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カテルンジャーの日常

 俺は、負ける戦いはしない。


 それが彼のポリシーであり、口癖である。

 響 直人(21)。

 就職活動も大詰めになっている今日この頃。


 彼は学生の仮面をかぶりつつ、今日も己の信ずるところを突き進んでいる。


「響ー 今日は一日講義だろ。何かできることあるか?」

「お前は勧誘だ! 秘密結社てきの構成員が大学構内にも潜伏している。この機会に戦力を削ぎつつ俺たちの勢力を拡大する!」


 現在、こちらの勢力は日増しに拡大しつつある。

 それもこれも「相手の隊員を買収して味方につける」という素晴らしい秘策にたどり着いたからこそである。


「わたしは今日三限だけだよ。何かしようか」

「朝比奈はジャスティスにFAXを送れ! 例のやつだ」

「オーケイ。端っこテープで止めてエターナルに送るやつね! わたしあれ好き!」


 秘密結社ジャスティス。

 世の中を正義に塗り替えようとする、悪の秘密結社。

 今時FAXなんて所有している組織があるのかと思われるかもしれないが、先週、隊員募集のチラシに書いてあったからきっと現役だ。


 響は機嫌よく跳ねるように去っていく同級生の朝比奈の後ろ姿を視界に、その実遠いところを眺めやっている。



 ジャスティスには過去に散々な目に合わされた。もう二度とあんな辛酸は飲みたくない。飲むわけにはいかない。だからこそ。



 どんな手を使ってでも、あいつらに勝ち続ける。

 そう


「俺は、負ける戦いはしない」


 かっこよく聞こえるが、要するにそれは手段を問わないということだ。

 「負ける算段はしない」ともいう。戦術的には何も間違っていない。

 やたらと歴戦の猛者のような、あるいは策略家のような錯覚を受けそうだが、物は言いようである。


「オレ、お前の卑怯なところ割と好きだぞ」

「岡田、俺は勝てる算段しかしていないだけだ。お前は出前の大量発注でもしておけ! ピザとかカロリー高めのやつ」

「もっと訴えられなさそうなやつにして。この間開発してただろ」

「紅茶をベルガモット風に変える『ダークマターΩ』だな。よし、行け。俺が許可する」


 岡田も上機嫌で謎物体を手に、去って行った。


「今日は俺は動けない。二人とも、くれぐれも頼んだぞ……!」


 明日は敵基地潜入のミッションがあるのだ。計画は綿密に練らなければならない。


「俺は、負ける戦いはしない。負けられないんだ……!」


 まずは敵組織のスマホの待ち受けを、誰かに見られたら恥ずかしいものに片っ端から変えてやる。

 トイレは既に清掃員のおばちゃんを全員買収済み。明日にはすべて完全封鎖だ。

 もしも敵に囲まれた時の秘策も当然に用意してある。

 この時のためにあらゆる公園を回って地道に野良猫を手懐けた。それももふかわいい子猫選抜だ。

 やつらは例え俺たちを囲っても、愛らしいもふシールドにもだえながら小指の一本すら届かず、その場に釘付けになるのだ……!


 それだけではない。すでに先兵も送ってある。

 モモンガ3匹は奴らの中枢だ。

 あいつらは一見かわいらしいが、止まられた瞬間にかわいー!と叫ぶ人間の上で用を足す。天使の顔をした悪魔だ。

 止まられたら最後。天国から地獄の急転直下(フリーフォールを味わうがいい。



 危険をかえりみずに 絶対必勝の作戦だけをひっさげて、彼は突き進む



「ジャスティス、俺はお前たちの正義の悪行を、必ず根絶やしにしてみせる……!」



 彼は知らない。

 あまりにも忙しく就職活動がおろそかになったがために、適当にエントリーしておいた就職先に一本釣りされて、翌春にはその組織に入る未来を。


 彼の未来の就職先、それは「秘密結社ジャスティス」という。

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