんてしたことがないっす。
まったく、長期休暇明けの初日だというのに、縁起でもない夢を見ちゃったっすね~。
それじゃあ、気を取り直して、溜まってる作品をありがたく読ませてもらいに行くっす♪
「さあーて、読むっすよ~♪」
ウッキウキな僕のところに、深刻そうな顔のナヤンデルさんが現れたっす。
「ねえムリグゥさん、この状況、異常だと思いませんか?」
「えっ!? ……ナヤンデル…さん…?」
い、いったいどうなってるっすか? 彼女のこのセリフ、僕が見た夢のまんまじゃないっすかぁーーーーーっ! まさかの…正夢…?
僕は心の中で深呼吸し、平静を装って。
「異常って、何かあったっすか?」
「それがですね、実は、冬の童話祭2024の投稿作品数が」
僕は、彼女の言葉を遮り。
「童話の投稿が一つもなかった……とか?」
「逆ですよ、逆、逆。冬の童話祭2024は、過去最高の投稿数を連日更新中なんです!」
興奮気味なナヤンデルさん。こんな嬉しそうな声、めったに聞けないっすよ。
そしてその嬉しさは、僕にもしっかり伝わって。
「あーーー、よかったっすーーーっ! 僕が見たのは逆夢だったっすね~」
「逆夢って…。ムリグゥさん、どんな夢を見たんですか? 私、とても気になります。ねえ、教えてくださいよ……」
ナヤンデルさんには悪いけど、どんな夢だったかを話す気はないっす。
夢の中とはいえ目の前で大失敗しちゃったなんて、ライバルには言いたくないっすからね。
☆
最後に、冬の童話祭2024に参加してくれた皆様に、心から感謝してるっすーーーーーっ!
ありがちなオチでごめんなさい <(_ _)>
ムリグゥの口調は飯野平太のアレンジ、ナヤンデルの口調は重山つら美のアレンジです。
中の人の声で読むと、よりお楽しみいただけるかも(笑)